51.アベル伯爵護衛依頼27
「ごちそうさまでした。」
買い物から部屋に帰って早々に買った服を見せられてどうだと評価を聞かれる。それに一着ずつ感想を答えていくというレンヤにとっての修行のような行動を繰り返し、やっと晩御飯にありつけた。そして食べ終わると手を合わせて挨拶を済ませる。
まぁ値段に見合った味だったなと思いながら、この程度なら僕でも作れそうかなと机に散らばったゴミを片付けながら思った。
お姫様は今日一日中寝ていたというのにまた眠くなったのか、晩御飯を食べ終わるとあくびをしてウツラウツラと必死に眠気と戦っていた。
「もう特にすることもありませんから寝ても大丈夫ですよ。あ、でもお風呂あるらしいですからさっぱりしてきた方がいですかね?」
ティアはお風呂と聞くと急に意識が覚醒したのか顔を上げて目を見開く。
「そう、お風呂があることを忘れていた。」
そういうと今日買った服が入ったカバンをあさり、中からタオルやら着替えやらを取り出しレンヤの方を向く。
「何してるの?早くいくよ?」
いや、ティアさんに合わせる方が難しいだろ、と心の中で突っ込みながら片付け終わった机を確認する。
「僕はまだいいですよ。後で行きますから先に行っておいてください。」
「一緒に入らないの?」
「まだ出かけるかもしれませんからね。それに先ほど少し寝ていたせいかまだ眠くないので。」
「...分かったの。」
そういうとティアはドアを開けて風呂へと向かった。
あらかじめ場所などは聞いていたため一人でも迷うことはないだろう。
「さて...と。」
レンヤはティアを見送るとカバンに入れておいた万年筆型の魔道具を取り出し椅子に深く腰掛ける。
「特に変わった場所はないか...さして言うならインクを入れる場所が無いということだけ。」
ボールペンやシャーペンは回したり引っ張ったりすることでペン自体を上下に分解できるが、この万年筆には分解できるような設計をしておらず、水銀の温度計のような目盛りのようなものが横に刻まれているだけであった。
試しに右手に万年筆を持ち、マナを流してみるとそのメモリがゆっくりと上昇していくのが分かる。
ステータスを表示させてMPの減りと目盛りの上昇を比べてみると予想として最大で1000は入るらしい。
「いやどんだけ多いんですか、普通の魔術師なら一回で充電できない量じゃないですか...。」
そういいながら少しだけ充電を済ませると、カバンから今度はマラン村の村長から貰ったままになっていたいらなくなった裏紙を取り出して机の上に置き、万年筆のキャップを取ると漢字で"火"と書いてみる。インクが無い代わりにどのように書けるのかと思ったら、文字を書いたところが金色に輝きながら光っている。
「...。」
特に何か起こるような様子もなくただの紙のままである。
試しに紙を持ち上げて紙自体にマナを通してみるがそれでも変化はない。
「やっぱり方法が違うのかな?」
露店の店主も言っていた通り魔法陣を描くための魔道具なのだから魔法陣しか描けないらしい。
「調べるならやっぱり図書館なんだろうけどこの時間開いてないだろうしな...それにまたティアさんを置いていったら何か言われそうで面倒だしどうするか。まぁ今日はもう何もできないことは分かったか。」
紙を机に置いてその上に万年筆を置くと、紙に書かれた文字がだんだんと薄くなって消えていき、その代わりにメモリがわずかに上昇していき元の高さまで戻った。
「へぇ、こんな使い方もあるんだ。消しゴムみたいなものか。」
紙を再び持ち上げてランプに透かしてみるがうっすらと見えるなんてことは無く、完璧に消えていることが確認できた。
レンヤも息抜きにお風呂へ行こうかと考えるが、ティアがお風呂に行ってからもう30分は経過しているがまだ帰ってくる様子もない。
ティアを一人で風呂に行かせたが、獣人であることと奴隷であることから急に心配になってくる。
「まさか...安い宿じゃあるまいし大丈夫だろ...。」
ロベルトの知り合いの経営している宿ということで多少は信頼しているが決して何も起こらないという確信があるわけでもない。
それにティアと入れ違いになって鍵が閉まっているという状況にでもしたら必ずといっていいほどティアは動揺するだろう。
「さっさと風呂に入ってきて戻ってくるか、それとも帰ってくるまで待っておくべきか。」
宿の見取り図を思い出してみると、お風呂は確か一階にあり、そこの入り口にはベンチもあったことを思い出す。
「待っておくのが一番いいかな、途中で会ったら鍵を渡せばいいし。」
レンヤは風呂の準備をすると部屋を出て鍵を閉め、一階へと向かった。




