27.アベル伯爵護衛依頼3
「騎士アントが3体か...まあこれぐらいだったら大丈夫だろ。」
ロベルトが見ている列の先頭には大きな蟻、大きさとしては大型トラックほどが三体いた。その周りには蟻が出てきたのであろうと考えられる大きな穴が一つ開いている。
「アント系の魔物は見たことあるか?」
「いえ、初めて見ました。」
先ほどまで赤茶色の平坦な硬い土が広がっているだけの大地にいつの間にか大きな穴が出来ており、急な展開にレンヤは驚いていた。
「アント系の魔物には騎士、女王、王がいる。名前から分かると思うが騎士、女王、王の順に強くなって体の色から属性を判断できる。今回は体に微妙に赤い色が入っているだろ?だから火属性と考えることができる。弱点属性は水だな。レンヤは属性...って、そういえばまだ自分の属性を知らないんだったな。」
ロベルトは前にいる冒険者と騎士隊で何とかなると考えたのか腕を組んで解説してくれた。
「そもそも魔術が使えるかも分からないんでそんな期待しないで下さいよ。」
レンヤは笑いながら返す。
「んー、使えるんじゃないか?俺の予想はあまり外れないからな。試しに呪文唱えてみたらどうだ?」
「残念ながら杖持ってないんで行使できませんよ。ロベルトさんこそ加勢しなくていいんですか?」
「見て分かるがフェリプとエリカが一体ずつ相手していて騎士隊で一体相手にしているから大丈夫だろ。騎士はまだ刃が通りやすいから剣でまだ対処ができる相手だ。女王以上になると体が鎧みたいに硬くなって刃が通らなくなるから魔術で倒すのが主体になるな。」
「蟻って集団で行動すると思うのですが...」
「まぁそう思うだろうな。でも魔物ってのは何考えているか分からんからな。一体で来ることも十体で来ることもある。あちらさんの気分次第ってことだな。おっ、フェリプとエリカが倒したな。騎士隊の方を加勢してるからもう大丈夫だろ。」
ロベルトと話している間にフェリプはダガーで足を切り落として動けなくなったところでとどめを刺し、エリカは細剣を首に刺してから切り落として殺していた。アントは口の両側にある鋭い牙で攻撃してくるだけなので避けやすいが騎士隊の方には若干の被害が出ているようであった。
「アントは牙が討伐証になるから依頼を受けているときはそれを冒険者ギルドに提出する。まぁ、鍛冶屋にもっていけば素材として買い取ってくれるから大概の冒険者は一応とっておくな。」
「この調子でいけば僕たち仕事無いんじゃないですか?」
楽できるのではないかという若干の期待を込めてレンヤはロベルトに言った。
「そううまく行けばいいんだがな...」
ロベルトは顎をさすりながら先ほどまでニコニコ顔から真剣な顔になるとアベル伯爵の乗っている馬車を見て小さくつぶやいた。
その後はアントやゴブリン、オーガの群れに遭遇したが何とか対処し、盗賊の類は現れなかった。レンヤとロベルトは後ろから襲ってきたゴブリンを三体とオーガ一体を相手にしたがレンヤが戦うよりもロベルトが瞬殺していったため出番はなかった。
ロベルトはかなりの経験を積んでいるのか、いつもの明るい雰囲気からは想像できない気迫を出して魔物を一振りで切り殺していた。
現在の被害状況としては冒険者4名は損害なしの無傷、騎士隊はアントとオーガによって二人が軽いケガをしただけで順調であった。
朝出発し、昼頃になると森の入り口にたどり着き、軽い休憩があったためアイテムバッグからリュネの実を取り出してかじる。
「レンヤ君それだけで大丈夫か?食料持ってきてないんだったら俺のを分けるぞ?」
「ロベルトさんが魔物全部瞬殺して僕は体動かしてないんであんまお腹へってないんですよ。今回の依頼って何日間あるんですかね?」
「アボス村から帝国領の帝都まではおよそ30日間くらいか?馬車の進み具合だとか途中の村に泊まるかで日数も変わるしな。なんだ?食料足りるか心配なのか?」
「はい、保存できるパンとか干し肉はあるんですが何日もつか分からないんで...途中の村に寄れるか心配だったんで。」
「こういう護衛依頼、特に貴族連中の依頼だったらよっぽど急いでいる時を除いて村で宿泊すると考えていいぞ。あいつらは野営を好まんからな。」
「ロベルトさんはこういった依頼はよく受けられるんですか?」
「んー、あんまり受けないな。俺もお前さんくらいの年の時は学院に行って卒業後は帝国内、または帝国近辺で受けられる依頼ばかりやっていたからな。護衛依頼なんて片手で数える程度にしかしてないぞ。今回はちょっと頼まれごとがあって王国まで来たから帝国に帰るついでに受けようと思っただけだ。」
「頼まれごと?依頼ですか?」
「まぁ、依頼ともとれるが知り合いの頼みでだな。冒険者ギルド経由じゃないがちゃんと報酬も出るから受けただけだ。おっと、そろそろ出発だな。今から森に入るが森では魔物よりも盗賊の方が多くなる。なんでかわかるか?」
「姿を隠しやすいからですか?」
「それもあるな。それ以外だと森にはゴブリンとか小型の集団で行動する魔物が多くなる。これにちょっかいをかけると当然魔物は追いかけてくる。それを冒険者パーティーや旅途中の商人、俺らみたいな護衛仕事をやっている冒険者に上手く向かわせることで両方を戦わせ、体力を消耗したとことで襲えば成功する確率が上がるってわけだ。卑怯だが盗賊には関係ないからな。気をつけろよ。」
「気を付けますがロベルトさんがいれば安心ですけどね。」
レンヤはにっこりと笑うとロベルトの後ろを歩き、列の最後尾として森の中へと入っていった。




