35.アベル伯爵護衛依頼11
「それでかわいそうだったから連れて帰ったと。」
無事に護衛隊に合流し、ロベルトに理由を話すと何故か頭を抱えられた。護衛隊の騎士達は珍しそうにレンヤたちを見ておりフェリプとエリカは一目見ると興味が無くなったのか目を前方に戻した。
「そうです。」
「帝都に着いてから獣人国に送り届ければいいと思ったと。」
「そうです。」
「帝都まできちんと面倒を見ると。」
「そうです。」
「ホントはかわいかったから拉致ってきたと。」
「そうで...って違いますよ!危ないなぁまったく。」
「はぁ。レンヤ、気が進まないだろうが元の場所に返してきなさい。」
「いやいや、そんな捨てネコ拾ってきた子供に対する母親みたいに言わないでくださいよ。」
「それが現実だ。いくら帝国が王国よりも奴隷の扱いがましだからと言っても所詮奴隷は家畜だと扱う奴もいる。それにまだその子は奴隷契約をしてないだろ?誘拐されて契約させられたらどうしようもないぞ。」
「だそうだよ。あの隠れ家でいいなら直ぐに送るけどどうする?」
ロベルトに正論を言われたのでティアの意見を聞く。
「...レンヤと契約できないの?」
「従属スキル持ちなら一方的に契約を結ぶことは出来るがそうじゃなければ互いに同意していれば契約できるはずだ。」
奴隷関連の話は全く分からなかったのでロベルトを見ると説明してくれた。
「...ティアはレンヤがそれでもいいならそうしたい。」
ティアはレンヤの背に乗ったまま顔を前に出してレンヤの顔を覗きこむ。
「僕はそれでも構いませんよ。奴隷契約の解除って出来ますよね?」
「ん?あぁ、主人か奴隷が死ねば解除できるぞ。」
「「...!?」」
どうやらティアも知らなかったようで二人して驚いた。
「ロベルトさん、嘘ですよね?」
「...嘘はダメ。」
「ははは、冗談だよ。同意だろうがなかろうが契約は主人の方が切ることができる。もちろん主人が死んだ場合も契約は解除される。ま、二人ともそれでいいなら止めないさ。しかしブレイアには言っておいた方がいいぞ。」
「そうですね、そうします。契約ってどうするんですか?」
「まあまあそう慌てなさんな。次の休憩に入ったときでいいだろ。」
歩きながらレンヤとロベルトとティアは自身のことを、と言ってもほとんどティアの過去について話した。
「ん?ティアの親父さんはどうしたよ?」
ティアの生まれ故郷のこと、双子のこと、母親のこと、王国が襲ってきたこと、奴隷になったこと、ティアはたどたどしいながらも最後まで話しきった。この際、スキルのことや呪い状態だったことは伏せておいた。そして案の定というかロベルトは泣いて「大変だったんだなぁ!」と何度も言っていた。そして十分泣いた後でポツリと呟く。レンヤも気にはなっていたが話題があれなだけに聞くのは気まずかった。
「...ティアは父様のことは知らない。産まれた時にはまだいたみたいだけど物心つく頃にはもういなかった。」
ティアは何かを思い出しながらというわけでもなくゆっくりと言った。
「それはホントに母様も大変だったんだなぁ!一人で双子育てて!!よし、こうなったらオレのことを父様と思ってく「嫌です。」...そんな直ぐに否定しなくてもいいだろぉ!!」
あれ、ロベルトってこんな面倒くさい人だったかな?っと泣いてる本人を見ながらレンヤは思った。
「そういえばよく6年も生きていたな。普通の盗賊だったら一年もたたない内に殺されるのにな。」
ケロッとしてロベルトがまた地雷を踏む。
「...ティアはまだ処女だから手を出されることは無かった。その方が高く売れるからって言ってた。それにまだ生きてる動物に触ればティアが(HP吸いとって)殺すから盗賊も私の分の食料を別に用意する必要も無かった。あとは神殿で契約の儀式でついた紋章を消すための費用が高いからそのお金が貯まるまで生かされてた。」
「俺もうしゃべらない。」
「地雷踏まなきゃいいですよ。」
ロベルトがついに落ち込み始めたので一応フォローしておく。
「お、そういえばこの護衛もあと7日ぐらいで終わりそうだぞ。」
話題を変えようとロベルトが思い出したかのように言った。
「あれ、距離的にまだまだ遠かったんじゃないんですか?」
「いやさ、何でも依頼主のあの禿タヌ...ごほん、アベル伯爵様が早く帰りたいとごね始めたらしくてな、次の村で全員乗れるだけの馬車と馬を買うことになったらしいんだ。」
「それはまた...急ですね。」
何か嫌な予感がした。
「おっ、話している内に森から出られそうだぞ。」
ロベルトに促され前方を見てみると木々の間からエジプトを彷彿させるような砂漠が見えた。
「ロベルトさん、僕たち何で砂漠に向かってるんですか?」
「これが旅の醍醐味ってもんよ。森を抜ければ景色や環境が一変する。面白いよなぁ全く!」
何故かロベルトはとても元気だった。
「まだ帝国領ではないんですか?」
「この森を抜ければ一応は帝国領だな。と言ってもまだまだ端の方だが。」
基本的に大きな森はどの国にも属さないことになっている。理由としては昔とある国が領土にしていた森にrank7の魔物が数体現れたが、自国の領土だからと隣国の協力を断り、最終的に討伐しきれずに国を滅ぼされたためらしい。なんとも馬鹿馬鹿しい話ではあるがそんなこんなで森に高ランクの魔物が出現すれば隣国同士協力して討伐しましょうというのが普通となった。
「次の村まであとどれくらいですか?」
「んー、1日くらいじゃないか?さっきから進む速度が速くなっているからもう少し早く着くかもしれないが...」
「そういえば早くなってますね。」
遅すぎてゆっくりなペースで歩いていたが気付けば普通に歩かなければ追いつかないほどのペースとなっていた。
「何か急がないといけない急用でも出来たんですかね?」
「どうだろうな?しかし何か嫌な予感がするんだよな...」
「ロベルトさんもですか?」
「レンヤもか。お互い気を付けようや。」
ふと後ろが静かなことに気付き顔を横に向けると静に寝息をたてながらティアが寝ていた。
「ずいぶんと穏やかな顔して寝てるじゃねぇか。」
「そうですね。会ったときはずいぶんと警戒されてましたが少しは信頼されてるといいのですが。」
「はは、この寝顔を見れば分かるじゃねぇか。」
「そういえばロベルトさんの家には奴隷はいるんですか?」
「どうしたんだ急に。」
「いや、こういう話はティアが起きているときには出来ないじゃないですか。」
「俺んとこにはいねぇな。そんな余裕もなければ奴隷と家畜は違うと思っているからな。貴族連中は美人な奴隷を持っているのがステータスみたいに言っているがどうも俺はそうは思わなくてな。レンヤは奴隷を見たことなかったのか?」
「そうですね。僕がいた村も貴族や裕福な人はいませんでしたから。」
「奴隷といってもいろんな種類がいるからな。戦闘用だったり事務仕事用だったり、それこそ性的なものもある。一般的に首輪だがうまく隠している奴もいるから分からないときはホントに分からない。案外身近にいるもんだよ、奴隷落ちなんて簡単なんだから。」
ロベルトはしみじみと言う。おそらく身近に奴隷落ちした人がいたのかもしれないと推測できたがあえて聞くことも無いと思い聞かない。
話している内に森から出る。
容赦なく照りつける太陽に少しでも抵抗しようとローブのフードを被る。するとティアはすっぽりとローブの中に隠れるようになった。黒色のローブのなので熱が籠るのかと思ったがさほど暑さは感じず時々吹く風が気持ちいいほどである。
「そんなに暑くないんですね。」
「それはそのローブに耐熱の魔方陣が込められているからじゃないのか?俺は暑くて溶けてしまいそうだ。」
レンヤはこっそりとローブに鑑定を行う。
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ローブ
一般的な黒色のローブ。対魔術・熱抵抗の魔方陣が織り込まれている。刃物で斬られるといった物理攻撃にはもちろん弱い。
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(おぅ、そんなすごいローブもらっていたのか。)
「あと1日ってことはこの砂漠の中で夜営ですか?」
「まぁそうなるだろうな。テントは持ってきてるんだろ?」
「まぁ、ありますけど。ティアはどうしましょうか?」
「ん?同じテントでいいんじゃないか?それとも男女が同じ空間で寝れませんってか。レンヤが手を出したいなら出せばいいじゃないか、レンヤの奴隷なんだから。」
「いやいや、手を出したりしませんよ。ティアの方が嫌がらないかってことですよ。」
「んー、まぁ大丈夫なんじゃないか?(ティアの態度的にも嫌がることは無いだろう。)」
「だといいんですけどねぇ...」
「ん...」
「あ、ティアさん起きましたか?」
「...真っ暗。」
「おっと、ごめんなさい。」
レンヤはローブのフードを脱ぐと突然明るくなりティアは目を細めた。
「...ごめん。いつの間にか寝てた。」
「大丈夫ですよ。良く眠れましたか?」
「うん。」
そしてかわいらしいお腹が鳴る音が聞こえる。
「...お腹へった。」
レンヤはクスっと小さく笑うと片手で器用に腰につけてあったカバンからパンを取りだし後ろに渡す。ティアはレンヤの首に手をまわしたまま両手でそれを受けとると小動物のように小さくパンをかじる。
「美味しいですか?」
「...盗賊のとこにいた時よりはまし。」
「それはよかっ「でも私の村のパンの方が美味しい。」...まぁそうでしょうね。食べ馴れていると思いますし。」
「...レンヤも食べる?」
そう言うとティアは一口サイズにパンをちぎりレンヤの口に近づける。
「...あーん。」
レンヤは近づけられたパンを口に入れる。
「...美味しい?」
「まぁ僕はこの味の方が食べ馴れてますからね。」
「ん。」
そう言うとティアはまたモグモグとパンをかじる。
「...なんかさ、カップル?兄妹?見てて微笑ましいんだけど。」
ロベルトはレンヤたちの姿を見て呟いた。
「いやいや、ティアさんに失礼ですよ。」
ティアはかじってずいぶんと小さくなったパンをロベルトに投げつける。ロベルトは筋力が落ちてあまり飛ばなかったパンを器用にキャッチすると口にほおりこんだ。
そしてティアは細い腕でフードを被り隠れた。
と思ったらフードを脱いでまた顔を出す。
「...水ちょうだい。」
「はいはい。」
パンを食べて口の中がパサパサしたのだろう。レンヤは微笑ましく思ってからカバンから飲み物を入れる用の布袋を取り出してティアに渡す。
ティアはコクコクと飲むが手に力が入りきっておらず口から水がこぼれる。
「ティアさんこぼれてますよ。」
レンヤが今度はカバンから布を取り出してティアの口もとを拭く。
「...ありがと。」
そう言うと再びローブを被って隠れた。
「ほら、ロベルトさんが変なこと言うから怒ったじゃないですか。」
「いや、今のはどう見たって...いや、そうだな。すまん。」
ロベルトは反論しようとするが諦めて謝罪する。
「これはティアちゃんも苦労するだろうな。」
「?何か言いましたか?」
「いや、何でもない...」
ロベルトは小さくため息をつくとそう答えた。
ごめんなさい。来週日曜も更新できるか未定です...
なるべく頑張りますが更新できなかったときは
あぁ、無理だったんだなぁ
と思ってください。
ではでは。




