31. アベル伯爵護衛依頼7 -ティア過去1-
今回は短いです。
――――――――――――――――――――
「ねぇティア、私たち魔術使えるようになるのかな?」
「どうだろうねティナ。ティアたち獣人は魔術が使えない人の方が多いから使えないかもしれないよ?」
色鮮やかな服を着たそっくりな二人の女の子が手をつないで村の中を歩いている。
二人の少女の頭には狐の耳、後ろには尻尾がついていた。
「でも母様も婆様も魔術使えるよ?」
「使えたら便利だから使えるようになりたいね!」
そんなことを話しているうちに一つの大きな建物の前にたどり着く。
「「母様ただいまー!」」
二人は玄関の扉を勢いよく開けると中に入る。
「あら、今日は帰ってくるのが早かったわねティナ、ティア。」
家の中には二人をそのまま大きくしたような女性が料理をしており、我が子が帰ってくるのがいつもよりも早いことに驚く。
「明日は儀式の日だもんねー!」
「そうだよ!ティアたちも母様みたいな立派な魔術師になるのー!」
二人は家の台所で晩御飯の準備をしている母親のもとに走って近づくと母親の両脇に立ち、そう答えた。
「ティナ、ティア、もうすぐご飯だから家用の服に着替えておいで。」
「「はーい!」」
二人はそう答えると二階へとつながる階段をのぼって自分たちの部屋へと駆け上がっていった。
「もう二人とも6歳になるのね...どうか二人に神のご加護を。」
姿が見えなくなった階段を見つめたまま母親はそうつぶやくのであった。
獣人の国には昔から6歳の誕生日を迎える日に神殿で魔術が使えるかの検査が行われていた。ここでその後の人生で魔術が使えるかどうかが分かってしまうため、6歳を迎える子供は皆この日を待ち望んでいた。獣人は人間を凌駕した身体能力を手に入れた代わりに魔術の適正能力が低くなったと考えられていたため、使えないからと言っていじめられたりはしないが、誰もが物語の英雄のように魔術で敵を倒すということに憧れを抱いていた。
そしてティナとティアの家系は代々獣人国に使える魔術師であり、二人の母親も100年に一人と言われるほどの魔術使いと呼ばれていた。
娘二人と食卓を囲みながら談笑していると母親がある事を思い出す。
「そういえばティナ、ティア、この村の近くで人間を見なかったかしら?」
「ん?見てないよ?」
「この近くに人間来てるの?」
「最近奴隷商人っていう悪い人間がこの近くをウロウロしているみたいなのよ。捕まったら奴隷の首輪をつけられて人間の国に売り飛ばされちゃうの。いい?この近くで人間を見たら急いで村に戻って誰か大人に言うのよ?」
「大丈夫だよ!」
「ティアたち足が速いからすぐに逃げられるもんね!」
二人は口の周りにソースをつけたまま手に持っていたフォークを振り回して答えた。
「まぁそうよね。村の周りの警備も強化しているから大丈夫だと思うけど念のためよ。」
その後も今日何があったかなど楽しく話しながらその日の食卓は終わり、次の日が早いということで家族全員早く寝ることとなった。
早くベッドに入ったにも関わらず明日が楽しみすぎてなかなか寝れず、結局双子はいつもと同じ時間に寝ていつもの時間に目が覚めた。
二人は起き上がるとおそろいの白を基調とした神殿用の服装へと着替え、下へと降りていく。一回には同じ服を着た母親が朝食を作り終えてテーブルに並べているところであった。
「「おはよーございます母様!!」」
二人は朝の挨拶をすると並んで朝食の用意されたテーブルの椅子に座る。
「はい、おはようございます。時間ははだ余裕あるからちゃんと食べなさいね。」
母親はそう子供たちに言うと使い終わった調理器具を洗い始めた。
「ねえ母様、いつ神殿に行くの?」
ティナは食べているパンを片手に双子と朝ご飯をとる母親に聞く。
「食べ終わってから半神刻(約一時間)ぐらいかしら。でも神殿で手続きもしないといけないから早めに行った方がいいかもしれないわね。」
「ティアたちの他に儀式受ける人いるの?」
「みんな誕生日の日に測ってしまいたがるからいないでしょうね。この村で今日誕生日なのはあなたたち二人だけだし。儀式は大体四半神刻くらいだからちゃんとおとなしくしておくのよ。」
「わかってるよ母様。」
「ティアたちも今日から6歳なんだから。」
話しているうちに朝食を食べ終え、母親は書類の準備や確認、双子は食器洗いをする。お互いに準備が終わったのは食べ終わってから20分ほどであった。
「ちょっと早いけどそろそろ行きましょうか。」
母親がまだかまだかとそわそわしている双子に苦笑しながら言った。
「「はーい!」」
村といっても双子の住んでいる村は王国や帝国の村とは異なりその数倍の広さを持っていた。獣人国は王の住む中心都市以外は村という単位で構成されている国であり、一つ一つの村の領土が広かった。
双子の家から神殿までは歩いておよそ10分ほどの場所にあり、その途中では住宅はもちろんのこと商店や鍛冶屋、ギルド等の建物がある。
「おっ、今日ついに6歳になったか!」
「もう6歳なのねー、これ持っていきなさい!」
「早いわねー、私も年取ってしまったわ。」
この村出身の代々国に使える魔術師の家系としてティナ・ティアの家族は村の中では有名であり、商店の主人や近所の人たち、一度二度しか挨拶を交わしたことのないような人たちまでもが祝福をしてくれ、双子の腕にはお祝いの野菜やら果物、装身具がいっぱいになっていった。
「母様ー重いよー。」
「腕がちぎれるー。」
「ふふふ。それくらいではちぎれませんし、ちぎれてもくっつけてあげますから大丈夫ですよー」
外見は白く大きな石から出来た神殿にたどり着く。
正面の木でできた扉を開くと椅子や祭壇がおかれた空間へと出た。祭壇には初老の男性と若い男性が正装で立っていた。
「ようこそ、ティナさんとティアさんですね。近くの椅子に腰かけてください。ティナさんは別室で手続きを行いますので彼について行ってください。」
そう初老の男性が言うと若い方の男性が母親を別室へと案内していった。
「さて、今から儀式を開始しますが簡単に言うと誓いを立てて魔術適正を測るだけです。」
初老の男性は二人の緊張をほぐすようにニッコリと笑って言った。




