45. アベル伯爵護衛依頼21
鍔迫り合いの状況でレンヤは小声で聞いた。
「どうして僕が出ないといけないんですか。」
「...。」
「そうですか無視ですか。はぁー。」
全く想像の付かないロベルトの考えに何度目になるか分からないため息をするとレンヤは相手を押して後ろに少し引かせ、自分は後ろに飛んで距離をとる。しかし距離を開けた途端にロベルトが迫ってきて振り上げた剣をレンヤに振り下ろして斬りかかる。
「!!」
着地時に若干よろめいたところにロベルトが斬りかかってきたため刀で剣を受けるが、受けた瞬間に力業だけで受けることができないと判断し刀をそらしてロベルトの剣を下に落とす。しかし地面に突き刺さるかといった距離で急に剣先をレンヤに向けなおして斬りかかる。
「(そこから剣先変えて斬りかかれるんですか!!)」
人間離れしているなと考えたが迫りくる剣に対抗する手段はなくレンヤは避けることしかできなかった。しかし剣の速さは尋常ではなく左腕の二の腕の部分に当たった。あの攻撃から左腕の負傷だけで済ませられたのは幸運だと見ていた観客方は思っただろうが、レンヤはそれどころではない。
「(ぬぁ――。痛すぎるだろこれ。)」
再び距離が開いたが今度はロベルトは攻めてくる気は無いようであり、レンヤの行動を注意してみている。
「(あぁ――、痛いなぁ―。途中棄権なんてできるのかなぁ...)」
左腕を見ると動かそうとしても動かずプラーンとぶら下がっているように見える。
この時点でレンヤのやる気はほとんど残っていなかった。
「(これが骨折ていうのかな?まぁしたことないから分からないけど。)」
幸い刀は右手に持っていたため手元にまだある。
そんなのんきなことを考えていると再びロベルトが距離を縮めて斬りかかってくる。
最初の数撃は何とかしのぐがだんだんと腕が耐えられなくなってくる。
「(こんな重い剣片手で受けられないだろー。)」
そう思いながら刀で受けるが案の定、刀ごと飛ばされる。
飛ばされてオリにぶつかるが幸か不幸か気絶はしていない。剣を受けた右手は刀を握ってはいるが痙攣している。
その間にもレンヤとの距離を狭めたロベルトは、今度は右腕の骨を折りに来る。
本当の実戦であったらレンヤは両腕をなくした状態となってる。
もはや勝負は決まったようなものであったが審判は誰も終わりの合図をしない。
ロベルトはそれからも攻撃する手を緩めない。骨折しない程度の攻撃なのはレンヤを気遣っているのだろうか、それならいっそ早く気絶させてほしかった。
痛いなぁと考えているとロベルトから殺気を感じる。
「(いや...まさかね。)」
レンヤは気絶はすることがあっても殺す気は無いだろうとロベルトをどこかで信じていたため気のせいではないかと思い込む。
もはや体力の残っていないレンヤは地面に仰向けに倒れているだけであった。
ロベルトはレンヤの首元に剣をあてると振り上げ、そして振り下ろす。
『一応殺しはご法度だからな。』
ふとロベルトの言葉を思い出す。一応ということは殺し合いとなる可能性もあるということであったのだといまさらながら思い、死ぬのかなぁと考えながら目を閉じた。
「もう!君が死んだら僕まで死んじゃうんだから気を付けてよね!」
懐かしいのかよくわからない声に目を開けると子供姿のレンヤがいる。
周りは白黒の世界となっており止まっている。観客も審判も、そして剣を振り下ろしているロベルトも。
「やっぱり殺されかけてた?」
「当然だよ!まぁ今回君は巻き込まれただけだからどうしようもないんだけどね。」
「巻き込まれた?」
「そうだよ、今のロベルトを見て何も感じなかったの?」
「多少殺気がすごいなーって思った程度?」
「そういえばレンヤはロベルトのステータスを知らなかったね、彼は特殊なスキルというか呪いというか...持ってるんだよ。」
「ロベルトさんも大変なんですね。」
「いやいや、今回はレンヤも悪いよ。戦いなら手を抜かずに相手をつぶさないと。いくらロベルトが知り合いだからって無意識に攻撃するのをためらってるでしょ。だからそんなにやる気がないんだよ。」
「でも知ってる人ってやりずらいじゃないですか。」
「いやまぁそうだけどさ。じゃあ和樹はどうなるの?知り合いだよ?」
「あいつはもう他人だよ。」
「そこは割り切ってるんだ。でも僕が言いたいことも分かるでしょ?」
「僕が優しすぎるってことですか?」
「そ。そういうこと。僕はいつから人間を信じるようになったの?いや、人間というよりも自分以外かな?和樹に巻き込まれてこの世界にきて、君は何度巻き込まれて戦ってきた?」
「いやまだ片手で数えられる程度だけど。」
「それでも多い方だよ。」
はぁーっと子供レンヤがため息をつく。
「最初の村で盗賊に巻き込まれた、ティアの事件もそうだ、そして今回はロベルトに巻き込まれた。確かに回数は少ないけどレンヤが首を突っ込まないといけない内容だった?ティアにも言っていたじゃない。『僕はあまり他人事に首を突っ込まないことと容赦ないこと。』って。この世界で君が他人と切り捨てられない人はいるの?まだティアは子供だからっていう理由で君は信じているみたいだけど。」
「だって信じたいじゃないですか。」
「理由が子供っぽいよ。この世界は物語じゃないんだ。ピンチになったからって本来ない力が覚醒することも誰かが助けてくれるってこともない。まぁ勇者は別だけどね。」
「君は僕を助けたじゃないですか。」
「僕は僕を助けただけだよ。他人じゃないと思うけど。まぁいいや、そろそろ時間か。君がこの人生を終わらせるのは自由だし僕もそれに従うよ。でもティアもが待ってるんでしょ?信じたいなら相手に信じてもらわないと。」
そういうとレンヤの姿がだんだんと消えていく。
白黒の世界のまま動き始めた時間に一人子供レンヤが取り残された。
動き出した世界ではレンヤがロベルトの振り下ろした剣を転がることで避けていた。
そして立ち上がり距離を取ろうとするがロベルトは走り込んでそうさせないようにする。
再び振り上げた剣を振り下ろそうとするが瞬時に二人の間に地面から壁が作られてさえぎられた。
はじかれた剣が子供レンヤをかすめるが何もなかったように、幻影に手が届かないように通り過ぎた。
「地の魔術で壁を作ったか、もう大丈夫かな。」
子供レンヤが白黒世界でレンヤに目を向けると光の属性魔術で自分の腕を治癒している。
「君が道を間違えてこの世界が壊れても何度も繰り返すんだから、ましてや今回が最初なんだから今はそう思った道を進まないと。」
そうつぶやき白黒の世界から子供レンヤも消えた。
とりあえず迫りくる剣から避けなければならないが体力を消費しすぎるわけにはいかないので転がることで避け、瞬時に立ち上がり地属性魔術『地・防壁』の詠唱をして準備をすると、ロベルトが再び斬りかかってくるタイミングでつま先で地面をトントンと叩き発動させる。
『地・防壁』の硬さはレンヤが思っていたよりもあり、ロベルトの攻撃をはじいている。
その間に治癒魔法を詠唱して両手や体の傷を治しすが、右腕を負傷した際に刀を離してしまったことに気付く。
「(ちっ、魔術で剣を作ってもいいけどここまできて反則負けになりたくはないしどうするかな。)」
この戦いに真剣を使ってはいけないというルールは聞いたことはなかったがもしあったとしてここで負けるわけにはいかない。
周りを見ると刀は以外にも近くに落ちていた。
ロベルトはいまだ壁を剣で斬りつけており、壁も削られてきてはいたがまだそう少しなら大丈夫だろう。
レンヤは走って刀を拾うとちょうど壁が壊れた所であった。
再び二人が向き合って互いに構えたがレンヤはすぐに攻撃を仕掛け、その目にはもはや迷いはなかった。
レンヤが距離を縮めたのを見たロベルトは横に構えた剣をバットのように振りぬくがレンヤが直前に地面に刺した刀にぶつかり勢いが一瞬止まる。
その隙にレンヤは地面に突き刺した刀の柄に右手を乗せ、支点にしてジャンプすると部分強化した左足でロベルトの頭を蹴りぬく。
その直後ロベルトの剣を受け止めた刀が折れるがたいして高く飛んでいた訳ではなかったため無事に着地するとロベルトが手放した剣をつかむ。
ロベルトはオリの壁まで飛んでぶつかるが意識を失うには達していない。
立ち上がって素手で殴りかかってくるが手でそれを受け続け、隙が出来たらまた蹴り飛ばす。
そこまで一気に距離を縮めると剣を思いっきり振りかぶりロベルトの右足すねを強打する。
痛みに一瞬ロベルトは唸るが戦いなれた戦士だからだろうか、オリをつかみながら左足だけで立ち上がるがオリをつかんでいた右手をも剣で叩きつける。
おそらくこれで左足と右手は使い物にはならなくなった。
肩で息をするロベルトにとどめをさそうかとも考えるがここまできて殺すことに抵抗を覚えた。
「(こんな感じだったら笑われるかな...)」
先ほどまでの無心とは違いふと子供レンヤが頭をよぎる。
「(今回はこれで許してください。)」
そう心の中で謝り倒れているロベルトに目を向ける。一瞬黒い感情が起こるが何とかそれを抑え込みロベルトの頭をつかみ持ち上げると、思い切り地面に叩きつける。
「ガハっ!」
そう小さく口から洩れた後ロベルトは白目になり気を失った。
外にいた審判は旗を揚げて試合終了を決定する。
あたりはいまだロベルトが負けたことが信じられないのか静寂に包まれたままであった。
オリから出てカウンターに向かうと無言で賞金が渡され、袋の中を見てみると金貨や銀貨など数種類の貨幣が入っていたが枚数までは分からなかった。
振り返ると係員にロベルトが引きずられていた。
「この人どうするんですか?」
「敗者は建物の入り口に転がされる、これは決まりです。」
「宿屋まで届けてもらえませんか?」
「銀貨10枚で承っています。」
「分かりました。これでお願いします。」
そういうとレンヤは賞金の入った袋から金貨1枚取り出して払い宿屋の名前を言う。受付からお釣りをもらい建物を出るがあたりはまだ暗く入った時のような喧騒が聞こえる。
それすらうるさく感じ、ティアの待つ宿屋へ帰る足は速くなるのであった。
部屋に戻るとティアは案の定寝ていた。
何も知らない顔して穏やかに寝ている頭を撫でながらレンヤはポツリとつぶやく。
「僕はあなたを信じてもいいのでしょうか、ティアさん。」
もちろん返事はなかったが聞けただけで満足だった。
どもども( *・ω・)ノ
くまさんです。
結局前話の更新遅れてしまい申し訳ないです(×_×)
これからも読んでいただければと思います...
よかったらブックマーク追加してくださると嬉しいです( ´∀`)
誤字等ありましたらいつも通りで。
ではでは( *・ω・)ノ




