29.アベル伯爵護衛依頼5
「んー、8人か。以外に少なかったな。でもすごい勢いでこっち来てる。」
8人はまるで走っているかのような速さでこちらへと来ており、ここに到着すまでにあと2分ほどであった。レンヤは目を開けると頃合いを見はかり、右手を軽く上に挙げてマナを集めることでマナの球を8つ形成する。
「"地を以って敵を貫く牙となれ、アースランス"」
詠唱すると8つの球は渦を巻いて回転しだし、形を長さ2m程の先が細くとがるランスへと変形した。
森の奥の方からガサガサいう音が近づき盗賊の一人が茂みから出てくると、続いてぞろぞろと他のメンバーも出てきた。
レンヤは全員の位置を視界に入れ、鑑定で一人目が盗賊である事を確認すると瞬時に右手を振り下ろし8つのランスと飛ばした。
先頭にいた盗賊はレンヤと周りに形成された魔術に誰よりも早く気付いたためか瞬時に身を低くすることでランスから逃れるが他の7人は避ける余裕はなく、体の心臓付近を貫かれるとその場に倒れ、周辺に血が広がっていった。最初の盗賊が避けたランスは誰に当たる訳でもなく盗賊が出てきた植物の茂みを貫通し、姿が見えなくなったが直後に獣の唸り声が聞こえた。
盗賊が一人避けてしまったのに加え、突然した獣の声にレンヤは鞘から刀を抜くと同時に茂みに視線を向け、気配察知を行うが生き物の反応はなかった。
その間のほんのわずかな隙を見計らい、盗賊は傷だらけで体力を消耗している自分の状態と敵であるレンヤの強さを判断するとこのままでは死ぬと分かったのか護衛の列の方向ではなく道のない茂みへと走り込みその姿を再び消した。
「!?ちょい待っ...」
前に神様相手にこんなこと経験したなと思いながらもレンヤは盗賊を呼び止めようとするがセリフを言い終わる前に消えた。
このままあの盗賊を追いかけてもよかったが先ほど殺した盗賊のギルドカードもあり、レンヤはその場にとどまってしまった。気配察知をするとあの盗賊がどんどんと遠ざかっていくのが感じられ、何とか方向を確認することができ、このまま短時間でギルドカードを拾えれば何とか位置を追いかけられる距離であった。
レンヤは死んだ盗賊の一人目のポケットからギルドカードを見つけると他の盗賊も同じようにポケットからギルドカードが出てきて比較的簡単に見つけることができた。
盗賊のギルドカードを回収し終わると気配察知範囲内にいるあの逃げていった盗賊を追いかけても良かったが、ふと茂みの奥が気になったため茂みをかき分けて奥へと行く。そこには額のちょうど中心に槍でえぐられたような穴が開いており、あたりに血が飛び散らせた大きな黒い熊の死骸があった。大きさとしては全長3m程であり、その体の大きさに合わせたかのような鋭く大きな爪や牙が特徴的だった。
「"鑑定"」
レンヤは熊だった物に鑑定を行う。
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ビッググリズリー
HP 0
MP 0
スキル
・威圧
▼
グリズリー種の中ではあまり強くないとされているが
体力や素早さ、威力においてrank5に入るとされている。
強いわりに素材として使えるのは肉と爪、牙くらいしか
ないため冒険者からは避けられている魔物。
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「盗賊を追いかけていたのかな?でもなんか説明かわいそうだな...」
しかし気配察知ではまとまった反応は8つだったはずであり、可能性として魔術の詠唱準備に入っていている間に盗賊に追いついたことが考えられた。確かに盗賊の集団よりも遠くに気配としては感じていたが、短時間で追いつけると考えるには離れすぎていたため戦闘になる前に殺せていたことは運がよかったのかもしれなかった。
レンヤは説明を見て何となくビッググリズリーを不憫に思い、刀で大雑把に切るとアイテムボックスの中へと入れた。
「(お肉はおいしくいただきます。)」
レンヤは地面に残った頭に対して合掌して心の中で言った。
すぐに盗賊を追いかけようと思ったが、盗賊はレンヤが熊を捌いている頃から同じ場所にずっととどまっている感じであった。死んでいれば気配察知に反応しないため生きているのだろうが動いていないため不審に感じながらも走ってその場所へと向かった。
逃げた盗賊が留まっている場所に向かって走って1~2分程だろうか、森の中で小屋を発見した。レンガのような見た目の素材を積み重ねてできた家であるが、ずっと前に建てられたためか、あちらこちらで壁が壊れかけていた。
「まぁ、こんなところに建ってたら魔物とか盗賊がおそってくるだろうねぇ...」
壁の一部に小さく完全に崩れてて中が見えるようになっている部分があったためこっそりと近づいて中を覗き見る。中は水晶のようなものが光っており明るくなっていたが見た感じ誰もいなかった。
レンヤは建物のドアをゆっくりと開けると中に入る。中には本当に誰もおらず、机の上には酒の入った瓶のようなものが数本転がっており、部屋の中はアルコールのような酒独特なにおいが漂っていた。
「(誰もいないか...でも気配は4つ感じる)」
机の下やいすの下はもちろんのこと、隠れることが出来そうなところを探したが誰もいなかった。
「(もう探すの面倒だしいっそのことこの家ごと壊すか...)」
レンヤは探しても何も見つからないという状況下で多少イラつき、物騒な考えをしていた時とても小さいが話している声が聞こえた。
「...ヤバいで... こんか...あき...ましょ...。」
「なに...こんな...め...やるしか...」
会話はトンネルの中でしているみたいに響いているような感じがするのに加え、とても小さいためすべてを聞き取ることは困難であった。
レンヤはあたりを見渡し、声が響く場所を探す。当てはまるものは部屋の隅に設置されていた暖炉くらいしかなく、刀を抜いたまま暖炉へと近づき上へと延びるトンネルを覗くが誰もいなかった。ふと下を見ると埃を被っていない暖炉の底板があり、微妙に傾いて置かれていることに気付いた。それは簡単に持ち上がり、下に地下へと続く階段がのびているのが見えた。レンヤは耳を近づけると会話が聞こえてきた。
「ボス!ほんと今回はヤバいですって!魔術使うガキがいたんですよ?こんなの敵う訳ねぇですよ!もう俺たち三人しかいないんですからもう諦めて次ねらいましょうよ!」
「おめぇこの前もそんなことほざいていただろうが!最近戦争のせいでここ通る奴が少ねぇんだから次いつ来るか分かんのか?あぁ?」
「でも今回行ったら確実に全滅ですよ!」
「(これ完璧盗賊ですやん。)」
レンヤは会話から相手が盗賊であると判断するとゆっくりと音を当てないように階段を下りていく。
地下は意外と深くまで掘っていたのか結構長く続いており、明かりは地下の部屋にあるだけのようだったので微かな光を頼りに下りていく。
中が見えるほどの高さまで来るとしゃがんで中の様子を伺う。中には小さな机とその周りに3つの椅子があり、先ほどの逃げ出した盗賊の他に30代程の髭をはやしたおっさん2人がおり、目で見える範囲内には3人しかいなかった。
「!!誰だ!」
急におっさんのうちの一人が立ち上がり剣を抜くと階段の方に、つまりレンヤがいる方を向いて叫んだ。
他の二人もそれぞれダガーと剣を抜いて階段の方を警戒する。
バレてはしょうがないと思いレンヤは出ていくことを決意。
「どもー、お疲れ様でーす」
「あっ!てめ!追いかけてきやがったな!」
レンヤはかるーく挨拶をすると、逃げた盗賊が相手が誰なのか理解したのかレンヤを指さして叫んだ。
「イルド、こいつか?ほんとにまだガキじゃねぇか。」
椅子に座っているおっさんが逃げた盗賊イルドに聞いた。
「こいつですボス!どうしますか?」
「この狭いスペースで詠唱させる隙与えなかったらこんなガキすぐ殺せるだろ。殺れ。」
イルドと呼ばれた盗賊はレンヤの正面で剣を構え、もう一人は隠密のスキルを使い姿が見えなくなる。
どうやら最初の尾行でレンヤやロベルトから気配を消してついてきていたのはこの人らしかった。
「殺される前に聞いておきたいんだけどあなたがここの盗賊団のボスさんですか?」
ボスはよっぽで自分が有利な状況と思っているのかテーブルの上にあるコップに酒を注いで飲むと答えた。
「あぁ、俺がこの盗賊団フルディのボスだ。何か他に冥土の土産はいるか?」
「じゃあもう一つだけこの建物には4つ生き物の反応があったんですがもう一人はどこにいますか?」
「反応?あぁ、こいつを生き物として考えるなら4つだろうな。」
ボスは部屋の片隅で小さくなっているものを指さす。
レンヤが指さされた方向をよく見てみると全体を布でくるまれたものが息をするように膨らんだり縮んだりするのを繰り返しており、レンヤが見ているのに気付いたたのか布の一部から顔が現れた。
それは人間のような顔をしているが頭には狐のような耳がついていた。
その顔はレンヤを恐れるように見つめていた。
おそらく盗賊の仲間ではないのだろう。
「なるほど、獣人さんでしたか。了解しました。」
レンヤはニヤリと笑うと片目の魔眼を発動させると同時にマナの球を4つ作り出し、火で出来たランスへと変化させた。
「さてと、殺りますか。」




