24.アボス村にて2
リュネの実を1つ手に持ち、残り2つをアイテムボックスに入れてアボス村の冒険者ギルドの建物へと向かう。
絶えず人の流れている通りは歩いているというよりも流されているといった感覚であった。
「しっかしほんとにリンゴの味だなこれは。」
シャリッと音をたてながらリュネの実をかじりながら歩いていると後ろの方から街中の喧騒に負けないほどの大声が聞こえてきた。
「ごらぁ!待てやガキ!」
他の通行人と同様に後ろを振り返ると10歳くらいだろうか、小学校高学年程の男の子が野菜や果物を腕いっぱいに抱えてこちらに走ってくる。
レンヤはまるで合わせたかのように他の通行人と同じく走ってくる少年と血相を変えてそれを追いかけるおじさん店主?店員?に道を開けた。
嵐が去ったように通り過ぎた後には数秒の静寂が保たれたが、みんな自分の目的を思い出して歩き始め、いつもの日常へと戻っていった。
「俺もギルドに急ぐか。」
レンヤはリュネの実を食べ終わると芯の部分を近くにあったゴミ箱へと投げ入れる。そして最初よりも急ぎ足でギルドへと向かうのだった。
商店街のある大通りを抜けると住宅街が広がっており、白い石を組み立てた地球では歴史的な遺産になりそうな雰囲気を漂わす建築が立ち並んでいた。この村は入った時から感じていたが村全体が中心部分を一番高く盛り上げた山のようになっており、山麓から中腹にかけては商店、それから上に向かって住宅や村の施設がある構造になっている。そしてなぜかこの村のギルド支部はその山頂に位置していた。
「村長よりも立場が上なんだなぁ。」
三階建ての冒険者ギルドの建物と近くにある村長の家を比べて見て、思わず苦笑いする。
中に入ると、建物の中は外見から予想できていたがマラン村の倍ほどの広さであった。
人が多く並んでいるため、受付けの様子までは分からなかったが列が6つできているため、受付けの数は6つとマラン村と同じと理解できた。また、建物の中に酒場が設置されており、実質ギルドとして活動しているスペースはその半分であった。
時間もまだ朝方という事もあり酒場で酒を飲んでいる人はほとんどおらず、飲んでいる人も酔い方から見て一晩中飲んでいたのか、今にも寝てしまいそうな感じだった。
レンヤは壁の掲示板に貼られた依頼書から手ごろな物、かつ王国から早く出られるような依頼を探す。
「えっと、サンドモンキーの討伐に植物の採取、村の掃除、店の用心棒、何か良さそうの無いなぁ...」
顎に手を当てて考えていると隣に並んでいた人達が次々と依頼の書いた紙をはがして受付へと持っていく。
最初大量にあった依頼書もだんだんと数が減っていき、半数となったころ埋もれていた一枚の依頼書が目についた。
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とある貴族のオルスタニヤ帝国までの護衛
金貨1枚、定員人数4人
・・・
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レンヤはその紙を手に取ると詳しい内容を確認する。
「報酬は金貨一枚か...割と高めだが何で人気が無いのかな?まぁいいか。って集合時間もうすぐだ!」
依頼書に書かれていた締め切りの時間まではあと1時間程しかなく、今から受付け処理して集合場所まで行くにはギリギリかもしれなかった。
紙を手に持ったまま一番人が少ない列に並ぶ。紙から目を離して前を向くと何やら視線をいくつも感じる。それと同時にヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
「おい、マジかよ...」
「また信者が増えたのか!」
「いや、見たことない顔だ!何も知らない新参者かもしれんぞ!」
話していた方を向くと冒険者の格好をした三人組と目が合った。その他にもいくつもレンヤを見ている視線はあったが、レンヤと視線が合いそうになるとみんな気まずそうに視線を逸らす。
何のことを話しているのか分からなかったが、特に気にせずに順番が来るのを待つ。
およそ5分、予想以上に早く順番が回ってきた。
「あぁ、そういう事ね。」
レンヤは受付に座っている女性を見て納得した。いや、この場合は少女と言った方が良かったのかもしれない。他の受付嬢を見てみるとなぜか他の5人の女性がレンヤを見ておりレンヤがどういう反応をするのかを伺っており、他の冒険者もチラチラとだがレンヤを見ており、ギルド内は異様な静けさが満ちていた。
他の受付嬢はまぁ見た目だけからしても10代後半から20代といった感じであったがレンヤの目の前にいる少女受付嬢はどう見ても10代前半程であった。この場にレンヤのクラスメイトの健二がいたらすかさず「おいロリコン野郎」と言ってきた事だろう。
ここまでわずか数秒の出来事であったがレンヤは思わずため息をついてしまった。
「あのぉ、何かとても失礼なことを考えていませんか?」
少女は「私不機嫌です!」と言いたげにジト目でレンヤを見ていた。
「いえいえ、何かの間違いですよ。」
ニッコリとレンヤはすかさず日頃から鍛えていた作り笑いをしてこの場を乗り切ることとする。
「一応ですけど私これでも22歳ですからね。」
腰に手を当ててレンヤに言った。
「「えっ?」」
思わず驚いてしまったが後ろからも声が聞こえたので振り返ると30代後半らしき男が口に手を当ててまるでこの世の終わりかのように顔を真っ青にしてつぶやいた。
「ロリじゃないのかよ!」
「ちょっと!!そこのあなた!言ってはいけないことを言いましたね!!私もぉ怒りましたよ!」
受付嬢は顔を真っ赤にして後ろの男を指差しながらいろいろと騒ぎ立てていたが自分に白羽の矢が立つ前に行動を起こすこととした。
レンヤはいまだ頭を抱えて「これから何を糧に生きていけばいいんだ...」と震えている男と何か騒ぎ続けている少女を無視してカウンターに依頼書を置いて言う。
「コレお願いします。」
「「「「タイミング悪いよ!!」」」」
どことなく何かツッコミが聞こえてきたがまぁ気にしなくていいだろう。
少女はキョトンとするとすぐに営業スマイルに戻った。
「それではギルドカードを提出してください。ランクは大丈夫ですね。他の三人はすでに登録してそろそろ現地に集合する頃なので急いでくださいね。依頼達成は帝国のギルドに報告することもできますのでわざわざ戻ってくる必要はありません。他に何か質問はありますか?」
「この依頼は報酬もあまり悪くないと思いますが他にこれを受ける人はいないんですか?」
「そうですね、冒険者は国に縛られることは少ないですがほとんど人はあまり自分の生まれ育った国から出ていく人は少ないですからね。特に帝国はここ最近我が王国と戦争をした影響で行きたがる人も少ないですから...」
「そう言う事だったんですね。ありがとうございます。先ほどご迷惑をおかけしたお詫びにこれをどうぞ。」
レンヤはアイテムバックから取り出すようにアイテムボックスからリュネの実を一つ取り出すとカウンターに置いた。
「では、これで失礼しますね。」
「あ、ありがとうございます!またのお越しをお待ちしておりますぅ!」
レンヤは軽く会釈をするとカウンターから離れてギルドから出ていこうとする。後ろから「ロリコンだ。」「ロリコンかもしれないわね。」「あの子を落としたわよ。」「クソ!俺らの敵か!」などいろいろ聞こえてきたので早々とギルドから出ていった。
集合場所である宿場の前にはおよそ30分前についた。そこにはすでにきらびやかな馬車と数頭の馬、執事や使用人の服装をした人が5人ほど、統一した鎧をつけている騎士風の男たちが5人、冒険者の格好をした男が3人いた。




