28.アベル伯爵護衛依頼4
森に入った直後にレンヤは列の最後尾から少し距離をおく。長さとしてはおよそ6m程か。そしてゴブリンキングに遭遇した時のように自分を中心としてドーム状にマナを薄く広く広げていく。
歩きながら軽く目を閉じると前方にいる護衛隊の列、木々の位置、隠れているもしくは距離が遠すぎてこちらに気づいていないスライムやゴブリン、オーク、オーガといった魔物の位置がおおよそ理解できる。といっても距離が実際に分かるわけではないので大雑把に把握できるだけであったが。実際に物の位置を等を把握できるのは半径1km、森の出口や町村といった大まかなものだと半径10kmまで感じ取ることができた。
目を開けてみるがロベルトがこちらを向いていないため気づいてない、もしくは気づいているがあえて反応しなったと考えることができた。
結果として大まかな位置としては周辺に魔物、もしくは盗賊の気配は感じられず、この速度で進み続ければ2日は野営することとなるだろう。レンヤは静かに列の後ろへと戻る。
「レンヤ、小便でもしたかったのか?あまり列からは離れるなよ。」
どうやらロベルトは勘違いをしているみたいであったが今は好都合であった。
「はい、気を付けますね。そういえばロベルトさんが通っていた学院とはどういう所だったのですか?」
「ん?まぁ他の学院がどんな感じなのか知らないから分かんねぇけど俺にとっては楽しいところだったぞ。学科が3つに分かれていてな、各自自分の行きたい学科に行くんだ。今もそうだったと思うんだがウィルが...あぁ、ウィルってのはうちの長男なんだがな、寮生活ってのもあってかあまり話してないから変わってるかもしれんが騎士科と魔術科、文官科があるんだ。騎士科は将来の帝国軍の騎士もしくは冒険者を目指す奴が行くとこだな。魔術科は魔術適正者が通うことを許された学科でそれぞれの属性を鍛えるとこだ。この二つは名前から想像つくと思うが文官科はその他の奴が通うとこだ。帝国中枢や他の都市の文官として働きたいやつ、実家の農家や商家を継ぎたい奴だな。基本帝国は12歳から15歳まで通う中等部は義務だが16歳から20歳までの4年間の高等部は自由だからな、王国では貴族連中しか通えないのが俺らからしたら変だぞ。」
「まぁ、僕は王国の学院に通ってませんでしたし、もう17歳ですから無理ですけどね。こうして冒険者としてお金を稼げるだけでも満足ですよ。」
「はあ、欲がないねぇ。もっとこう、その、野望というものはないのか?」
「野望ですか...平和な世界でのんびりと過ごすことですかね。」
ふと天使との契約を思い出す。
「平和ねぇ、戦争がない世界が平和というならまだ先になるかもしれんぞ?この前...とっても一年前だが王国が帝国に戦争を吹っかけてきたしな。もともと仲が悪かったから当分ないな。」
「そんな最近に戦争ありました?」
「両軍国境付近でにらみ合って軽く戦っただけだ。そういえば今回は珍しく王国側が早くに手を引いたな、やっと帝国に敵わないことに気づいたか?なんてな。」
ロベルトは自分でもありえないと知りながらも冗談を口にし笑う。
レンヤは和樹の勇者召喚という可能性がとっさに考えられたがロベルトの様子を見るとまだ知られていないらしい。これはロベルトが旅の途中で知る機会がなかった、もしくは他国には知られないように王国が情報を公開していないのかもしれない。
「王国も何か大事な用ができたんじゃないですか?例えば王が病気で倒れたとか。」
「これを機に帝国も王国に攻め込めば良かったのかもしれんが帝国もあまり余裕がなくてな。」
のんきに話していたロベルトの顔色が曇る。
「何か問題でも抱えているんですか?」
ロベルトがこのように不安を表に出すのは珍しいような気がしてレンヤは思わず尋ねる。
「いや、な。今の帝王のお体の様子があまり良く無くてな。帝国軍部も帝王の最終判断なしで進軍は出来ない。まぁそんなことしたら国民からの非難が殺到して軍部が崩壊してしまうからな。そんなことで帝国も今活発に活動できないということだ。」
「どこの国も大変そうですねぇ。」
「なんだレンヤ。随分と他人事のように言ってくれるじゃないか。」
「他人事ですし。」
「かぁー、ひでぇな。」
ロベルトは先ほどまでの不安そうな顔からニカッと笑うとレンヤに言った。
「でも帝国も良いところだからそのまま住み続けてくれてもいいんだぞ?」
「これからの生活次第ですね。親がしていたみたいに冒険者の依頼をこなしながら世界中を旅してまわるのもいいかもしれませんし。でもとりあえず今回の護衛依頼を成功させないといけませんけどね。」
「それもそうだな。」
その時後ろの方から木の後ろに隠れながらこちらを見ている気配を二つ感じる。
「お前さんも気づいたか。俺も今気づいたとこだ。よっぽどの腕利きかもしくは待ち伏せに気づかずに俺らが通りすぎてしまっただけか...」
森の中にある道を歩きながらロベルトと話していたが、とっくに森の入り口から1kmは歩いており、気配察知した範囲の外に出ていたことに気づく。
「どうしますロベルトさん?気配的に同業者の感じがしないんですけど?」
「まぁ人数的に盗賊山賊と決めつけるのはできないな。二人というのは少なすぎる。盗賊山賊の偵察と見るかはぐれと見るか。」
「盗賊山賊という点は同意です。現に今も後ろを追ってきていますし。偵察とはぐれどちらだと思いますか?」
「偵察なら片方残して上に伝えに行くだろ。だとして考えられるのははぐれだ。次いつ人が通るか分からないからこの際この人数相手でも仕掛けるしかないとか。」
「でも最初気配察知できていなかった時点で三人目いたか分かりませんよね?」
「そうなんだよなー。問題はそこなんだよ。レンヤどうする?」
「では今回は僕の方で対処するとしましょうかね。あまり体動かせていないですし、ロベルトさんに任せると今日僕何もしなかったことになってしまいますし。いいですか?」
「レンヤはまだガキなんだから大人に頼ってもいいんだぞ?まぁ得物を次々と取っていったらかわいそうだから今回は任せるか。でも大丈夫か?相手さんはもしかしたら強いかもよしれないぞ?」
「一応戦闘経験ありますし大丈夫だと思いますよ。そういえば盗賊山賊って討伐部位あるんですか?」
「一般的にはギルドカードだな。他には身分を証明できるものだとか。カードがあれば冒険者ギルドで盗賊判断できるし。ギルドカードには一回登録するとカードが手元にある限りその人の情報を更新していくからな。」
「だったら犯罪した人はギルドがすべて知っているんではないですか?犯罪なくなりますよ?」
「ギルドにある装置にカードを通した時に分かるようになっているんだ。そんな結構な頻度で情報知られたらプライバシー無くなるからな。てなわけで何とかカードを探してこい。」
「都合よく持っていればいいんですけどね。」
「なかったらタダ働きだな。ドンマイ!」
「いやまだ確定してませんから。」
ロベルトは右手親指を立てるとニッコリレンヤに微笑む。
「はぁ、ではちょっと行ってきますね。」
「俺もついていった方がいいか?」
「いえ、この護衛の列から冒険者二人もいなくなったらダメですよ。それこそ魔物か別の盗賊にすぐやられてしまいますから。」
言っていることはひどいが今までの戦闘を見たところ実際よく帝国から出てこれたと思うレベルであったため、ロベルトには列についているようにお願いする。
「対処したらすぐに戻ります。」
「おぅ、行ってこい。」
「はぁ。」
手を振ってロベルトを送り出し、列が遠くまで行のを見届けるとレンヤはため息を一つし、フードを被る。
「あなた方は盗賊ですか?山賊ですか?」
レンヤは振り返らないで後ろに感じる気配に問いかける。
「やっぱりバレていたか。俺らはまぁどちらかといえば盗賊かな?一応ここ森ではあるが山ではないから。」
振り返ると木の後ろからいかにも盗賊ですとでも言いたげな服装をした二人が出てきていた。
「俺ら隠密のスキル持っているから結構自信あったんだが。」
「そうそう、なんで気づいちゃったわけ?見たところ列の後ろにいた君ともう一人の二人に気配バレちゃってたし。」
レンヤはこっそりと二人に鑑定を行う。
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名前 アルム
種族 人間
身分 盗賊 (元冒険者)
12人殺しの犯罪あり
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名前 サファ
種族 人間
身分 盗賊 (元冒険者)
27人殺しの犯罪あり
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二人とも盗賊で犯罪持ちであることを確認する。
「たまたまですよ。僕たちも気づけたのは運が良かったって先ほども話していましたし。そういえばもう一人いたような気がするんですが?」
「そこまで分かっていたか。やはり処分するか。」
かまをかけてみたらホントに三人目がいたことが分かった。
「まぁまぁ、もう少ししたらボス来るしもう少ししゃべっていようよ。この子結構強いよ?」
「まさか。だったら俺が始末してくる。」
「あの、お話終わりましたか?あっ、そういえばお二人ともギルドカードお持ちですか?」
「ん?持ってるけど?まさか俺ら二人に挑もうと思ってるの?こいつはともかく俺は隠密Lv3だから殺すよ?」
盗賊のうちチャラそうな方はへらへらした顔のままであったが目が笑っていなかった。
「いえいえ、ちょっとお二人ともカード見せてくれませんか?こんなに遠かったら内容見えませんし持ってるとこ見て安心したいんですよ。ほら、僕も持っていますよ。」
レンヤはポケットからギルドカードを取り出すとひらひらと振って盗賊二人に持っていることをアピールする。
「ちっ、しょうがねぇな。」
「まぁまぁいいじゃないか、戦わなくて。少数で戦うのは相手がちょっときつそうだし。」
盗賊の方もレンヤの行動に敵意が無いことが分かると距離が離れているという要因もあってかポケットや服の内側に隠していたカードを取り出しレンヤがしたように顔の高さまでカードを掲げる。
「ほら、これで...」
ドサッ、ドサッっと二つ物が地面に落ちるような音がする。盗賊がいた近くの木はレンヤが立っている側に刃物で切ったような跡がついている。
「あまりだまし討ちはしたくないけど隠密Lv3は面倒だからごめんね。」
レンヤは付いてもない血を払うように刀を一回振ると鞘に刀をしまう。
盗賊だった二人に近づくと血が飛んでついたギルドカードを拾う。
レンヤは盗賊二人がカードを取り出すときに視線をレンヤから外したタイミングで刀を抜くと、刀にマナをまとわせ半透明なマナでできた刃を形成し、飛ばしていた。その刃は二人の上半身と下半身を切り離したのち勢い収まらず木に衝突し消えた。
二人のカードを適当に葉っぱで血を拭くとアイテムボックスにしまう。
「さて、何人来るのかな?」
レンヤは目を閉じて集中すると気配察知をした。




