18.アラン雑貨店
大通りに面しているにもかかわらず到着した店はとても小さかった。
正面につけられている看板も小さく、探していなければそこが普通の家だと思い、雑貨店と気づくことは難しかっただろう。実際にレンヤ自身何度もその道を通ったにも関わらずその店があること事態認知してなかった。
入り口の扉を開けるとドアに着いていた鈴が鳴り、狭い店内に響く。店内には明かりは無いが窓から入ってくる光で暗いという印象は受けなかった。店は奥にのびており、入り口から2m程に大きなカウンターが置かれ、客はそこから奥には入れなくなっている。カウンターの奥には丸められた地図らしきものが置かれ、壁には剣や槍などの武器、棚には色とりどりの液体が入った試験管のようなガラス製らしき瓶が並べられていた。
「すみません、誰かいませんか?」
比較的大きな声で店の奥の方に呼びかける。しかし何ら反応は無く、店内にさみしく響いた。
「誰かいませんかー」
先ほどより少し大きな声で再び呼ぶが反応は無かった。
その後何度も繰り返すが反応は無い。
「...もう帰ろうかな。」
だんだんとむなしくなり、地図無しでこの町から出ていこうかと考え始める。すると後ろから扉につけられた鈴がなるのが聞こえてきた。振り返るとパンや野菜を入れた大きなカバンを両手に抱えた若い男性が店内に入ってきた。
「おや、お客さんが来るなんて珍しいですね。」
男性はレンヤに微笑みながらそう言うと、カバンを置いてカウンターを飛び越えた。
そして振り返りレンヤと向き合うと満面の笑みをうかべ言った。
「ようこそ!アラン雑貨店へ!あなたの望む出来る限りの物を提供しましょう!」
「...」
「ようこ「いや、繰り返さなくていいですから。」...何をお探しですか?」
「すみません、少し動揺してしまいました。地図とポーションが欲しいのですが。」
「ははっ、僕も久々のお客さんだからテンションが変に上がっていてね。地図とポーションだね。ふむ、魔術が使えるみたいだからHPとMP両方のポーションがいるのかな?」
「どうして魔術が使えると?」
「僕も鑑定スキル持ちだからね。それに君は魔術が使えるって有名だし。君が隠蔽のスキル持ちなら僕が見たデータは違うのかもしれないけどそうではないみたいだね。」
「そんなに知れ渡ってしまってましたか...隠蔽のスキルってどんなのですか?」
「隠蔽のスキルはね、相手に偽物のステータスを見せることが出来るんだよ。鑑定のスキル持ち自体人数が少ないから今はギルドで回収されている情報をごまかすためのスキルかな?僕は君のスキルを他言しないから気にしなくていいよ。」
アランは奥から地図とポーションを持ってくるとカウンターに置いた。
「とりあえず地図は一つでいいよね。ポーションは各5本くらい必要かな?」
「ポーションの効果はどれくらいですか?」
「ポーションは両方とも1本で約50回復できるよ。比較的...というかレンヤ君はかなりHPとMPが多いから回復できる割合的には低いけどね。」
アランは苦笑いして説明した。
「でも割合的には確かに低いけど緊急用に持っておくことは冒険者として必要なことじゃないかな?」
片目を閉じて首を斜めに傾け、諭すようにアランはレンヤに言った。
まるで一瞬でもMP管理をすれば必要無いのではないかと考えたレンヤの考えを諭すように。
「そうですね、確かに冒険者としてそれくらいの準備をしておくことは必要なことですね。では年上の先輩として何か若者にアドバイスはありますか?」
考えていたことがばれた悔しさに少し変な質問をする。
「はははっ。君はまだ若い、そう悔しがることは無いよ。君は考えていることが表情に出にくいからそんなに考えなくて大丈夫だよ。アドバイスか...他の種類のポーションを買うとか武器の手入れをするとかそんなありきたりなことを言えばいいのかな?残念ながら僕は冒険者じゃないからね、君の望むようなアドバイスはできないよ。」
「そうですか...分かりました。では他の種類のポーションも買っておきましょうかね。」
レンヤはニコリと笑いながら言った。
「うん、いい笑顔だね。何を考えてるか分からないよ。じゃあ適当に何個か見繕ってあげようか。」
アランは後ろにある棚の方を再び向くと、紫、黄、黒の液体の入ったポーションを各2つずつ取り、カウンターに置いた。
「順に毒消し、麻痺消し、精神攻撃無力化のポーションだよ。残念ながらこれくらいしか種類を置いてないからこれで勘弁してくれないかな?」
「いえ、十分な種類ですよ。合計いくらですか?」
「最後に出したポーションは材料が貴重な物だから多少値段が張るけど...そうだね、旅に出るみたいだから特別サービスしよか!合計金貨3枚でいいよ。」
「そうですか、ではこれでお願いします。」
レンヤは腰につけているアイテムバックから金貨5枚を取り出すとカウンターに置いた。
「アランさんにはいろいろと情報をもらいましたしお礼としてもらってください。」
「ここで断る方がかっこいいのかもしれないけどお客さんがあまり来ないからお言葉に甘えようかな。」
アランは代金をもらうとポーションと地図、そして一冊の本をレンヤに渡した。
「アイテムボックスは持っているみたいだから準備しなくてもいいね。この本は冒険者をしている僕の友人の友人から貰ったんだ。残念ながら僕にはこの本の使い方が分からないから君にあげるよ。」
「では僕ももらえるものは貰っておきましょうか。短い時間でしたがありがとうございました。」
レンヤはアイテムボックスに地図、ポーション、本をしまうと店から出ようとする。
「君の旅がより良きものになるよう遠い空から願ってるよ。」
「ありがとうございます。では。」
レンヤは扉についている鈴を鳴らしながら店を出た。
「行ってしまったか。」
しばらく経ってからレンヤが村を出ていった気配を察知し、アランが誰もいなくなった店内でつぶやく。
「君は出てこなくて良かったのかい?マリ。」
奥へと続くくらい廊下から一人店内へと出てきた。
その姿はレンヤが異世界転移する時にサリの先輩としてあの場にいた天使だった。
「あの子と関わるとどうしても守ってあげたくなりますからね。きちんと成長するまでは姿は出しませんよ。それよりあなた様もあまりここにいると神に気付かれます。早く転移しましょう。」
「えぇー、せっかく久々に地上に降りてきたのに。でもそろそろ確かに時間が危ないから行こうか。レンヤもこの村を出ていったみたいだし。」
「それでは転移します。」
その場から二人の姿と買い物の入ったカバンが消え、店内にあった商品、店前に出ていた看板が消えた。
そこに店があったことを誰も知らない。
そもそもアラン雑貨店という店があったこと自体この町に長年住んでいる人でも知らないことなのだから。




