26.アベル伯爵護衛依頼2
「...まったく、あいつは。」
ロベルトはアベル伯爵が馬車に乗り込むのを見てつぶやいた。
「お知り合いでしたか?」
「いや、ちょっとした知りあいなだけだよ。特に親しくもないしな。」
そうレンヤに答えるとロベルトはフェリプとエリカの方に近づいていく。
「お二人さんや、敵が現れたらどうする?」
護衛任務特有の決まり事でもあるのかと思いレンヤは二人の反応を伺った。
「特に決めなくていいだろ。見つけたら殺す、それだけだ。」
「私も長距離用の攻撃手段は持ち合わせておりませんので、敵の近くになったら勝手に倒していきます。」
「俺とエリカは先頭に配置するから後ろはあんたら二人に任せる。」
「ふむ、そうか。分かった。」
それで会話は終了したのかフェリプとエリカは先頭へ、ロベルトはレンヤと共に最後尾へと向かっていった。
「あの、ロベルトさん、なんであの二人は先頭にしたんですか?」
ブレイアが出発の合図をし、護衛隊が帝都へと進み始めた際にレンヤはロベルトへ尋ねた。
「ん?あぁ、先頭は敵が前方と左右からしか来ないから警戒しやすいし、敵を多く殺している印象を護衛対象に与えることで気前がいいと追加報酬をもらえるからな。逆に後衛は後ろからの攻撃に備えないといけないし前方がピンチの時は救助に行かなければならず面倒だからな。あの二人若いが経験は積んでいるみたいだな。」
「ロベルトさんも鎧の傷み具合や気迫からしてかなりの経験者ですよね?」
「まぁな。学院に在学中からギルド登録はしていたからな、何回も失敗してきたしコツもつかんできた。冒険者ってのは稼ぎがいいときはいいがいつ死ぬか分からないからな、低ランクの魔物を狩りに行ったつもりがランクアップしていたり狩る前に高ランクの魔物に遭遇することなんてザラにある。」
レンヤはこっそりと無詠唱で鑑定をロベルトに行おうとする。
「鑑識は止めときな、するにしてもきちんと相手に伝えてからしないと場合によっては戦闘になるぞ。」
ロベルトはレンヤの方を向かずに言った。
「よく鑑識を使用しようとしたのが分かりましたね。」
「俺は使用はからっきしだったが魔力感知は得意だったからな、そういうのには敏感なんだよ。今回のを教訓にするんだな。」
「...ご忠告感謝します。」
「はははっ、すねんなよ。教えてやるから。言ったがギルドランクはA、スキルは剣術、杖術、槍術、体術がLv3、身体強化スキルも持っている。MPも人並みにあるが魔術適性は火属性の初級の一部しか使えない。まぁこんなもんだ。お前さんは?」
そんなつもりは無かったが多少気まずい顔をしていたのかもしれない。
「ギルドランクCで剣術Lv2、身体強化スキルを所持しています。魔術の方はまだ分かりません。」
「あぁ、王国じゃ一般に魔力測定装置は置いてないからな。大きいギルドだとあるらしいがその様子だと大きなとこには行ったこと無いみたいだな。」
「えぇ、小さな村を転々とする家族でしたから。帝国ではそんなに簡単に測れるんですか?」
「帝国は広く魔術適性者を集めているからな。王国では貴族や有力商人なんかしか測定しないが帝国は才ある者は上に上がりやすいシステムになっている。ある程度の魔術適性があれば本人の意思も考慮し学院の魔術科への入学を許可される。これは初代帝王トモキ ウエダ 様の意思を引き継いでいる形となっている。」
「トモキ ウエダ ?何か変な名前ですね。」
こちらの世界ではカタカナ表記のような名前が多いためそのような日本人みたいな名前に違和感を感じた。
「そうか?東の方にある国ではよくある名前らしいぞ?トモキ様は昔魔国の魔王が各国に戦争を吹っかけていて国も打つ手が無くなった時に神から召還された異世界人の一人で、魔王討伐後崩壊した帝国を頂点に立つことで再建したお方だ。結構有名な話だと思っていたんだがそうじゃないのか?」
「えっと...実はちょっと過去に盗賊の襲撃に遭遇した際に頭にケガしたらしく、記憶がまだ混乱していて細かい昔のことをあまり覚えてないんです。」
「おおっと、それはすまない。まぁゆっくり思い出していけばいいさ。」
その時先頭の方から騒ぎが聞こえてきた。




