53.アベル伯爵護衛依頼29
お久しぶりです。
「すみません、遅れてしまいましたか?」
ロベルトとフェリプ、エリカが荷物をまとめて待機していたため遅れたのかと思いレンヤは尋ねる。
「いえ、時間も決まっていませんでしたし依頼者もまだ到着していないのでセーフだと思いますよ。」
ニッコリと笑いながらエリカが答えてくれた。
その横では不愛想にしているフェリプと苦笑いしているロベルトがいた。
「あぁ、その...な、昨日は大丈夫だったか?」
視線を逸らしたり逸らさなかったりしながらレンヤをチラチラとロベルトが見ている。
おじさんにそんなことをされても全くときめかないし、気持ち悪いということを再確認しながら昨日の出来事を思い出す。
「まあ大丈夫でしたよ、臨時収入も入りましたし。」
そう言いティアに視線を向ければ,新しく買ったレンヤとおそろいのローブをまとった姿が目に映る。
ティアもレンヤの視線に気付いたのか、新しいローブを見せつけるかにようにクルっと一回転するととても嬉しそうな笑顔をレンヤに向ける。
「おかげでティアさんに服を買うことが出来ましたし。」
「そうか、まあなんだその...すまなかったな。」
「いいですよ、もう終わったことです。」
会話が途切れそうになったところでゾロゾロと向かってくる気配を感じた。
中心部へと続く大通りへと目を向けると大きな荷台をつなげた馬と翼のないドラゴンを足して割ったかのような生き物がこちらへとやって来ている。
「なんですかあれ?」
「レンヤは初めて見るのか。」
先ほどまでの気まずさが無かったかのように、いつもの陽気なロベルトに戻っている。
「あれは地龍っていう魔物だ。名前の割にあまり強くなくて従えやすいってことから従魔にしやすいって有名なんだとさ。」
「従魔ですか?」
「従属スキルで従える対象が魔物の時の呼び方だ。奴隷の時と違って多重契約できるのが特徴だな。あと、命令すれば契約者は必要ないこともメリットだな。」
確かに伯爵が乗っている馬車を先頭に後ろをついてくる地龍には契約者は乗っていなかった。
「多重契約だったら契約者同士が敵対したとき従魔はどうなるんですか?」
「従属スキルのレベルが高い方に従うことになってるな。レベルが同じ場合はその魔物が懐いている方に従うって話は聞いたことあるな。」
「魔物と奴隷で何か違うんですか?」
「契約紋が微妙に違うらしいが専門家が見ないと分からないからな...きちんと魔物の紋は奴隷、奴隷紋は魔物に使えないようになっているらしいからそこは大丈夫だ。」
そう言ってチラリとティアを見ていることからレンヤの考えていることを理解したのだろう。
確かにティアの奴隷紋を多重契約方式にしたらいろいろと面倒だからな。
「...大丈夫だよ?ティアはレンヤとしか一緒にいないから。」
心配したのがバレたのか、ティアはレンヤの手を掴みながらそう言った。
「分かってますよ、きちんと獣人国までは送り届けますから。」
そう答えるとティアは頬を膨らませ少し不機嫌そうになる。
「やっぱ少しズレているのか、それともわざとなのか。」
呆れたようにロベルトが言うがレンヤは聞かなかったことにした。
「伯爵様が到着されました。」
レンヤたちの前に地龍が並ぶと伯爵が乗った馬車からブレイアが出てきてそう言った。
「皆様すでにお聞きになられたかもしれませんが、伯爵様の急用にて急ぎ帝都へと戻られることとなりましたので地龍を用意させていただきました。フェリプ、エリカ殿は先頭の荷台、ロベルト、レンヤ殿は最後尾の荷台にお乗りください。」
そういうとブレイアは再び馬車へと戻る。
フェリプとエリカは指示された荷台へと乗り込む。
ロベルトとレンヤ、ティアも荷台へと向かうがそこには誰も乗っていなかった。
「おっ、誰もいないなんてついてるな。貸し切りじゃねぇか。」
カラカラと笑うロベルトについていきながらレンヤたちも荷台へと乗り込む。
全員が乗り込んだことを確認するとブレイアは自分が乗っている地龍に指示を出して出発させる。そしてそれについていく形で他の荷台も同じように進み始めた。
「あのロベルトさん、見た感じ歩くのとあまり速度が変わらないような気がするのですが...。」
レンヤは自分たちの荷台につながっている地龍を見て疑問に思ったことを口にした。
馬よりかは大きな体でゆっくりと進んでいるためそう思った。
「まあそう思うかもしれないが後で分かるさ。」
しかしロベルトからかえってきた返事はどうも曖昧なものであった。
都市クランカの出入り口である門にへと近づくと見知った顔があるのが見えた。
「お久しぶりです。っと言っても昨日ぶりですが。」
「おぉ、レンヤ殿ですか。報奨金の準備は出来ていますぞ。」
レンヤの前には昨日対応してくれた初老の男性がいた。
「これですね、どうぞお納めください。金額は確認されますか?」
「はい、確かに受け取りました。もともと報奨金が出ていたことを知りませんでしたからいいですよ。あなたならくすねたりしないでしょうし。」
「はっはっは、それはありがたいですなぁ。今度来た時には食事でも一緒にいかがですかな?」
ついでにレンヤは冒険者カードを見せて門を通る手続きを済ませる。
「機会がございましたらお願いしますね。そういえば昨日の若い人はもう仕事終わりですか?」
「あぁリットですか、彼はもう今日はあがりましたよ。何か伝えておきますかな?」
「いえ、最後に挨拶をしとこうかと思っただけですから。では。」
「分かりました。伝えておきましょう。いい旅を。」
ローブの内側に報奨金が入った袋を入れてこっそりアイテムバッグにしまう。
無事に門を出ると地龍たちが一列に並んでいた。レンヤ達の乗った馬車もその列に加わる。
「急に停まってどうしたんですか?」
「ここからが面白いってもんよ!」
ロベルトは不敵な笑みを浮かべているが額には汗が浮かんでいる。
「それって...」
「いいから手すりに掴まっておけよ!」
訳も分からずレンヤとティアも摑まる。見渡せば騎士たちも同じように摑まっている。
「進め!」
ブレイアの合図で一斉に地龍が鳴くとフェリプ達が乗った馬車を先頭に進み始める。
「この速さは普通では...」
「これからだ。」
「「?」」
レンヤとティアは頭に?を浮かべているがだんだんと意味が分かってきた。
最初は普通であったがだんだんと加速していく。
ただ...おかしな点としてはその異常な加速度だろうか。
五秒と待たずしてすでにその速さは時速100kmを超えているだろう。
横を見てみるとティアが速さに耐えきれず手すりから手が離れて飛ばされそうになっていた。
「ティアさん!」
レンヤはティアに手を伸ばすとその腕をつかみ、自分の方へと引き寄せる。
ティアはレンヤの顔を見るとその体にしがみついた。
ロベルトにはティアがただ嬉しそうに抱き着いているようにしか見えなかった。
自分の処理能力の低さに嫌になりながらも書きましたので読んでいただければ幸いです。
来週はきちんと0:00に更新できる予定です。




