57. アベル伯爵護衛依頼完了
お待たせしました
「うーわ」
もはや目の前にした城の大きさを言葉に表すほどでもないだろう。
ただただ大きいでは言い切れないほどの巨大で白く、風格の漂う西洋風の城があった。
「どこぞの夢と魔法の国の城よりも大きいんじゃない?行ったことないけど」
中心に主要であろうひときわ大きい建物があり、それを囲むように大小さまざまな塔が建てられている。
ライトアップなんて技術はもちろん無く、所々松明の炎で明るく照らされているが、それだけで十分幻想的な雰囲気を醸し出していた。
レンヤ一行は城の門へと近づくと、門がひとりでに開き馬車を中へ通した。
門の内側には鎧を着た騎士が立っていたためアラサイルが近づいてきたのを確認して門を開けたのだろう。
正面から右側で二番目に高い塔の元、その入り口で馬車から降ろされえて連行されるようにレンヤ達冒険者四人は中へと入っていき、ブレイアはそこで馬を借りるとそれにまたがる。
「では皆さま、私は職場に戻りますのでこれで失礼します」
そう言うとブレイアは馬の上から軽く頭を下げる。
「おぅ、またな」
ロベルトは手を挙げてそれに答えると手を振る。フェリプたちも無言であったが軽く頭を下げていたのでレンヤもそれにつれられ頭を下げた。
「レンヤ様、あなたとはまた近いうちに陛下の御前でお会いするかもしれませんね」
「...そうならないことを祈ります」
陛下の謁見なんて何をやらかせば出来るのだろうか、そんなことを言われたものだから後ろからアラサイルが睨んでいるのだろうか、視線を感じる。
どれだけ陛下って人に心酔してるんですか...
ブレイアはその答えを予想していたのだろう、軽く笑うと馬に合図して中心の塔へと向かっていった。
「ちっ、まぁいい。お前ら付いてこい!」
アラサイルはマントを翻してさっそと中へと入っていく。中は魔道具で照らしているのだろうか、明るく広い空間が広がっていく。騎士団の本部といっても荒れている様子はなく、城の中という事をきちんと分かって絨毯や高そうな壺といった装飾が施されていた。
「お疲れ様です団長」
通りかかる騎士がアラサイルに気付くと深々と頭を下げて挨拶をする。ここの騎士団は規律や上下関係がしっかりしているのであろう。
アラサイルも「あぁ」等と答えながら上へと続く階段を上がっていった。何階分か昇り長い廊下を歩き続けとある部屋のドアへとたどり着く。
「入れ」
素っ気なく言ったアラサイルは部下に何か言うともと来た道を帰っていった。
「ここからは私が担当します、中へどうぞ」
アラサイルの後ろに控えていた若い騎士がレンヤ達の前に立つとドアを開けて中へと促した。
「まぁこんなものでしょう」
騎士は手元に用意してあった書類にレンヤ達から聞いたことを書き込んでいきすべて書き終わるとキチンと書かれているか確認し、そうつぶやいた。
「長い時間お疲れさまでした。もう時間も遅いことですしよろしければ騎士の宿舎が使えるか聞いてきますが...」
「いや、俺は大丈夫だ。エリカもいいな」
「そうだね、堅苦しい人たちに囲まれて一晩は面白くないからね」
「という事だ、そっちはどうする」
幾分か言葉遣いが柔らかくなったフェリプがレンヤとロベルトに聞いてくる。
「俺も大丈夫だ。帰る家があるからな。レンヤとティアちゃんはどうするよ?良ければ俺の家に泊まってってもいいぞ?」
レンヤはティアに目を向けるとティアもまた眠そうな目でレンヤを見上げている。
「ティアさんどうしたいですか?」
「どこでもいい...でも...もう眠い...」
それだけ言い終わるとカクッと頭が下がるが顔を上げるとまた眠たげな眼をレンヤへと向ける。
どうやらもう限界に近いらしい。
「宿舎ってお金かかりますか?」
「いえ、もともとこういう場合のために作られたようなものですから料金はいただいておりません。その代わり食事は付きませんがね。」
普通の宿とは違うためそれはそうだろうと思う。
「それでかまいません。二部屋用意していただいてもよろしいですか?」
「分かりました。すぐにご用意いたしますので塔の正面入り口でお待ちください。宿舎は違う塔なので。」
「分かりました。ありがとうございます。」
騎士は書類を手に持ち軽く頭を下げると足早にそこから去っていった。
「すみません、ティアさんが限界みたいなので今日は泊まらせていただきます。」
「ま、その方がいいだろうな」
レンヤ達も元来た道を戻っていき正面へとついた。
「とりあえずここで別れか。また何かあればギルドで呼んでくれればすぐに向かおう。」
「俺たちも世話になった。機会があれば恩は返す。」
「兄は素っ気ないですがこう見えて結構感謝してるのでそれは分かってあげてくださいね。私からもありがとうという感謝として。」
エリカが手を差し出してきたので握手でもするのかとレンヤも手を出す。
エリカはしっかりとその手を掴むと自分の方に引っ張り、予想外の出来事にレンヤも一歩前に出てしまう。
「ありがとね」
そう近づいたレンヤの耳元でそう言うとレンヤの頬に軽くキスをし、一歩離れる。
「これでも私結構モテるんだから貴重な経験ですよ」
少し顔が赤くなっているのはこのような事をすることが無いからであろうか、はたまた演技なのかは分からなかったが、後ろからティアの刺すような視線と前からフェリプの睨むような視線を感じる。
「...たまたま運が良かっただけですよ」
「それでもありがと」
そう言うとエリカは後ろを向き歩き出した。
「お兄ちゃん、ほら行くよ!」
「チッ、さっきの恩の話は無しだ!」
そう捨て台詞を吐くと追いかけるようにフェリプも塔から出ていった。
「ぷぷぷ、最後にとんでもない事していったな。良いものが見れた。さて、俺もそろそろ行くわ」
「はい、お世話になりました。また機会がありましたら」
「おじさんさよなら」
「おじさんて...まあいいか、またな」
軽くティアの頭を撫でてロベルトも出ていき、静かな空間だけが残った。
「静かですねー」
「うん」
壁際に置かれている椅子に座るとティアも隣に座った。
「...思えば長い旅でしたね」
「うん」
「...濃い毎日でしたね」
「うん」
「...その分終わると寂しく感じてしまいますね」
「うん」
「...これからのことですが」
「うん」
「ここで分かれても良いですか?」
「う...ん?」
俯いていたティアが顔をレンヤの方に向ける。
「ホントに?」
「冗談ですよ」
ホッとしたように息を吐く。
「寂しいかもしれませんがこの後はティアさんの故郷です。知り合いもいますし寂しくはないはずですよ」
「分かったの」
「レンヤ殿、部屋の用意が出来ました」
その後しばらくして先ほどの若い騎士がレンヤ達の元へと戻ってきた。
「ありがとうございます」
「それとその...」
「どうかしましたか?」
今度は騎士の方が気まずそうな顔をする。
「そちらのティアさんの事なのですが...」
「...獣人に貸すような部屋は無いってことですか?」
「申し訳ありません。」
若い騎士は頭を深く下げて謝罪をしてくる。
この騎士はそうではないのかもしれないが、やはり獣人はいい扱いは受けてないのであろう。
上が認めなかったという何ともありふれた結末だと思った。
「いえ、そうかもしれないと薄々思っていましたから」
「お詫びといっては何ですが二人部屋を一つ用意させていただきましたのでそちらにご案内させていただきます!」
「よく二人部屋が取れましたね」
「そこは何とか...まぁ権力ってやつですよ。」
ハハハと乾いた笑いを浮かべながら騎士は答える。
「もしかして貴族様でしたか?」
「そんな!普通に話してもらって大丈夫ですから!貴族といっても平民の側室である母から生まれたので家の後継者ではないでの楽な身分ですよ。」
「そうでしたか、貴族は扱いにくいと思っていましたがあなたのような人もいるんですね」
「申し遅れましたが私はエリスタン侯爵家の三男、フォーベル エリスタンと申します。以後お見知りおきを」
「レンヤです、それとこの子がティアです。よろしく。」
差し出された手に応じて握手する。
「では部屋へと案内いたします」
フォーベルから案内された部屋は最上階にある部屋で二人部屋とは考えられないような広さであった。
「...結構豪華そうな部屋ですね。普段はどのような人が泊まるのですか?」
「そうですね、他国のそれなりの地位にいる騎士だったりいろいろですよ。気に入っていただけたのなら幸いです。」
「僕たちには勿体ないほどの部屋ですよ。ありがとうございます。」
「これがこの部屋の鍵です。それと何かありましたら下にいる騎士に聞いてください。それではおやすみなさい。」
「あっ、一つ良いですか?」
「なんですか?」
「ギルドに依頼完了の報告に行きたいのですが城から出ることは出来ますか?」
「そうですね...」
フォーベルは考えるようなそぶりをして何かを思い出したのであろう。
「許可証を用意しておきましょう。城の入場門にいる見張りの騎士に渡しておきますから出ていく際に受け取ってください。」
「すみません、ご面倒をおかけして...」
「いえいえ、これも騎士の務めですから。それでは今度こそおやすみなさい。」
「はい、おやすみなさい。」
「おやすみ...なさい...」
レンヤの手を握ってウツラウツラしていたティアがそう言うとニッコリ笑いフォーベルも出ていった。
「僕は先ほど言ったように一度ギルドによって明日のご飯の準備もしてきますので先に休んでおいてください。」
遅い晩御飯を食べて片づけ、ティアを部屋に据え付けられていた風呂に入れさせ、ベッドに入った事を確認してからレンヤは言った。
「ティアも付いて行ったほうが...」
「もう眠いんですから無理しなくていいですよ。」
ベッドの布団の中で横になるティアの頭をなでながら言う。
「帰りはなるべく急ぎますが少し遅くなるかもしれないので先に寝ていてください。鍵は僕が持っていきます。無いとは思いますが部屋に誰か来ても開けないようにしておいてくださいね。」
「分かったの、行ってらっしゃい。」
「はい、行ってきます。」
鍵をかけて外へと向かう。今の所気配は感じない。
正門で言われた通り許可証をもらい、ローブのフードを被り顔を隠すと街中へと出ていく。
「(さすがに考えすぎかな...でも早く戻った方がいいか)」
帝都のギルドという事もあるのだろう。今まで見たギルドの中で一番の大きさを誇っていた。
五階建ての建物の一階と二階は冒険者の受付と酒場、アイテムの換金受付となっているが、二階の受付は高位のランクしか使えないと入り口の案内に書いてあった。四階、五階はギルド支部長の部屋等、事務関係の部屋が入っており、三階は二階よりも高ランクの人、一部の実力者しか使えないようになっている。
「なんとも使い勝手がいいのか悪いのか分からない建物だねぇ。」
他人事の様につぶやくと、人が並んでいないカウンターへと進んでいく。遠目からでも分かったがやはり美人な受付嬢の所は人が並んでおり、男の受付、しかも年寄りとあってはよっぽど急いでいる人しか需要が無いのであろう。
「ようこそ、ここのギルドは初めてかな?」
体つきは細いが筋肉が程よくついており、ところどころに傷跡も見られる。
もとはそれなりに強かった戦士なのだろう。
「はい、先ほど着いたばかりなので。」
「ホホッ、それはご苦労様だな。して、依頼書を見せてもらっても?」
「どうぞ。」
レンヤはこの依頼を受ける際に貰っていた依頼書と自分のギルドカードを手渡す。
「ほう、この依頼を受けていたのか。それはなんともまぁ災難だったな。」
おじさんはカードを水晶にかざし手続きを進める。
「全くです、命拾いしましたよ。」
「この依頼についてはギルドからも迷惑料という事で多少の追加報酬も出ておる。少し待っとれ。」
そう言うとおじさんは席を離れて奥への机へと向かっていった。
「そんなとこに並ぶなんてあんたも物好きだなぁ!ハハハッ!」
となりの美人な受付に並んでいる男、年は三十代であろうか、顔と匂いから酔っぱらっていることがうかがえる。さらに片手に酒瓶を持っていたのを確認できたのでもう確実だろう。
「少し急いでいるのでしょうがないですよ。」
「なんだぁ?そうなのか!残念だったなぁ!」
なんとも陽気な人だ。
「なぁ、エリザちゃんもそう思うだろ?」
男は自分の目の前にいる受付嬢に赤い顔を向けて聞く。
「え...えぇ、そうですね...」
明らかに引いた顔をしながら答える受付嬢、もといエリザちゃん。
酒の匂いが嫌いなのか、はたまたこの冒険者が苦手なのか、とても迷惑そうにしている。
「待たせたの。これが今回の報酬金貨十枚じゃ、確認するか?」
「いえ、ギルドの方がくすねたりなんかしないと思ってますから。」
レンヤは目の前に置かれた金貨の入った袋を持つと無言で鑑定を行い、きちんと十枚入っていることを確認する。
「それにしても追加報酬結構ありますね。」
「いや、今回はロベルト様がいたとはいえ事件が起こることを予め予想しておったからのぉ。迷惑をかけた意味でも受け取ってくれ。」
「まあ貰えるものは貰う主義なのでありがたくいただきます。」
レンヤは袋をマジックバックと見せかけてアイテムボックスに収納する。
「それとお主、Bランクに昇格しておるぞ。」
「...何かやらかしましたかね?」
「今回の件の大体のことは帝国の方から説明が来ておる。そして対処したのが主であることもな。」
おじさんは年をとっても衰えていない眼力をレンヤへと向ける。
「あそこにもギルドで働いていた者もおる。その者が推薦してきたのだ。上も異論をはさまなかったという事は認めたという事だ。素直に貰っとけ。」
「はぁ、そういう事なら。」
「ほかに何か依頼を受けていくかの?」
「いえ、残念ながら個人的な依頼を受けているのでそちらを先に片付けます。」
「そうか、では達者でな。また機会があれば来るがよい。」
「はい、どうも。」
レンヤはおじさんと会話を切り上げるが先ほどから隣より視線を感じる。
目を向けると酔っぱらった男が呆然とレンヤを見ていた。
「...金貨十枚...」
「...はい?」
「なぁ、そんなに使わないだろ?だったら俺にも分けてくれよ。」
「嫌ですよ。ちゃんと働いてください。」
これ以上の会話は面倒で得るものは何もないので早々に立ち去ろうとするが後ろから肩を捕まれる。
「なんだとこのガキ!目上を敬うもんだって教わらなかったのか?」
男は無理やりレンヤを振り返らせると腕を組んで堂々と言い放った。
「それはあそこにいるおじさんの様に紳士な方にですよ、あなたのような野蛮な方を敬うなんて面倒ですし勿体ないです。」
おじさんは照れたように頭を描いている。誰に需要があるのだか。
そして男の額には明らかに怒りマークがつく。
「あのなぁ、今ならまだ有り金と土下座で許してやる。さあ、早く地面に這いつくばれよ。」
「嫌ですよ、面倒くさい。」
「俺を誰だか分かって言ってるのか?」
「知りませんよあなたなんて。」
「俺を知らない自分に後悔するんだな!!」
そう言うと男は酒瓶を持っていない方の腕を振りかぶるとレンヤを殴ろうとする。
しかし男の拳がレンヤの頬に当たる直前に二人に声がかかる。
「ちょっと待って!」
レンヤと男が声の方を見るとエリカとエリカの腕をつかんで止めようとしているフェリプがいた。
「なんだエリカ、邪魔しようってのか?」
「レンヤはこの帝都に来たばかりであなたを知らないわ!ここは私に免じて許してあげて!」
「ほう、だったらやっとお前は俺の女になってくれるのか?」
「それは...」
エリカは先ほどまでの威勢がきえ、大人しくなる。
「ハハッ、今夜はツイてるぜ!やっとエリカが手に入る!」
悔しそうに俯くエリカの肩にそっとフェリプが手を乗せ、同じような顔をする。
「分かっ...」
「勝手に喧嘩に口出さないください。」
エリカの言葉を遮りレンヤは言った。
「レンヤは知らないでしょ!その男はAランク、クラン“火炎の剣”マスター、ジャガルよ!」
「はい、知りませんし僕には関係ないですからね。」
「今ならまだ許してくれるから謝って!勝てないんだから!」
「ところで先ほどこの男やっとって言ってましたがそれは?」
「...付きまとわれているのよ。」
「求婚じゃなくてですか?」
「その男、きれいな女性がいたら片っ端から告白してるのよ!いやよそんな人。」
「つれないねぇ、まあそんな顔をめちゃくちゃにしたいんだけどな。」
大声でゲラゲラと下品で不愉快な笑いをする。
騒ぎはだんだんと大きくなり次第に人が集まってくる。
「また誰か反抗したのか?」「これで何回目だよ!」
周りから聞こえてくる声からして初めてではなく常習犯なのかもしれない。
「はぁ、目立つことはしたくないのですが売られた喧嘩ぐらいは買いますか。それにエリカさんも被害を受けてるようですし。」
レンヤはカバンから仮面と取り出すとそれをつけてフードを取る。
「レンヤ、私のことはいいから...」
「いえ、この人が僕に売った喧嘩を買うだけです。どっちかというとエリカさんはついでですね。」
少し苦笑いして言うと、エリカも緊張がほぐれたのか少し笑った。
「なんだその仮面は?舐めてんのか?」
「いえ、素顔を晒したくないだけなのでお気遣いなく。それよりも外に出ましょうか、ここだとギルドにご迷惑が掛かるので。」
その言葉に安心したのか、ギルドの職員は一同に安心したため息を吐く。やはりAランクは抑えるのに骨がおれるのであろう。
「ちっ、さすがにこれ以上支部長に睨まれるのはごめんだからな。」
レンヤとジャガル、そして野次馬一行は門からギルド前大通りに出ると、二人は向かい合う。
「さすがに卑怯なんて言わないよなぁ。」
ジャガルがそう言うと野次馬の中なら屈強な男たちがぞろぞろと出てくる。
その数は数十とかなりの数である。
「クランの構成員よ。最低Bランク、大丈夫なの?」
「俺の妹が掛かってるんだ、負けたら承知しないぞ。」
いつの間にか後ろにいたエリカとフェリプが言ってくる。
「すみませんがギルドの方いらっしゃいますか?」
レンヤは少し大きな声で言うと野次馬の中から一人の女性が手を挙げる。
先ほどジャガルが絡んでいた隣にいた受付嬢であった。
「この場合個人的な争い、私闘ですが殺さなければ何でもありですか?」
いささか内容に物騒な点が見られるが女性は落ち着いて答える。
「通常の戦闘でしたら殺しはご法度ですがこの数の観衆、両者の合意でルールはどの程度でも定められます。」
「だそうだがどうします?死ぬのは流石に怖いですよね?」
「んだと!てめえこそ死ぬ準備は出来てんのか?」
「つまり殺しオーケーらしいですよ?」
「分かりました。冒険者ギルド帝国帝都支部職員エリザの名のもとに認めます。これよりこの件で国が動くことはありません。」
「ありがとうございます。さて、ジャ...なんとかさん、何か他に追加ルールありますか?」
「俺が買ったらお前とエリカ、その兄貴の命をもらおうか。どう使うかは俺次第ってな。」
「そうですか...なら僕もあなたたちの命をいただきましょうか。当然この試合に参加する人全員です。」
突如レンヤから濃密な殺気が放たれ、ジャガルとそのクラン員は無自覚に一歩後ろに下がる。
「まさかここまでしておいて冗談でしたなんて笑えないよね。」
仮面の下からでも想像できるほどレンヤの顔は三日月の様に笑っているのだろう。
「さて、そちらの方が人数が多いですから始まりはそちらの合図でどうぞ。」
レンヤは腰の鞘から刀を抜くとそう言った。
「お前ら!いつも通りに狩るぞ。何も恐れることは無い!」
その声に感化されたのか構成員が武器を構えるとレンヤへと突っ込んできた。
「さすがに喧嘩を買うとは言ってもあまり疲れることはしたくないしな...ベヒモス起きてる?」
「(当然じゃ、そして何が起きているかも分かっておる。主は何を望む?)」
「この前みたいに潰したいから力を貸してくれない?」
「(それは別に構わんが...魔術にも似たようなのがあるぞ?)」
「んー、ぶっつけ本番はあまりしたくないからね、お願い。」
「(まあよかろう。ワシのマナをコントロールしながら結果を想像するのじゃ、おのずと望むようになるじゃろう。)」
「ありがとね」
「(なに、このような事昔からじゃわ)」
レンヤはお礼を言うとベヒモスのマナを練る。すると拳にある紋様が輝きだし、レンヤが手を前に出すと土で出来た巨大なレンヤの手が地面から生え、レンヤが手を下に叩きつけると巨大な手も同様にその掌を地面にたたきつけた。
「初めてにしてはうまく行った方かな?」
魔術を解除し、街中に広がった砂ぼこりが晴れると、昼間の時の様に体中から血を流した構成員が転がっている。ジャガルは何が起きたか理解できずに呆然とし、生き残った部下も同様であった。
レンヤの一撃で部下の五分の四を一気になくしたのだ。平気である方が珍しいであろう。
「何が...起きた...」
ジャガルはそう言うしかできず、顔からは酒の赤みが消え、むしろ青くなりかけていた。
「次は魔術師の方かな...」
レンヤは手を向け呪文を詠唱すると地面から棘が生え串刺し人間を作り終える。
「さて、Aランクって強いんでしょ?」
刀を手に持ったままレンヤは唯一生き残ったジャガルへと近づく。
カクカクと顔をレンヤの方に向けたジャガルは青くなった顔で背中の両手剣を抜くとレンヤへと斬りかかった。
「うおぉぉー!!」
互いの剣がぶつかり合う直前ジャガルの剣はその刀身が炎に包まれる。これがクランの名前の由来なのであろう。
ぶつかった瞬間に爆発が起き、レンヤは後ろへと飛ばされるが勢いはあまりなかったためか難なく着地する。
着地した瞬間を狙ってかジャガルが突っ込んでくるがレンヤは詠唱して刀の刀身に水をまとわせるとそれに対応する。今度は爆発は生じなかったが、腕に強化をしたレンヤが相手を押し飛ばす。
ジャガルはそれに対応できずに転がるがすぐに立ち上がろうとする。
が、そんなことレンヤが許すはずもなく立ち上がろうとするジャガルの首元に刀の先を押し当てる。
「お酒に酔ってなかったらもう少しまともだったんでしょうかね?」
ジャガルはおびえたようにレンヤを見上げるしか無かった。
「どうします?降参するなら命だけは取りませんが?」
どこか笑いをこらえた様にレンヤは言う。
それはある意味屈辱的であっただろう。
しかし
ジャガルはそれに対抗する手段は持ち合わせていない。
「...俺の負けだ。」
観衆は予想外の出来事に静寂が支配し、物音一つしない。
「さて、それじゃぁちゃんと報酬は貰わないとね。」
レンヤはジャガルの持ち物からお金、武器、アイテム、その他もろもろ使えそうなものを取り上げる。
エリカたちにもお願いして構成員たちからも同様に取り上げる。
「待て、命は取らないって...」
理解が追い付いていないジャガルはレンヤの行動が行動が分からず思わず聞く。
「確かに僕は命までは取りませんよ。僕はですが。誰か商人の方はいらっしゃいませんか?」
野次馬の中から数人が手を挙げる。ジャガルはレンヤのするであろう行動に思い当たり絶望した顔になる。
「この人たちを奴隷として売りましょう。戦闘奴隷です、高く売れますよ。」
「そんな...なんでそこまで...」
「さっき野次馬の人達の言葉から分かったんですが...あなたかなり悪名高いそうですね。何でも身分的に、ランク的に弱い女性を次々手篭めにしていたらしいじゃないですか。その人たちはあなたが怖くて訴えることができなかった。その罪ですよ。」
ジャガルは思い当たる節があるのか顔を地面に向けて蹲る事しかできなかった。
「商人の方集まってください。」
先ほど手を挙げた人たちが集まる。
「皆さんでこの人たちを分けてください。」
「お代の方は?」
「いらないです。」
とあるの商人が質問してきたがすぐさま答える。
「それではあなたの利益が...」
「もともと懐はそれなりに潤ってますし今回の収入もありますから。」
レンヤは取りあげた荷物を自らのアイテムバックに収納する。
「それで構いませんよね?ギルド職員さん。」
「大丈夫です。両者の合意がありますし戦闘奴隷でしたらこの国でも扱えますから。」
「なので後は任せてもいいでしょうか?少し急ぐ用事があるので。」
「分かりました。後はお任せください。」
「ご迷惑をおかけします。」
レンヤはそう言うと女性の手に金貨を一枚握らせる。
「こ、これは!受け取れません!」
「迷惑料ですよ。そうぞお納めください。」
「しかし...」
「あっ、あとこれも。」
そう言うとレンヤはさらに追加で二枚の金貨を渡す。
「周りの店にもご迷惑をおかけしてしまいましたからね...そのお詫びとして渡しておいてください。あなたが受け取れないならお店の方の迷惑料に回してください。」
「そういう事でしたら...」
「エリカさんとフェリプさんもそれでは。」
「急に去っていくんですね。」
「忙しい奴だな。」
「ティアを待たせてるんで。」
レンヤは地面に手を触れて荒れた地面を元に戻すと。フードを被り人ごみの中へと消えていった。
更新頻度上げていきたい...




