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世界の行方  作者: くま
55/58

55. アベル伯爵護衛依頼31


レンヤたちは帝都まであと少し、今日野営したら明日には帝都についているだろうと思われる距離まで来ていた。

街、しかも帝都の近くであるということから、木が一本もない大平原であろうとも比較的魔物が出てくることは少なく、最後の野営が一番安全であったりする。


「しっかし、今日で最終日だなんて考えらんないよあぁ。」


今日もロベルトとティアの三人で晩御飯の準備をしてから食事をしていると、ロベルトがボソッとつぶやいた。


「なんです?寂しいんですか?」


日ごろ見せないような弱気なロベルトの姿にレンヤはおどけて見せた。


「いやぁ、今回の護衛依頼は何だかんだ面白かったからな。終わるのが勿体ないだけだ。」


寂しそうに俯きながらそう言うと、マグカップに注がれていたスープを一気に飲み干した。


「すまん、先に寝る。」


ロベルトは食べ終わった食器をレンヤに渡し、自分のテントへと戻って行った。


「...確かにロベルトさんたちとお別れは寂しいかも。」


「...ホントにそう思ってる?」


「(コクリ)」


「ま、結構長い依頼でしたからね。そう思うのもしょうがないって感じですかね?」


「レンヤも寂しい?」


「さぁ、どうでしょうかね?人間誰しも出会いと別れはあるのですから。それに僕はもともとそういった感情に希薄らしいので。」


「...。」


ティアは何か言おうとするも言葉にならなかったのか、何度か口を開けたり閉めたりしたが結局何も言わなずに口を閉じた。

そんなティアの様子に気付き苦笑いしながらもレンヤはティアの頭をなでると話題を切り替える。


「さて、最後の夜ですしここで体調を崩しても馬鹿らしいのでティアさんはもう寝ていいですよ。」


結局レンヤとティアは少し大きめのテントを買って二人で使っていた。

とは言っても実際はレンヤが夜の見張りをしていたためあまり寝ておらず使っていないが...。

レンヤはあらかじめ建てておいたテントを指さしてティアに言う。


「片付けも僕がしておきますから。」


「...分かったの。」


一日中馬車の荷台に乗ってはいるが、手すりに掴まっていたり周りに注意を払い続けねばならないといった状況にティアは最後まで慣れなかったらしく、荷台で寝ていたにも関わらず顔には疲れが浮かんでいる。


ティアはレンヤが先ほどの話、寂しいのかという話題に対してレンヤの中に何か引っかかってるのではないかと考え、レンヤに食器を渡すと素直にテントへと向かっていく。


「...おやすみなさい。」


「はい、おやすみ。」


軽く手を振りながらレンヤはティアを見送り、きちんとテントへ入ったことを確認すると野営から少し離れた場所で魔術を用いて地面に軽く穴を掘り、同じように魔術により水を流しながらコップや器を洗う。

新しい布を出して拭くと、それをアイテムバックへと放り込み、元の座っていた位置、焚火の近くへと戻ってきた。

レンヤには気配察知のスキルがあるため、いつも周囲に注意を払わなければならないことは無く、一定間隔で気にすればいいためたいして精神的にも疲れは溜まっていなかった。


「そろそろかな?」


最後に確認してから一時間程度経ったであろうか、敵の気配を確認してみるが魔物一匹おらず、平和そのものであった。


「今日はどうするかな...」


寝なくても時間がたてばMPが回復してくれることはここ数日で分かったため睡眠が絶対に必要な訳でもなく、健康が!お肌が!という理由に関してもレンヤはまったく気にしていないため、全く睡眠を必要としていなかった。

多少の疲れなら回復魔術で何とかなるため、今なら一週間は徹夜できるのでは?と考え始めていた。


そんな危ないことを考え始めたところで暗闇の中に動く何かを確認する。

よく目を凝らしてみると執事服を着ており、顔からブレイアであることが分かる。


ブレイアは暗闇の中で手を広げ、何かが飛んでいくのが見えた。


「あれは...鳥かな?」


何かであることは分かっても、何であるかは分からない。翼のようなものを広げて飛んで行ったことを考えると鳥かそれに似た何かであることは分かる。


「レンヤ殿は睡眠をとられなくて大丈夫なのですか?」


背を向けており、見えないであろうレンヤにブレイアは話しかけた。

二人の間には距離があるはずだがなぜか、小さく静かな声が確かにレンヤへと届いた。


「いくら帝都に近いからとはいえ完全に安全とは限りませんからね。見張りは必要ですよ。」


近くに狂った戦闘狂もいますし...と内心つぶやきながらもレンヤも焚火に顔を、ブレイアには背を向けるようにして座り答える。


「ブレイアさんこそこんな時間にどうされましたか?」


「帝都に明日にはつくという連絡を送ったことろでございます。」


連絡を送った、飛んで行った、つまりは...。


「従魔ですか?」


「従魔...とはまた少し違いますかな。あれは召喚術によって契約した魔獣でございます。」


「従魔とは違うのですか?」


「彼、彼女なのかは分からないですが召喚者、つまりは私ですね、が必要な際に召喚するのです。どんな距離が開いていてもパスが繋がっており手元に召喚できるのでございます。そのため召喚術式で契約する魔獣は多少の知能を必要としますが。今回は手紙を館に届ける仕事をしてもらっております。」


「知能...ですか。館に届けるだけならば知能はたいして必要ないのでは?」


「今回は届けることをお願いいたしましたが、他にも使い方はございます。特定の魔物、人物の探査、殺害など便利なことから物騒なことまで様々でございます。そのためその難易度から召喚術を使える人も限られてきてしまいますが。」


「へぇ、便利なものですね。僕も使えたら面白いのですが...。どのような詠唱なんですか?」


「魔術の属性才能はいつ開花するか分かりませんからね。覚えておいても損は無いでしょう。"闇を以って応じ、血肉をささげ、͡求めに応じよ、サモス"。詠唱は難しくは無いと思いますので闇属性の魔術が使えるようになった時にお使いください。ではそろそろ私も休ませて頂きますのでこれで失礼いたします。」


「ありがとうございます。警戒はしておきますのでゆっくりお休みください。」


「分かりました。おやすみなさい。」


「はい、おやすみなさい。」


そういうとブレイアは伯爵が寝ているテントの横にたてられたテントへと戻っていった。


レンヤはブレイアが去っていきテントに入るのを確認すると再び焚火の前に座りなおす。

ブレイアは召喚獣を帝都に送っていたがその数は二羽。


「一つは伯爵邸に届くと仮定してももう一つはどこだ...。」


顔に手をあてて考えるが、どうでもいいことかと考えることを放棄する。


「自分に降りかかる火の粉は全力で潰すだけ。」


異世界に来ても基本的考え方は変わらない。ネガティブな方向に行こうとした頭を軽く振り、切り替える。


「召喚獣でも呼んでみるか。」


やはり居たらいたで便利なんだろうなと思う。

呼ぶならどんな魔獣か。


「やっぱり鳥型の方がいいのかな、でも移動手段と戦闘に使えた方が便利だしなぁ...。ドラゴンか?」


やっぱり定番としてドラゴンに憧れるのはしょうがないことなのだろう。


「"闇を以って応じ、血肉をささげ、͡求めに応じよ、サモス"」


手のひらを適当な地面に向けて詠唱する。すると地面の上に直径一m程の紫に光る魔法陣が浮かび上がり、五秒ほど光るが何も反応がない。


「失敗したかな?」


腕を下げると魔法陣からの光が弱くなり、最終的に消えた。

ステータスを開き内容を確認してみるが、闇属性の魔術に何らかの変化は起こっておらず、従魔が追加された様子もない。


「ま、使えないんだったらまた今度でいいか。」


焦る必要は無いと自分に言い聞かせ、再び気配察知を行い魔物がいないことを確認する。


「少し休むか。」


いくら警戒すると言ってもずっと起きておく必要は無いと考えていたため、レンヤは草原の上に寝ころび輝く夜空を見る。

これなら明日も天気が崩れることは無いかな。

そう考え、寝るわけでもないが瞼を閉じる。


何も考えずにずっと無心でいたためか太陽が出てくるまでが長く感じるが、じっと待っていると遠くに見える地平線が明るくなり始めるのが分かった。


「さぁ、最終日頑張りますか。」


誰にも聞こえない声でつぶやくと起き上がる。

そのうちだんだんとみんな起き始め、それぞれご飯やらテントを片付けて出発の準備を始めた。




「みなさん、今日は最終日ですので気を引き締めて頑張りましょう。」


出発前にブレイアがみんなに呼びかける。

チラリとこちらを見た気がするが気のせいなのだと視線を逸らし、順に出発していく馬車の最後尾として出発した。




やはり何もなく道中安全であり、暇であった。




「ま、そんな小説みたくイロイロ襲ってくることの方が異常だったのか。」


「?どうしたの?」


暇すぎてつぶやいたレンヤに横にいたティアが反応する。


「なんでも無いですよ。」


ポンポンとティアの頭を軽く撫でていると、先頭の馬車が止まったようであった。


「どうしたんですかね?」


レンヤがティアに聞いた直後にブレイアの声が聞こえた。


「ここで昼食とします。」


確かに太陽は真上に近いとはいえ、いつもよりも早い時間帯のような気もするが指示されたのならしょうがないと止まった馬車から降りてご飯の準備を始めようとするとまた声をかけられた。


「最後となりますので皆さんの食事をこちらでご用意させていただきます。」


どうやらこの話は前もって誰も聞いていなかったのか、騎士の人も驚いていた。


「ま、用意してくれるんならいいじゃないか。」


遅れて降りてきたロベルトがそう言う。


「良くあることなんですか?」


「依頼人によるな。毎回あるわけでもないし無いわけでもない。貰えるもんは貰っとかないとな。」


そういうと草原に座ると近くにあった石に頭を乗せるように寝っ転がった。


「まぁそうですね。ティアさんも大丈夫ですか?」


「レンヤがそれでいいなら。」


「では僕たちも待つとしましょう。あ、これ作ったんで良かったら持っていてください。」


そういうとアイテムバックから折りたたんだ紙、魔法陣が描かれた紙を一枚ティアへと渡す。


「これは?」


「ちょっとしたお守りみたいなものですよ。マナを流せば魔術が発動するはずですが...まぁ、何となく作ってみたって感じなので実際に使えるかは分かりませんがね。」


ティアに渡した魔法陣はオリジナルに少し?手を加えたものであったため、描けたからといって実際に使えるとは限らなかった。


「ん。レンヤのなら大丈夫。」


「...僕だって万能じゃないですよ。」


「ティアは信じてるからそれでいいの。」


「...さいですか。」


そこまで信頼されては逆に何か裏切っているような気がしてしまい、思わずレンヤは視線をティアからそらすと、ロベルトと同様に地面に寝ころぶと、レンヤの隣で同じようにティアも横になった。


エリカたちも少し離れたところで座っており、他の騎士たちも自分の剣を手入れする者、他の騎士と模擬戦をする者、座ってくつろいでいる者など様々であった。


伯爵の馬車の近くではメイドが慣れた手つきで料理をしているが、ようやく火をつけたといった状態であった。


「まだ時間かかりそうだな。」


レンヤはロベルトが爆睡しているのを横目で見て、わずかな時間を睡眠に当てた。



誰かが歩いてくる気配を感じる。

閉じていた目を開けて体を起こすとブレイアがこちらに向かってきていた。左右を見ると二人ともまだ寝ている。


「おや、気配で気づかれてしまいましたか。」


「これでも一応警戒してましたからね、用意が終わりましたか?」


「はい。順番にお配りしていますのでお二人を起こしたら取りに来てください。」


「分かりました。」


返事を聞いたら帰ると思っていたが、ブレイアはレンヤの目を見ていた。


「顔に何かついていますか?」


重たい空気にされても困るので、手で顔を触りながら、笑いながら冗談を言う。


「...いえ、私もまだまだ鍛錬が足りなかったと思っていただけでございます。」


「?」


何の事かさっぱり分からず思わず表情の消えた顔になったレンヤが面白かったのか、ブレイアは少し笑う。


「私も一応鑑識スキル持ちです。しかし見えるはずの物が見えないのでスキルのレベルの低さを痛感したということですよ。」


「へぇ、どこまで見えてるんですか?」


今のレンヤの顔は一体どのような表情となっているのだろうか。


「レンヤ殿がいくつスキルを持っているかは知りませんがいくつかが隠されています。しかしこの数のスキルを所有しているということはかなりの実力者なのでしょう。」


「そうとは限りませんよ。単にレベルの低い器用貧乏かもしれませんよ。」


「そのように考えることもできますが...これも年寄りの直感とでもいうのでしょうかね。そんな気がしただけでございます。」


「なんとも曖昧な回答ですね。」


レンヤは顎に手を当て、少し考えるフリをするとブレイアに問う。


「まぁいいでしょう。では一つだけ聞きます。あなたは僕の障害ですか?」


どこまでも無表情で目に光もともってないだろう。そして少しの威圧が加わっている。そんな顔で質問されたら誰しも少し後ろに下がり距離を取ろうとするがブレイアは動じない。さすが無駄に年をくってないということなのだろう。


「いえ、敵わない相手に喧嘩を売るような愚かなことはしませんよ。」


そこで一つ呼吸を挟むともう一度口を開ける。


「そうですね、一つ助言を与えることとしましょう。警戒して、お気を付けください。それだけです。」


「内容までは教えてくれないんですね。」


顔に表情が戻ったレンヤが苦笑い気味に言った。


「もしここで死ぬようであれば、私の感が間違っていた、それだけでございます。」


「そうですか、まぁ気を付けることとしましょうか。」


その返事を聞くとブレイアは帰っていった。


横に目を向けるとティアは薄目を開き起きていた。


「起こしてしまいましたか。」


「...敵?」


「大丈夫ですよ。」


「レンヤの威圧を感じたから。」


それで敵が来たのかと思ったのだろう。


「いえ、少しスキルを使ってしまっただけですよ。」


頭を撫でながらロベルトに目を向けるといまだに爆睡している。ティアが感じた威圧を感じなかったのか、動じなかったのか。肝が据わっているのか単に鈍感なのか気になったがレンヤはロベルトに近づくと体を揺すり起こす。


「ロベルトさん、ご飯できたみたいですよ。」


「ん?そうか。すまんな、ありがと。」


そう言って起き上がると伸びを一つする。


「さて、食いに行くか。」


お昼を配っている列へと向かう後ろにレンヤとティアは付いて行った。




渡されたのは野菜や何かの肉が挟まれたサンドイッチ、スープ。

元居た場所まで戻ってくるとロベルトはサンドイッチにかじりついた。


「旨いなこれ。この味付けは好きだな。」


そう言って次々と頬張っていく。

一方レンヤは先ほどブレイアの言っていた言葉がどこかに引っかかっていた。


「食べないの?」


「いえ、少し考え事をしていただけですよ。」


首を傾けて聞いてきたティアであったが、レンヤの答えに満足したのかロベルト同様サンドイッチをかじった。


「("鑑定")」


手に持っていたサンドイッチとスープに無詠唱で鑑定を行う。


――――――――――――――――――――


 サンドイッチ

  普通のパンで作られたサンドイッチ。比較的新鮮な野菜とシャドーウルフの肉を使用。

  隠し味でしびれ薬、感覚麻痺、思考妨害薬が混ぜられている。



 スープ

  トルの実、ハスク、キウの実の野菜がバランスよく入っており栄養的にも理想的といえるコク鳥から

  作られたスープ。

  隠し味はしびれ薬、睡眠薬。


――――――――――――――――――――


「....。」


いや、こんな結果が出たら黙るしかないだろう。ロベルトやティアの様子を見るがたいして変化はない。


「(即効性のものでは無いか僕の物にしか入ってないか。でもここで食べないのも怪しいか。)」


目を周りに向けるとやはりというべきかブレイアが見ている。


「(いただきます)」


諦めてブレイアに口パクで言うとレンヤはサンドイッチを口にする。

そのままみんなから遅れて食事を終えて片づけをする。今の所体に違和感は無い。


「もうしばらく休憩としましょう。」


全員が食べ終わったことを確認したブレイアがそう言った。

何かを待っているのか、単に休憩を取りたかったのか。

そんなことを考えていると隣にいたロベルトが急に膝をつき、地面に倒れた。

そしてティアも同じように倒れた。

レンヤは急に倒れたら危ないなぁとどこか他人事のように地面に座ると、急に体にダルさが襲ってきたと思った直後、体が動かなくなり、地面に倒れた。


「なんだ、ようやく効いてきたか。」


アベルが自分の乗っていた馬車から出てくると、最初にフェリプとエリカの方へと向かっていく。

どうやら二人も倒れているようであった。


「おい、あれ持ってこい。」


アベルはエリカを蹴り、動けないことを確認すると近くに控えていたメイドに何かを言う。

メイドはカバンから首輪を取り出し、アベルへと渡した。


「ふん、お前は顔はまだいい方だから奴隷にしてやろう。」


アベルはそう言うとメイドから受け取った首輪をエリカへと着ける。


「こいつはいつも通り処分しろ。」


「「「はっ。分かりました。」」」


後ろに控えていた騎士が応答する。騎士は剣を抜くとフェリプへと近づいた。


「おい、今回はどうしますか。」


「いつも通りでいいだろ。利き腕切り落としてからしびれ薬の効果が切れてある程度動けるようになってから訓練代わりに潰せばいいだろ。人間を斬れる機会なんてそう滅多にない。」


騎士の中でも立派そうな鎧をいた男が答える。その声を聴きながらレンヤはアベルがこちらへと向かってくるのを見ていた。


「ロベルト、無様だなぁ。なんだその目は。今お前の命は俺が預かってること理解できてるか?」


ロベルトはレンヤたちよりもフェリプ側にいたため先にアベルとぶつかる。


「が...あ...っ。」


しびれ薬はどうやら口の方まで動かなくなるようで、うめき声みたいな声しか聞こえない様子だった。


「ふん、まぁいい。お前は最後に残しておいてやろう。」


ロベルトの頭を何度も踏みつけるとそれで今のところは満足したのか、レンヤたちの方へと歩いてきた。


「...レ...ンヤ...。」


顔を動かすことは出来ないが後ろの方でティアの声が聞こえる。


「貴様はなかなか使える奴だとブレイアから聞いている。戦闘奴隷として飼ってやろう。まぁ安心しろ。そこの獣人は俺が可愛がってやる。」


「(ま、そろそろいいか。“光を以って癒し、あるべき姿となれ、デトック”)」


アベルがレンヤの前に来てそう言ったあと、いつまでも倒れている理由もないので状態異常解除の魔術を無詠唱で使うが、直後に背後で何かの魔術反応を感じた。


アベルとレンヤの間に五階建ての建物ほどの高さの岩の壁が現れる。


動けるようになった体を起こし後ろを振り返ると、ティアのローブのポケットから青紫に燃えるマナの炎があがっている。


「どうやら魔法陣はきちんと働いたようですね。」


ティアに近づき同様に状態異常解除の魔術を使うと、ティアもまた起き上がり、体を触って正常であることを確認した。


「レンヤー!!」


思わず抱き着いてきそうになったティアの頭を押さえ止まらせる。


「ま、持続時間が短いという欠点はあるみたいですが...。」


脆く崩れていく壁を見ながらティアの頭を押さえてレンヤはつぶやく。


「な、なぜだ!なぜ動ける!」


いかにも噛ませっぽいセリフを吐きながらアベルは狼狽えた。


「おい!そいつは後でいい。先にこいつを押さえろ!」


フェリプと遊んでいた騎士たちが駆け足でこちらへと向かってくる。

それほど強くないとはいえ数が多いと思ったのだろうか、ティアがレンヤのローブを掴み心配そうに見てくるが、ここで何かが近づいてくる気配を感じる。


騎士が近くまで来たためレンヤも腰から刀を抜くが、騎士の一人が斬りかかってくる直前に地面から巨大な手が出てくると腕を下ろして斬りかかってきた騎士と近くにいた数人を潰す。

よっぽど強かったのか、腕が退けられると口やあらゆる場所から血を出していた。


「我を呼びしはお前か。」


低く重たい声がどこからか響いてきたと思うと地面に次々と亀裂が入り巨大なドラゴンが姿を現す。


「いや、巨大すぎるだろ。」


そう呟くことのできたレンヤはまだマシだろう。誰もが驚き、威圧感に恐れ、巨大さに動けずにいた。


「お主か?」


「いや、呼んだ覚えないです。」


レンヤを見ながらそう再び聞いてきたドラゴンにそう答えた。

呼んだ覚えがないのだからしょうがないだろう。


「いや、お主から同じ魔力を感じるがこれは...。そのフードを取ってはくれぬか。」


「すみませんが今取り込み中なんですよね。」


レンヤはアベルたちを指さしながら言う。


「こ奴らを潰せばいいのか?」


そう言うとドラゴンはもう一度片足を上げて潰そうとする。


「んー、それでもいいのですがやっぱり自分でケリはつけたいので手出ししないでくれませんか?」


「やはりそう言うと思ったわい。よかろう、ここで見ておくとするか。」


ドラゴンは足を地面に下ろすとその場に座り、自分はもう関与せず見守る感じとなった。


「そういうことなんで、依頼者であっても殺してもいいですよね?」

密かに状態異常解除の魔術を使ったロベルトに尋ねる。


「いや、俺も殺したい気持ちもあるが証拠が残らない。すまないが帝都まで連行した方がいいだろう。」


上半身を起こしながらロベルトが答えた。


「はぁ、加減するのも面倒なんですが。」


そう言ってレンヤが足で地面をトントンと叩き、いつかの様に男女関係なく地面から地属性の棘を出現させ突き刺す。ただ一人ブレイアだけは身体強化でもしたのだろうか、あり得ない高さまでジャンプしてそれから避ける。


「へぇ。」


レンヤも足に強化を施しブレイアが地面に着地する瞬間を狙い攻撃をかけようと走るが、ロベルトの横を通ろうとした時にロベルトから押さえつけられる。


「あなたも敵ですか?」


「いや、敵じゃない。ブレイアは大丈夫だ。」


振りほどくこともできたが、無事に着地したブレイアが殺意無く近づいてくるため様子を見ることとする。


「すみません、わたくし実は帝国諜報部所属でございます。この度アベル伯爵にある疑惑が浮上しておりましたのでその調査のため潜入しておりました。」


そういって深々頭を下げる。


「...信じるとしましょう。」


レンヤがそう答えるとロベルトがレンヤを放す。


「い、痛い!誰か助けてくれ!」


すっかり存在を忘れていたアベルが涙鼻水といろいろとバラまきながら叫んでいる。


「レンヤ殿、もう少しで帝国から帝国騎士団が来ますので少々お待ちください。」


レンヤは昨夜飛んでいったもう一羽が帝都の諜報部へと向かったのではないかと予想でき、この事件もあらかじめ予想されていたことなのだと理解した。

自由になったレンヤが不燃焼気味の苛立ちを解消しようとアベルへと近づこうとすると後ろからブレイアに肩を捕まれる。


「...別に殺したりしませんよ。」


「これ以上は過剰でございますので。」


アベル、騎士、メイド関係なく腹と片腕、片足を突き刺されていた状態をブレイアは言ったのだろう。


「はぁ...。」


ため息一つつくと刀を鞘に戻し、それを確認してブレイアも手を退けた。

レンヤは状況をずっと見ていたドラゴンのもとへと向かっていく。


「随分と丸くなったものだな、主は。」


「知ったようなことをいいますね。」


「いや、人違いでなければそう思っただけよ。フードを取ってはくれぬか。」


レンヤは言われた通りローブのフードを退けてドラゴンを見る。


「やはりお主であったか。最後にお会いした時より少し幼い?いや、そんな事は些細なことであるか。」


そう言うとドラゴンは大きい頭を地面へと下げる。


「どこかで面識ありましたか?」


「...もしや何も覚えておらんのか。」


「いや、まったく。」


安全だと思ったのか、ティアもレンヤのもとへと来た。


「お主もいたのか、全くここまでついてきたのは偶然か運命か。」


ドラゴンは今度はティアを見ながら言う。


「...ところで呼んだとか何か言ってましたがそれは何ですか?」


「ん?あぁ、昨晩主が召喚したのではないか。呼びだされたはいいが如何せん魔法陣が小さすぎての、どうやって出ていこうか考えておったら魔法陣が消えてしまってな。バックレても良かったのだがどこか懐かしい魔力の気配を感じたからわざわざ来たんじゃよ。」


「それはそれは...遠いところご苦労様です。」


「全くだ、原始の森から意外にも時間がかかってしまったわい。」


「いや、地面掘ってこないで飛んでくれば良かったじゃないですか。」


「こんなデカい体では騒ぎになると主によく言われたからのぉ。癖じゃわい。」


原始の森という単語にティア含めロベルトたちがピクリと動く。


「ご無礼をお許しください。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


いつもより腰の低いロベルトがレンヤ達に近づくとドラゴンに尋ねる。


「原始の森、そこから来られて言葉を理解するという事はさぞ名の知れたお方なのでしょう。」


「いいじゃろう、我が名はベヒモス。地をつかさどりし原始の魔獣の一角である。」


そう言い威圧をあたりにかける。


「今日はレンヤ殿の召喚に応じ来たまでだ。」


「...あぁ、あれ失敗してなかったのか。」


ベヒモスのその言葉にレンヤを覗く誰もだ絶句するのであった。



ここまで書いてしまいたかったので遅れました...。


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