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世界の行方  作者: くま
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3.神界  ○

そこは何もない真っ白な世界だった。

背中がかたく感じるため地面はあるのだろうが白くて壁との区別がつかない。そもそも壁自体あるのだろうか。

ただただ白い世界が広がる。

このままこの世界に居続けたら平衡感覚なども失ってしまうのだろう。


そんな世界で錬也は目を覚ました。

見渡す限りの白い世界。思い出したかのように自分の胸のあたりを手で触れ、手のひらを見てみるが血で赤くなっていなかった。刺された場所を見てみるが血の流れた跡は無く、刺されたはずの制服にも傷跡が残っていなかった。


(ここはどこなのだろう…)


確かに死ぬはずの致命傷を受けた。しかしとても冷静でいられた。

こうして生きている事自体を喜べばいいのだろうか。

殺されたことに怒り狂い、泣き叫べばいいのだろうか。

自分の頭の理解がおいついていないのだろうか。

何の感情も浮かんでこなかった。


「君が柊錬也くんかな?」


ふと声がした方を向くと白髪で立派な白い髭のお年寄りがいた。

その人は西洋絵画に出てきそうな人物だった。


「私は神です。」


「...は?」


「私は神です。」


「えっと...新手の詐欺ですか?」


一般的な神様は傍観を決め込んでおり、人間に干渉してくることは無いと思っていた。それに小説などに出てくるような展開に巻き込まれるほど主人公格の人種だとレンヤ自身思っていなかった。

なので、よほどの神を信仰する宗教の人でなければそれらしい格好をしているだけでそんな事信じないだろう。


「ここに来てそんな反応を見せたのは君が初めてだよ、柊錬也くん。信じようが信じまいが私は神だ。といっても君のいた世界と他の世界を何個か受け持ってるだけだけどね。さっき君は『ここはどこだろう』と考えていたね。なに、驚くことはあるまい。神だから心の読むことくらい出来るからね。ここは天国でも地獄でもない、神がいる神界だよ。君は他の世界へと召喚された蔵田和樹君の生け贄になったんだ。本来生け贄は召喚する側が用意するんだけどその世界の世界神が和樹君を気に入ってね、彼の器以上の力をあげようとしたけど器が足りない、だからたまたま近くにいた君を生け贄に追加したんだろうね。これから君にはそのお詫びにいくつかの選択肢を与えよう。何を選んでも君一人の力で世界に影響が出るわけではないからね。人間なんてほとんどが「成せば成る」と思っているけどそんなの幻想だよ。当然限界はある。私はここまでだからあとは担当の人に任せるよ。それでは次の人生がよいものとなることを。」


「いや、ちょい待っ...」


神様は軽く手を1回叩く。すると、神様は消えて代わりに見た目から天使と分かるとても美人な人が現れた。ちなみに神様はどこにでもいそうな普通のおじいさんだった。いきなりの事で結局あまりしゃべれなかったな。


「では、担当を務めさせていただきますサリと申します、よろしくお願いします。」


「はぁ、よろしくお願いします....。」


相手が深々とお辞儀をしてきたらついつい頭を下げてしまうのは日本人なら仕方がないだろう。


「今回巻き込まれた錬也さんには選択肢が3つあります。1つ目はこのまま死後の世界へと行くこと。2つ目は地球に他の人物として生まれること。この際今までの記憶は受け継がれません。そして柊錬也さんとして生まれることはありません。全くの別人となります。当然記憶は引き継ぎません。そして最後に3つ目は異世界へと転移です。この場合今までの記憶は引き継がれ、容姿もそのままとなります。どうされますか?」


「では素直に死後の世界に行きたいと思います。」


「...必ずしも錬也さんのご両親に会えるとは限りませんよ?それでもいいのですか?」


さすが天使とでもいえばいいのだろうか。レンヤが考えたわずかな可能性を言い当てた。


「いいですよ。死後の世界、天国か地獄か分かりませんが自分が生きてきた人生が地獄に行くようなものでしたらちゃんと償わなければいけませんからね。天国なら今まで忙しかった分ゆっくり過ごさせていただきますよ。」


今まで間違いのない人生だったかと聞かれればそうだと確信して答えられるわけではない。

当然失敗はしたし、それを反省して次に生かせるように生きてきた。

それでも「お前は間違いをし過ぎた。」と存在するか分からない閻魔様に言われ地獄に落とされるならそれはしょうがないと苦笑いして受け入れることもできる。


「でもずっと天国にいるのは暇になりますよ!異世界はいかがですか?」


「どれでもいいのでしたらこのまま柊錬也として死なせてください。」


最初は事務的な感じに話していた天使サリも錬也がこのまま死にたいと言うとだんだんと表情に焦りが出てきた。するとサリは後ろを向いて右手で右耳を軽く押さえ、小さい声で話し始める。


「あっ、柊錬也さんの担当をしてますサリです。先輩、錬也さんが異世界に行きたがらないようなのですがどうしましょうか...はい...はい...分かりました、お待ちしてます。」


電話のような話を終えると錬也の方を振り返り、にっこりと笑う。端から見たらただの独り言だ。


「お仕事でストレスがたまるんですね。」


仕事柄からストレスが溜まるのだろう。

ちょっとかわいそうな人を見るような顔をして錬也はサリを見た。


「ち、違いますよ!別に独り言じゃありませんよ!ちょっと上司に相談してただけですから!だからそんな残念な子を見るような目で見ないでくださいよぉ...」


天使サリは崩れるように座り込むとそっぽを向いていじけ始めた。


「確かに今まで厨二っぽい人の相手をして確かにストレスも疲れも溜まりますよ!でも私だってまだこの役目を始めて100年くらいの新人ですが頑張ってるんですからぁ...ぐすん。」


「いや、ぐすんって自分で言わないでくださいよ...」


しばらく静寂が続いた。正直この場にいるのがつらい。何回かチラッチラッとサリがこっちを見てくる。


「やっぱり異世界には行きたくないですか?」


「いやですよ、この調子だったらどうせ和樹がいるところに転移させるんでしょ?」


「それはその...いやそうですが...異世界ですよ?憧れませんか?」


「それはまぁ多少は憧れはありますよ、ラノベとかである展開ですから。」


「なら行きましょう!いや、もう勝手に送り込んでいいでしょ!」


「おいそれでいいのか天使様!仕事しなさい。」


「すみません遅れました!」


急にサリさんの後ろにもう一人天使が現れた。

サリさんとは違い日本人のような顔だちの天使であり、どこか懐かしさを感じた。


「錬也さん、あなたが転移を拒む理由は分かりました。ですがここはこの天界のためにも転移していただけませんでしょうか?」


「...どういう事ですか?」


「今の天界の状況をご覧いただきます。」


そう言うと先輩天使は指をならす。すると錬也たちの前に半透明のスクリーンが現れ、3人(?)の姿が見えてきた。


「やぁ、お疲れさま人神。」


先ほど自分は神だと言っていた人物が他の2人の所に近づくと、頭から何かの動物の耳がはえている男性から声をかけられる。


「いやぁ、久々の人前で緊張したよ。まさか人間代表勇者の和樹君に巻き込まれる人がいるとはね。まあ、勇者があの世界神の好きそうな顔だっのが運のつきだと思ってほしいね。でもこれでやっと私の駒が準備出来たよ。獣神と魔神が先に勇者召喚するから焦ったじゃないか。」


「いや、お前が召喚するのが遅かっただけだからな!この話しはとっくに千年前から話してきたんだから適当に目星つけとけよ。」


そう人神に反論したのは見た目は人間だが背中から黒い翼がはえ、他の神とは違い黒い服装の神であるため魔神だろうか。


「でもこの賭けに勝った神が次の神界を支配出来る権利を得られるんだから慎重にもなるよ。」


人神を庇い、話を変えるように獣神が言った。


「せっかく前の全能神を殺したのに次の神が決まらなかったからね。この勝負方法だったらみんな文句ないでしょ。まぁ、文句を言いそうな神はもういないだろうけどさ。じゃぁ、みんな一斉に担当している種族のところに勇者を召喚して種族同士の殺し合いを始めてもらおうか!それで生き残った種族の神が次の神界の神ということで!」


そう人神が言うとスクリーンは消えた。


「これは先ほど行われた神同士の会話を盗さ…コホン、録画したものです。今現在神界の最高位に君臨するこの3神はこの神界が管理する世界の1つで戦争を始めようとしています。他の神もいますが逆らうと幽閉または降格、つまり神格を奪われるため、今は異議を唱える神はいません。今回錬也さんにはこの世界に転移していただき戦争を阻止、とまではいかなくてもバランスを保つ役割をしてもらいたいのです。」


「先ほどサリさんが僕を転移させようと必死になっていましたが何故でしょうか?」


質問があるかどうか尋ねるように先輩天使が見てきたので質問する。


「正直に言うと転移者は錬也さんで12人目となります。前の転移者はことごとく転移して5日以内に死んでます。いえ、殺されたと言った方がいいのでしょうか。しかし錬也さんは上手くいきそうだったので錬也さんの魂を勝手ながら捕獲させていただきました。」


「ちなみに捕獲されてなかったらどうなっていたんですか?」


「先ほど人神様は選択肢を与えると言ってましたが、実際には適当な世界の森の中に転移させられ、魔物に食われて死にます。そして死後の世界へと行きます。まぁ、そのあとは管轄外なので分かりませんが...」


「あと何で僕だと大丈夫だと?」


「今までサリの選んだ12人全員が『異世界だー!』だの『ハーレムきたー!』だの言うわりにスペックが足りませんでしたからね。能力を与えても使い慣れる前に殺されてきました。その点、錬也さんはスペックも十分ですし冷静ですから生き残れるかと。地道に成長できればあちらの世界でも屈指の実力者になるだけの器の持ち主ですから。私が選定させていただきました。」


サリさん...今までの人選大丈夫なんですか...

てか今までの人たち能力もらって何で死んでるんですか...


ふとサリさんの方を向くと顔をそむけられた。

やはり人選が悪かったのは自覚していたのであろう。


「では僕が異世界に行くことによるメリットはあるんですか?」


「そうですね、あなたは今までの人と違いチートと言われるような能力を欲しがっていませんからね。しかしあなたを動かすための材料はありますよ。ご両親を交渉材料とさせていただきます。錬也さんが異世界へと行ってくださればご両親を天国へと送ることは確定しましょう。どうですか?」


「僕が言うのも変ですがの二人が地獄にいてるなんてありませんよ。それにこれは交渉じゃなく脅迫ですよ?」


「そうですね、さすがにそんなに簡単に了承してくれるとは思っていませんでしたし。確かに二人の魂は地獄にはありません。地獄には。では、二人の魂の安全を確保するというのは?」


「卑怯では?」


「こちらも自分達の仕事と管理する世界の住人の命を預かっていますからね。多少卑怯と思われるかもしれませんがご了承ください。私たちはあなたを無理矢理転移させることも出来ましたができればあなたにはご了解いただきたかったので...やはりダメでしょうか?」


天使2人を見る。先輩天使は黙っているが頼むように、そしてサリさんは先輩の後ろから顔を出して目をウルウルさせている。

まぁ、自分が死後の世界に行くことが多少遅れるだけだ。それで両親が幸せになれるなら...


「はぁ―、分かりました、お受けします。」


「よかった、ありがとうございます。あなたに特に何かをしてくださいとお願いするわけではありません。錬也さんは平和主義的な性格ですから自然と種族間を取り持ってくれるでしょう。気負わず生活してくだされば大丈夫です。」


「分かりました。では両親の事お願いしますね。」


「そこは大丈夫ですよ。錬也さんみたいな息子さんがいてご両親もとても嬉しいでしょうね。」


「それはどうでしょうかね、あまり親孝行できずに先立たれてしまいましたから。」


「きっと喜ばれていると思いますよ。それではあなたをこれから転移させますが基本的な事はステータスのメッセージに送信しておきますので確認しておいてください。『ステータス』と言えば状態を見ることができます。決して油断せずに生き抜くことを第一としてください。戦争をとめたいのはこちらのかってな意見ですから。」


そう言うと先輩天使は微笑んだ。何か思い出しそうになるがノイズがかかったように思い出すのを拒んでいる。しかし何故か涙が出そうになった。

そしてこっちを見ていたサリさんと目があう。


「サリさん、お仕事大変でしょうが無理をしない程度に頑張ってくださいね。」


「分かってますよ。錬也さんも異世界生活を頑張って過ごしてくださいね。」


あいさつを済ませると先輩天使が錬也に手を向ける。すると和樹を飲み込んだような魔方陣が足元に現れ、だんだんと沈んでいくが特に恐怖は感じなかった。


「それでは行ってきます。」


自然と言ってしまった。自分でも驚いたがこの雰囲気に何か懐かしさを感じたのだろう。この言葉を最後に錬也は天界から旅立っていった。



「何故かとても惹かれる人でしたね、錬也さんは。器の大きさだけでは神になることも出来るのでは?」


「確かに可能でしょうが今の天界の騒動にあまり知らないで放り込むのはさすがにかわいそうですからね。それに功績をたてなければ神にはなりません。さてサリ、錬也さんにはどんな能力をつけたのですか?」


「今回は特に手を加えていません。錬也さんはもともとの器が大きいのに加えて潜在的な能力が高いので変に能力を増やすとバランスが崩壊して下手したら1日で体が壊れてしまいます。体は人間のままですから。自然と手に入るスキルで頑張ってくださいとしかいう事が出来ませんね。しかしマリさん、錬也くんは大丈夫でしょうか?今までの12人は全員神の手によって死んでますが...。」


「大丈夫ですよ、サリ。あの子は私の(・・・)なんですから。それでは仕事に戻りますよ。まだまだ溜まってるんですから。」


「先輩!急に腹痛が!」


「給料減額にしますよ。」


「お、横暴ですぅ!」


天使二人も消えて何もない白い空間が残るだけとなった。


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