6.村長さん ○
窓の外が明るい。
もう朝なのだろうか、鳥の鳴き声が聞こえる。
錬也は目を開けて上半身を起こし、机に置かれてあった眼鏡をかけて窓の外を覗いてみる。自分が2階にいるためか、赤いレンガで作られた家が多く建ち並ぶ光景が目に写った。
ベッドから降りるとそばに置かれてあった靴を履き、手で触ることで自分の服装を確かめる。素材は日本で売っているものほど良くはないが布地であり、上は濃い緑の無地のTシャツらしきものと濃い茶色の長ズボンだった。鏡がないので確かめようは無いが見た感じ手や足の長さや肌の色からして日本にいた時のままの姿をしてしているのだろうと思い、転生ではなく転移したのだと考えた。
「“ステータス”」
――――――――――――――――――――
名前 レンヤ ヒイラギ
種族 人間
身分 なし
HP 150
MP 260
魔力 200
知力 26
敏捷 23
運 20
スキル
・言語理解 (ユニーク)
・鑑定 (UR)
・剣術 Lv3
・アイテムボックス(UR)
Message
新着無し
――――――――――――――――――――
「MPが10上がったか...てことは練習するほどMPは上がるんだろうね、テンプレだけど。昨日の手紙からしてここは村長のらしいからとりあえず降りてみるか。」
ステータスの画面を閉じると部屋のドアへと向かう。ドアを開けると下につながる階段がある他にもう1つ閉まっているドアがある廊下に出た。ドアがあるということはもう一つこの家の持ち主か客人用の部屋があるのだろうと考える。とりあえず階段を降りて下の階に降りてみる。下の階にはリビングと玄関が一緒になっており、広い空間が広がっていた。窓には外の通りを行きかう人たちが見える。どうやらこの世界は外国のように靴を脱ぐ習慣は無いようだ。
真ん中にぽつんと置かれたテーブルには椅子に座る1人の男性の老人だろうか、後姿が見える。錬夜はどう声をかけるべきか考えていると老人が気配に気づいたのだろうか、錬夜の方へと振り返った。
「ほぉ、目が覚めたかの。二日間も寝ておったからこのまま死ぬかと思ったわい。」
「おはようございます。すみません、ご迷惑をおかけしたみたいで。」
「よいよい。三日前の夕方に儂の家の前に倒れておったんじゃ。何か覚えておるかの?」
「すみません、記憶がないんです...レンヤという自分の名前は思い出せるのですがそれ以外のことはさっぱりと...」
「わしはこの村の村長をしておるオルガじゃ。ふむ...記憶喪失か。すまんがおぬしが寝ておる間にカラ石で検査させてもらったから名前と犯罪歴がないことは分かっておったがそれ以外は思い出せぬか。」
「カラ石とは何ですか?」
レンヤは立っていた階段の近くから老人の方へと移動しながら尋ねた。
「カラ石も思い出せぬのか。まぁ遠い村までは普及しておらんかったから知らんでもしょうがないのかの...カラ石とは昔この国の首都におった賢者様が水晶に魔術を組み込んだ物で水晶に手をかざすと名前と過去の犯罪歴が分かる石じゃ。スキルは表示できんから安心せい。今ではほとんどの村に一つは設置されておるがおぬしのおった村ではまだ普及しておらんかったのだろうの。ステータスを確認できるようになるステータスプレートが冒険者ギルドに登録することで配布されるんじゃがその様子だと持っておらんかったようじゃし、知らんようじゃな。よっぽど遠い村から来たんじゃろ。まだ冒険者ギルドがすべての村に設置されているわけではないからの。さてレンヤ殿、起きたばかりで聞くのもなんじゃがこれからどうするおつもりかな?」
レンヤは当然いつまでもここにお世話になるわけにはいかず、自立できるようにならなければならないと考える。
「とりあえず冒険者ギルド?に登録します。それからのことは登録した後に考えます。僕でも登録することは出来ますか?」
ここで冒険者になるのは一般的な展開だがこの世界のことを知らないのでまず知る事から始めなければならない。
「すぐに追い出す訳ではないから安心せい、一応聞いてみたまでじゃからの。冒険者ギルドは広く門戸を開いておるから大丈夫じゃろ。得物は剣を使うのかな?倒れておった時に剣は持っておったみたいじゃからな。じゃが金やら他の荷物は無かったからこれを持っていきなさい。」
老人は椅子から立ち上がり壁際にあったタンスから袋を取り出すと銀色に光る硬貨を5枚取り出した。そしてレンヤのもとへと戻るとその硬貨をレンヤへと渡した。
「登録費を持っておらんじゃろ。これを使うとよい。」
レンヤは手のひらに置かれた硬貨を見つめていると硬貨の横にステータスを表示した時のような半透明の画面が表れた。
――――――――――――――――――――
鑑定スキル発動
・銀貨
大陸で共通して使用されている硬貨の一つ。
続きを表示しますか?
はい いいえ
――――――――――――――――――――
どうやら鑑定スキルが発動したようだ。そういえばスキル等の確認をしていなかったことを思い出した。とりあえず視線を はい に向けてみる。
すると自然と下に説明が追加された。
――――――――――――――――――――
・銀貨
大陸で共通して使用されている硬貨の一つ。
この大陸には8種の硬貨が存在し、
半銅貨 1C
銅貨 10C
銅板 50C
銀貨 100C
銀板 500C
金貨 10000C
金板 50000C
白金貨 100000000C
という相場となっており C は単位として扱われている。
金貨以上は使用するケースが稀なのでここから一枚当たりの価値が大きく上がる。
――――――――――――――――――――
「どうしたのかの?急に無言になったりキョロキョロしたりして。まさか貨幣すら覚えとらんのか。」
レンヤが読み終わるとオルガに声をかけられ、硬貨から目を離すと説明の書いてあった画面が消えた。どうやら鑑定やステータスを表示する画面は他の人からは見えないらしい。
「いえ、何でもありません。貨幣のことは覚えていますよ。お金ありがとうございます、後できちんと返しますね。」
「かまわんよそんなこと。冒険者ギルドの場所は分かるかの?この家を出て右にまっすぐ進むと看板が出ておるし大きな建物じゃからすぐ気づくじゃろ。字は読めるかな?」
「はい大丈夫です。それでは行ってきます。」
言語理解のスキルがあるから文字も読めるだろうと思い、まず最初に冒険者ギルドに行くため玄関を出ていった。




