20.道中にて 1
立ち止まって頭を抱えているとだんだん人の足音が近づいてくる。もともと歩いてた場所が谷の底のような所だったため複数人の足音や魔物が歩くときに発生した足音がレンヤのいる場所まで響いてきていた。
「このままここにいても巻き込まれそうだしとりあえず逃げるか...」
レンヤは周りを見渡してみるが眼に映るのは茶色の地面と高くそびえる壁のみ。
壁の高さはおよそ20mほどといった感じであり、一般的には登れない、登れたとしても時間がかかる高さであった。
「これくらいなら行けるかな...まぁやってみるか。」
レンヤは片方の壁に近づくと助走距離を確保し、もう片方の壁の方へと走り、およそ壁同士の中間で思いっきりジャンプした。レンヤの目の前に壁が近づいてきて壁に衝突しそうになった時に詠唱破棄して壁から突起を魔術を用いて出現させ、それを踏み台にして再びジャンプすることで一番上へとたどり着くことができた。
壁の上には森が広がっており、村からここまで来る途中に通りぬけた森の一部であることが分かった。
振り返って谷を覗き込むと装飾を施した豪華そうな馬車が一つと、それを囲みながらレンヤが先ほどまでいた場所へと走ってくる護衛らしき人8名、そしてその後ろから全身が真っ黒の土で出来た高さ7m程の人形のような何かが馬車を追いかけるような構図が見えた。
《ぎりぎりセーフってとこかな。助けようかとも最初は思ったけど馬車が明らかに豪華そうだし貴族みたいな人だったら関わりもつのは避けたいし、もう少し様子見かな。もともと他人だし。》
レンヤはしゃがんでそう考えると魔物に向かって鑑定を行う。
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グランドゴーレム
HP ∞
MP 0
スキル
身体強化
一般的な魔物と異なりゴーレムの召還には核となる魔源核が必要。
生物ではないためHPは無限にあり魔源核を壊さない限り消失しない。
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「あれがかの有名なゴーレムか、なんか思ってたよりも普通だな。」
そう考えているとゴーレムは急にジャンプし護衛達の頭の上を通り越し、道をふさぐように立ちはだかった。ゴーレムは片腕を挙げるとそれを護衛の一人へと振り下ろした。
その護衛はすんなりと潰れ、ゴーレムが手をのけるとまるで水風船をつぶしたかのように血が円形に広がっていた。
「クソ!これで13人目だぞ!」
「誰かが足止めして姫を逃がすしか方法は無い!」
そんな護衛同士の会話が聞こえてきた。
《もう13人も死んだのか...たいして何も感じない僕はおかしいのかな?いや、他人にたいして興味を持たなくなっただけか。》
そう考えているうちにまた一人つぶされ、護衛の中でもひときわ鎧に装飾が施された40代の男性がゴーレムの前に立ちはだかった。
「ここは俺が何とかするからお前ら先に行け!」
「隊長!しかしっ」
「森を抜けたらマランという村がある!そこから討伐隊をつくって出してもらえ!」
「分かりました!隊長も死なないでくださいよ!」
「俺を誰だと思ってる!さっさと行け!」
隊長と言われた人を残して馬車と残りの護衛はマラン村へと向かっていこうとした。
《いや、絶対マラン村着くまでに隊長絶対殺されるだろ...村長さんたちにはあまり迷惑をかけたくないからそろそろ狩るか。》
そう思ってレンヤはフードを被り刀を抜く。その時、一人の馬に乗った兵士が到着した。
「遅れてすまない!ここは俺が引き受けよう!」
まるで正義の味方が来たかのように声高らかにその人物は言った。
そしてレンヤは一目でその人物が誰なのかが分かった。
忘れることはできないレンヤをこの世界に招いた人物。
その男は馬から降りると腰につけていった鞘から剣を抜きゴーレムへと歩いて近づいていく。
純白の鎧に白いマントまでつけて登場した彼は言った。
「グライズの勇者、蔵田和樹が来たからにはもう大丈夫だ!」




