8.図書館 ○
来た道を帰り村長宅にたどり着く。家を出た時には気付かなかったが村長宅には看板がかかってた。
"オルガ治療院"
「あのおじさん治癒魔術使えたのか...」
魔術を使える人が少ないことは聞いていたがこんなにも身近に使える人がいたのは予想外にうれしいことであった。
「先に魔術のことについてオルガさんに教えてもらうか、それともこの世界の情報収集に行くのが先か。まぁまだ魔術に関しての知識が少ないから情報収集に行くのが先か。帰ってきてから教えてもらえばいいし。図書館的な建物があればいいんだけどな...」
家の中に入るとオルガは椅子に座って本を読んでいた。
「ただいま戻りました。そういえば登録費余りましたのでお返ししますね。」
レンヤはポケットに入れてあった銀貨をつかむと村長へと渡そうとする。
「そのお金はとっておきなさい。たいした金額ではないがいろいろといるものもあるじゃろ。」
「ありがとうございます。そういえば剣を預かってもらってると思うのですが今はどこに?」
「あそこにある変わった形の剣じゃ。ちと見させてもらったが片方の側しか刃がついておらんのはこの辺の国では珍しいの。もうモンスターの討伐でも依頼を受けてきたのかな?」
「いえ、すこし調べたいことがあるのですが、この村に図書館みたいな本が読める場所はありますか?」
「村の図書館じゃったら主要都市と比べたら小さいがちゃんとあるぞ。ここからじゃとギルドと反対側じゃ。何か書くものがいるじゃろ、裏紙じゃがこれでも持っていきなさい。」
オルガは自分で何かを書いていたのであろう紙束と棚の中からインク瓶と羽ペンを取り出しレンヤに渡す。
「もう捨てるものじゃったから自由に使いなさい。図書館は誰でも使うことができるが貸し出しはできんからしっかりと勉強してきなさい。」
「わかりました、それでは行ってきます。」
家を出て歩こうとするが手に持ったまま歩き瓶を落として割るといけないのでアイテムボックスに収納することにする。羽ペンとインク瓶が上にのせられた紙束を手のひらに持ち、軽く上へ放り投げるように上に挙げると羽ペンとインク瓶、紙束は姿を消した。最初に道端に落ちていた石を拾ってやってみた時には驚いたがこれできちんとアイテムボックスに収納されているらしい。ステータスを確認してみるとアイテムボックスに収納されているアイテムがリスト形式で表示されている。一連のスキルの使用方法はギルドからステータス画面を見ながら帰っていたので大体は理解できていた。ちなみに取り出すときは手のひらを上に向けて取り出したい物を思い浮かべるだけでいいらしい。なんと便利なんだろう。
図書館は意外とすぐに見つかった。他の建物はレンガ造りになっているのに対し図書館は白い石をきれいに箱型に加工して組み立ている建物であり目立っており、看板も出ていた。ドアを開けて中に入るとだいたい20畳ほどの広さだろうか、少し大きいくらいの家のリビングほどの広さの一部屋であり、所狭しと本棚が並び、小さな机が一つに椅子が四つ、そして入り口に面してカウンターがあるだけであった。カウンターには誰も座っておらず、図書館は誰もいない空間となっていた。
「オルガさんも自由に使っていいって言ってたし使わせてもらうか。」
レンヤは一通り本を見て回る。料理や英雄伝、図鑑と様々な本が並んでいる。
英雄伝の本は日本でいう絵本のようなものだろうか、見開きに文字と大きな絵がついており、主人公が龍や巨人などの魔物を討伐しに行ったり仲間を連れて魔王を倒しに行くような内容が多かった。
そしてお目当ての歴史の本は見つかったのだが隅の方に一冊だけであった。
「まぁこの世界の、この国の人間ならわざわざ読まなくても知ってるか。」
古いはずなのにあまり読まれてないためなのか比較的新品のように見える表紙を開ける。
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”ヴィルダ史”
―神創期―
神が世界ヴィルダを形成する。この時の神を主神という。
植物を生やし最初は楽しんでいたがだんだんとつまらなくなり動物を作る。
動物が増えすぎたため人間を作る。
人間が集まることで国が五つつくられ、統治を始める。この時つくられたのがベルガルト神国・グライズ王国・バンガル帝国・ルワン宗教国・キルトス連合国。神国は主神を信仰しそれ以外の各国の人間が別々の神を信仰することで新たに四体の神が生まれる。
主神が獣人をつくる。獣人の国家、フィルスト獣人国が誕生し、独自の神を信仰。新たな神の誕生。
主神がエルフやドワーフ、精霊種等を創造する。同様に独自の神を信仰することで新たな神が誕生する。
主神が土地をめぐる人間や獣人の争いに心を痛め、共通の敵をつくることにする。魔物が誕生する。
―戦乱期―
魔物の中に知性を持つものが誕生する。魔族の誕生。
魔族をまとめるもの、魔王が誕生する。強大な魔術を行使し、人間と獣人の国に戦争をしかけて領土を拡大していく。
人間、獣人の不利に信仰されている神々が手助けをしようと協力して五人の勇者を召喚する。
勇者によって魔王が討伐され、魔族の力が弱体化する。勇者はそれぞれグライズ王国、バンガル帝国、ルワン宗教国、キルトス連合国、フィルスト獣人国に属し、余生を過ごす。後の五大国の始まり。
―勇亡期―
各勇者の死後、五大国を中心としてきたが、グライズ王国の反乱を機に各国で内乱が起こり、国が分裂し多数の小国が誕生する。国同士の戦争も始まり国の合併や消滅が繰り返される。五大国は最初に神が勇者を召喚した魔法陣を使い勇者を再召喚することで対外戦力強化を図る。戦力としては強力すぎる勇者が五人召喚され、大国が牽制し合っていたが、グライズ王国がベルガルト神国を滅ぼしたのを機に世界的な戦争は減少した。現在では勇者が死亡するたびに新しい勇者が召喚される。
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簡単にまとめるとこのようになった。
「どこの世界でも戦争によって世界がつくられるんだな...てか主神不憫だな。」
どこの世界でも変わらない真実に若干の暗い気分になるがこの世界の成り立ちについては理解できた。
壁に貼られていた地図に目を向けると自分がグライズ王国にいることが分かるが歴史書にある地図とだいぶ形が違うことから多くの独立国が出来たことが分かった。
ふと目を地図から離すと魔術に関する本を見つけた。何冊かあったが内容を軽く読んでみると理論について書かれた本が多く、詠唱が載っているのは数冊に絞られていた。理論的なものはハルクに軽く教えてもらっていたため、知りたいと思っていたのは主に魔術の詠唱であり、詠唱が載っているものを本棚から取り出し、机に持っていく。椅子に座りアイテムボックスから紙束やインクを取り出し本を読み始める。
最初の方にはほとんどすべての本に簡単な理論が載っていた。
"魔術には基本属性として火、水、風、土の4つであり、派生属性として光と闇となっている。それぞれの魔術は初級、中級、上級、帝級、精霊級、神級に分かれており、上の級になるほど消費マナ量は増加し、使える人は少なくなる。国に使えている宮廷魔導士のような職種では属性魔術の上級が使えることが最低条件とされている。基本として魔術は杖などの魔術補助具を使用するが、マナの扱いが得意な者では補助具なしで使用できる。しかし中途半端な訓練では体内のマナが暴走し最大保持マナ量が減少もしくは魔術が使用できなくなるという報告がされているため、今現在では補助具なしに挑戦する者は少なく、自分にあう魔術補助具を使用することが進められている。一般的に魔術が使えるかどうかは遺伝によると報告されているが、近年の魔術師不足から、中級程度までであれば危険性は低いため、魔術使用可能の人材を発掘するため詠唱が公開されている。上級以上では破壊力が危険なものとなるため詠唱文は国立の学院の閲覧禁止書架や国が所持している。"
内容を簡単にまとめるとこのような感じであった。魔術を使える者はその国の戦力となり得るので国も人材確保に必死になっているみたいだ。
初級と中級を見てみるが"ファイアボール"などのボール系やランス系、ブレード系といった魔術が基本となっていた。
「うわっ、テンプレ...」
気にしたらダメなのかもしれないがよく小説である分類に思わずため息が出た。
「まぁ、想像しやすいからいいのかもな...いい方向に考えるか...」
レンヤはとりあえず書かれている詠唱を紙に書いていく。そしてこの本に書かれている詠唱が4つの基本属性であることに気付く。
「派生属性だから光と闇は使える人が少ないのかな...」
ふとそうつぶやくと自分のお腹が空腹を主張してきた。誰かに聞かれたのではないかと恥かしくなり、急いであたりを見渡してみるが誰もおらず、聞かれなかったことにとりあえず安堵する。書き始めてからどれほどたったのだろうか、自分の腹が鳴り、朝起きてから何も食べていないことに気付いた。そして本を何冊も持ってきたせいで机の上が本だらけとなっていることにも気づいた。
「そろそろ帰るか。」
机の上の本を片づけ、紙束類を再びアイテムボックスに収納し図書館から出る。いつの間にか太陽は消え、空にはオレンジ色の夕焼けが広がっていた。