39. アベル伯爵護衛依頼15
10月7日 続きを更新しました!
ティアの髪はとてもさらさらとしており、撫でているととても幸せそうな顔をするためレンヤの心も自然と和む。
「...昔も良く彩香の頭を撫でていたな、元気かな?」
撫でている感触が彩香の時と似ていたため、ふと思い出してポツリとつぶやく。
「ん?...レンヤどうかしたの?」
しかしその声はとても小さかったのか聞き逃したのか、ティアは聞いていないようだった。
腕を下に降ろしたことによって集中が切れたためかティアの手のひらに出てきていたマナの球体も消える。
「いえ、なんでもありませんよ。」
レンヤは懐かしさや寂しさが一瞬よぎったが頭をふって考えないようにし、再びステータスを確認することでMPの減りを確認する。
――――――――――――――――――――
名前 ティア シミラ
種族 獣人
身分 奴隷 (所有者:レンヤ ヒイラギ)
HP 32
MP 15
魔力 0
知力 15
敏捷 20
運 10
スキル
・吸収 (UR)
・属性魔術 土 Lv.1
・--神の加護ユニーク
※鑑識失敗
▼
--神の加護。半神刻ごとにMaxステータスの5%の自動回復効果。
物理攻撃10%軽減・魔術攻撃10%軽減
――――――――――――――――――――
「(マナの球体一つでMPを10消費、まぁあの大きさで10なら少ないと考えるべきか消費量が多いと考えるべきか...)」
「もう一度やってみましょう。できますか?」
「...うん、やってみる。」
そういうと再び両手で何かをすくうように手を揃えて持ち上げ、手のひらの上にマナを集中させる。
先ほどよりも球体の形は小さくなったが形は安定しておりとても澄んだ透明な色をいていたが、時間がたつにつれてティアの息がだんだんと荒くなってき、肩で息をするようにとても苦しそうな顔をする。
「ティアさん、苦しいならやめていいんですよ?」
「...大丈夫。訓練はきついものなの。」
「でも体に負担はかかりますから一旦やめましょう。」
そういうとレンヤはティアの手を包んで下に降ろし手を離す。
再びステータスを確認するとティアのMPは6まで減少していた。
「今ティアさんが息切れしてきつくなっているのは魔術を用いる際に使用するMPというものがとても少なくなっているためです。この状態のまま魔術を行使すると最悪魔素欠乏症という症状で倒れますので気を付けてくださいね。」
「...でもティアはマナを吸収できるから大丈夫なんでしょ?」
「まぁそうですかね、ではこの状態のまま吸収の訓練しますか?」
「...うん、お願いする。」
「ティアさんは相手に触れることで吸収ができるんでしたよね?」
「...そう。」
そう答えるとティアは自分の小さい右手をレンヤに差し出す。
「え、なんですかその手は。まさかティアさんもう吸収のスキル使えるんじゃないですか?」
早くレンヤのマナを吸収しようとしているかのような行為にレンヤは冗談を言う。
「えっ...そんなこと...ない...よ?」
「(おいおい、ホントですかこの子供は。)」
かわいらしく首を傾けたティアの今の答え方に若干の不安を抱える。
「はぁ、分かりました。吸うならほどほどにしてくださいね。」
そういうとレンヤは自分の右手をティアに差し出した。
ティアは差し出されたレンヤの右手を両手でつかむと目をつぶり集中し始める。
ティアの両手にマナが集まり、ティアの純粋な白い光がレンヤの若干濁ったマナを白色に変えてティアに吸収されていく様子が魔眼を通して見ることができた。
「...吸収している時ってどういった感じなんですか?」
自分のマナの色が白に染まっていく様子を見ながらふと疑問に思ったことを口にする。
「...んっと、相手の魔力を自分の魔力に変えて体の中に取り込んでる感じ...かな?」
「(だからこうマナの色が変換されていたのか、てか僕のマナはこんな色だったかな?)」
ティアにつかまれていない左手に自分のマナを集めると、ティアとは違い白に若干の灰色を混ぜたような自分のマナの色に違和感を感じた。
ついでにステータスを確認すると着々と自分のマナが減少している様子が数値として確認できる。
そしてティアのステータスはMPがだんだんと増えていた。
もともとティアとレンヤのMPの差は二倍近くあったため、ティアが満タンになるまで吸収してもレンヤにとっては吐き気や気持ちが悪くなるような負荷はかからない。
結局ティアは自分のMPが満タンになるまでレンヤから吸収を行い満足してやめた。
「...ティアさん、ほどほどにしてくださいって言いましたよね?」
「...大丈夫、レンヤまだ元気そうだから。」
「(いやいや判断基準おかしいですよ!)」
と心の中で思ったが言っても無駄かという考えにたどり着き黙ったままとする。
少しだけテントから頭を出して外を覗いてみると焚き火をしている周りにフェリプとエリカが見える。お互いの口が動いていて時々笑っていたため二人で話していると考えられた。
「(そういえばフェリプが笑ってるの初めて見たかな。エリカはいつもニコニコしてるけどフェリプはいつ見ても真顔で少しも表情を変化させないからな...)」
空を見上げると雲一つない夜空に無数の星が輝き、月は真上を通り越して傾き始めていた。ポケットに入れておいた懐中時計を見るとティアと訓練を初めて二時間が経過している。
「ティアさん、だいぶ夜も更けてきましたし今日はここまでにしますか?(正直眠いっていうのもあるけどこのままティアさん起きてたら明日村まで行くときにかつぐの面倒くさいからそろそろ寝てほしい。)」
「...レンヤが大丈夫ならまだ練習したい。移動中に寝てたから眠くないし。」
レンヤの思いは通じなかった。
「...分かりました。今度は何の訓練にしましょうか?」
「...土属性の魔術が使えるようになりたい。」
「んー、まぁ適正のある魔術は使えるようになっておきたいですからね。ならそうしますか。」
「...うん。」
「でも人に教えてもらったことも教えたことも無いので完璧自己流になってしまいますけどね。」
「...大丈夫、レンヤなら。」
「だからその自信どこから来るんですか・・・そうですね、まずはさっきのマナの球体を安定して作れるようにしましょうか。」
「...分かった。」
ティアは再び両手を出して目を閉じ、集中する。そして最初の二つよりも小さいが安定した球体が現れた。
「...これでどう?」
「そんな感じで大丈夫ですかね。そしたらこんな風に詠唱してください。」
そういうとレンヤは人差し指をたてた右手をティアの前に出してティアの作ったのと同じ大きさのほどのマナの球体を作り出す。隣に並べることでティアのものと比べるとマナの色に若干の曇りがある事が分かる。
「”地を以って敵を貫く力となれ、アースボール”」
マラン村の図書館で裏紙に書き写した詠唱を思い出して詠唱する。するとマナの球体が渦を巻いて回転しだし、明るい茶色の球体へと変化する。
出来た球体をコンコンと叩いてみると見た目のわりに硬い手ごたえが返ってきた。
「(コンクリ、金属みたいな感じかな...握ってみても壊れる感じはしないしそんな硬くない鎧なら貫通できるかな。)さて、やってみますか。」
「”地を以って敵を貫く力となれ、アースボール”」
ティアは返事はしなかったが一回うなずくとレンヤと同じように詠唱する。
ティアの両手の平の上に出現していたマナの球体は詠唱に応じて渦を巻きゆっくりと回転しだしたが次第にその速度が遅くなっていき回転が停止する。
「...止まった。」
「止まりましたね。」
「...ティア使えないの?」
「まぁ最初にマナの球体が反応してくれましたから適正はあると思いますよ。まだ使い慣れていないだけで練習していれば使えるようになるはずです。初級の基本的な詠唱なのでこれが使えるようになればこれから先の別の詠唱でも感覚が掴めるんじゃないですか?」
「...そういうものなのかな?」
「練習あるのみです。」
レンヤがそういうとティアはまた詠唱を繰り返して練習し始める。
その様子を見ているとだんだんと自分がウトウトしはじめて気が付くと深い眠りについていた。
「さてさて!久しぶりだね!」
「あ、うん、久しぶりです。」
「なんだテンション低いなぁ。せっかく僕が会いに来たのに。」
目の前にはあぐらをかいて座っている子供が一人。
「いや、どうしました?結構感動的でまた会うことなんて年単位でないものだと思わせるような別れ方しましたよね?」
「いやまぁそうなんだけどさ。どんな感じなのかと思って。」
レンヤは再び鏡で出来た床と満天の星空が広がる同じ場所にて子供レンヤと対面していた。
「特には報告することはないですかね。というかなんで今なんですか?」
「ん?気付いてないのかい?僕は今ティアちゃんの訓練風景を見ながらウトウトし始めて、いつの間にか寝てしまってたんだよ。」
「そうだったんですか、ティアさんには申し訳ないことをしてしまいましたね。」
「ま、僕は教えている方なんだから遠慮することはないんじゃないのかい?それに寝ておかないと僕自身のMPも回復しないから寝ておかないと。」
「だったら素直に寝かせてくれないですか?」
ジト目で子供レンヤを見ると面白そうにケタケタと笑った。
「大丈夫だよ、ちゃんと体は休んでるから。」
「はぁ、ならいいですよ。」
「そういえばティアちゃんって面白いスキル持ってたね。」
「あぁ吸収スキル?」
「そうそうそれ。なんで吸収できるかは?」
「ん?分かってるの?」
「あれはただ魔源、マナを生成している部分の消費して空っぽになった部分にマナを吸収しているだけだよ。というか僕ももう使えるようになったみたいだし。」
「そういえばティアさんのマナを吸収したとき自分のマナの色が変わったような...」
「あ、やっぱり気づいたんだ。種族によってマナの成分っていうのかな?そういうのが微妙に違うんだよ。だから人種の僕が獣人族のマナを吸収してしまったことで成分が混ざってしまったんだ。だから微妙に変色したってこと。」
「それって何か副作用ってあるの?」
「んー、特には無いかな?何か分かったらまた教えてあげるよ。」
「こういう時には便利ですね。」
「ま、自分自身何考えてるかくらいわかるからね。それに僕は僕自身しか信じることできないでしょ。」
「それはそうなんだけどさ。」
「あ、あとこれは教えておこうかな?ロベルトさんには注意しといたほうがいいかもよ?」
「ロベルトさん?」
「そう。ま、理由は教えないけどねー。」
「ていうかなんでそんなこと知ってるの?」
「僕は体が無いからね。格好良く言えばそこにいてそこにはいないってやつだよ。世界をさまよっている訳ではないのになぜかこの世界のことは頭の中に流れ込んでくるの。だからかな?いろいろ知ってるけどすべては知らない。プレイヤーじゃなくて審判なの。観戦している客とまで離れてはいないかな?」
「なんか僕じゃないみたいだね。」
「ちゃんと僕だよ。僕も知ってるでしょ?基本的に自分が楽しめればそれでいいの。だから僕、つまり君のこともある程度フォローするけど基本的には手伝いはしないから頑張って生きてね!」
「うわー他人事ー。」
「僕のことだよー。今日はここまでにしておこうかな。」
「次の訪問はいつ頃の予定?」
「そんなの決まってないよ。でもなにか聞きたいなら呼んでくれれば反応はするかもよ?」
「絶対じゃないんだ...ま、それでいいけどさ。」
「それじゃ、また今度。そろそろ起こされるよ。」
「了解。それじゃ。」
子供レンヤが手を振ると目のピントが合わなくなったかのようにぼやけていった。
ども( *・ω・)ノ
くまさんです。
誤字等ありましたら感想欄にてです!
ではでは( *・ω・)ノ




