16.ゴブリンキング
「だいたい20mってとこか...」
レンヤは近づいてくる魔物の集団の気配をつかみ、だいたいの距離を測る。その数およそ30体。
「近づくべきか行かざるべきか...」
ゴブリン30体ならば魔術も使えば倒せるだろう。しかし気配からして普通のゴブリンではない。
鑑定のスキルもあり、今日はまだ魔術を使っていないためMPの残りも十分にある。相手次第では倒せないことは無いだろう。しかし倒せない相手の時は確実にレンヤは死ぬこととなる。
先ほどまでのイライラは自然と無くなっており、体の調子もいいので向かうこととした。
大体10mの所までは走っていき、ゴブリンが見えたところで近くにあった木に登って様子を見る。
先頭にはゴブリンが大体20体だろうか、その後ろには普通のゴブリンよりも少し背の高いゴブリン10体、そして一番後ろにはゴブリンの3倍もありそうな高さで全身が灰色のゴブリンがいた。レンヤは種類の違うゴブリンに対し鑑定を行う。
「"鑑定"」
――――――――――――――――――――
ゴブリンメイジ
HP 50
MP 50
スキル
属性魔術 火 Lv1
――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――
ゴブリンキング
HP 120
MP 10
スキル
剣術 Lv2
身体強化
眷属招集
眷属強化
咆哮
――――――――――――――――――――
「要するにちょっとデカいのが魔術師でデカいのがキングか。」
レンヤは刀を抜いて右手に持ち、左手をゴブリンに向けて詠唱する。
「"地より伸しその力を以って、天へと突き刺す槍となれ、アースニードル"」
地面より6本の太いトゲが出現し、ゴブリンメイジを突き刺しにする。レンヤは魔術を使えるゴブリンを先に処理しておくこととした。急に生えてきたトゲにゴブリン達は驚き、動きが止まる。この時点でゴブリンとゴブリンメイジ、ゴブリンキングの間に壁となるものができたため前にいたゴブリンが取り残された状態となった。
レンヤは木から降りると走ってその距離を縮め、ゴブリンの首をはねていく。ゴブリンは剣だけではなく槍や弓を持っていたため、すべてをよけることはできないが傷は浅いものが多いので特に気にせず殺していく。20体程倒したところでゴブリンキングが行動を起こす。ゴブリンキングは両手にマナをまとわせると持っていた斧を真横に振るう。強化された斧によって土で出来た槍は破壊されゴブリンキングと生き残ったゴブリンメイジ4体が姿を現す。
レンヤは一旦後方へと大きくジャンプし下がり、刀を構えて相手の出方を待つ。
すると剣を持っていたゴブリンメイジ3体が詠唱を始めた。
「"ヒ..ヲマトイテ..テキ..ヲ.キリサクケン..トナレ、ファイアブレード"」
詠唱が終わるとゴブリンの持つ剣に炎が渦巻き、その剣を振るうと刃の形となった炎がレンヤめがけて飛んでくる。
魔術が撃たれたのを合図にしてか、ゴブリンも攻めてくる。
レンヤはとりあえず飛んできた炎の刃を避け、やってくるゴブリンの攻撃を刀で受け流しながらゴブリンを倒そうとするが、最初のような不意打ちではないので連携して攻撃してくる。そのため、なかなか攻撃する機会が訪れない。
レンヤは一体ずつ殺していくのは都合が悪いので片足を切り落としていくこととした。
ゴブリンキングとゴブリンメイジはまだ様子をうかがっているようで動きはない。ゴブリンを片足ずつ切り落とすとゴブリンメイジは再び詠唱をはじめ、ゴブリンキングは一回大きく吼えた。鑑定を行うとMPが15減っていたので連続では撃てないようだった。
レンヤは刀を構えると先ほどゴブリンメイジが詠唱していた魔術を唱える。
「"火をまといて敵を切り裂く剣となれ、ファイアーブレード"」
レンヤの刀に炎が渦巻き、詠唱を唱え終えるるタイミングで刀を横に振るう。ゴブリンメイジは詠唱に時間がかかるので、レンヤの放った魔術の炎の刃は詠唱していたゴブリンの胴体を切り裂く。
そのままゴブリンキングも切り裂くかと思われたが、身体強化で強化した腕で持つ斧によってたたき切られた。レンヤは残りの一体から放たれた炎の刃を避ける。
「へぇ、斧で魔術切れるんだ...」
予想外であったがいい経験にはなった。残ったゴブリンメイジ1体とゴブリンキングを殺そうと近づいた時にこちらに向かってくる気配を感じる。
「3...5...12...もしかして50体以上いる感じかな?」
レンヤはこの場所に近づいてくる魔物を数えようとするも、あらゆる方向から小数の集団が大量に集まってきているためその数は数え切れないほどであった。実際には72体集まろうとしていた。
「まだ遠いけどさすがにこの数が集まったら捌ききれないな...あと2体なら何とかなるかな...」
レンヤはゴブリンメイジに近づくと剣を振り下ろして殺そうとするも横からゴブリンキングの斧に防がれる。その際ゴブリンキングは嘲笑うかのような顔をした。
レンヤは標的を変えてゴブリンキングから倒そうとするも、攻撃はすべて斧で避けられる。
ずっとゴブリンキングに攻撃している隙をついてゴブリンメイジにファイアーボールを放つと腹を貫通して息絶える。
ゴブリンキングと一定距離開けてファイアボール5つ、それぞれ両足、両手、頭にめがけて放つ。
ゴブリンキングは斧を横に振るい、両腕をねらったものを切ることで消滅させるが顔と両足は攻撃が直撃した。身体強化を行っているせいか貫通まではしなかったがゴブリンキングは右目がつぶれた状態となっていおり、斧を片手で持つと持っていない方の手で右目をおさえ、痛みで吼えた。
レンヤは急いでゴブリンキングに近づくと斧を持っている腕を切り落とす。今回は簡単に切り落とすことができ、ゴブリンキングが呆然としているところで首に刀を突きさして横に切り裂き、戦闘は終了した。
片足を切断されたゴブリンはいつの間にか死んでおり、後はこの場に集まってくるゴブリンのみとなる。
今レンヤが習得している魔術の中に広範囲のは無いためどうやってこの場を切り抜けるか考えていたが、この場にたどり着いたゴブリンはゴブリンキングが死んでいるのを見るとその場から走って逃亡していった。中にはレンヤに攻撃してくる個体もいたが逃げた数の方が多く、攻撃も連携なしで小数で来たため対処もしやすくなっていた。
レンヤはゴブリンキング率いる集団31体、逃亡せずに攻撃してきた28体の耳を回収するとアイテムバックに収納し、村に帰るのであった。
「そんな誰が信じるか!と言いたいところじゃが証拠をみせられてはのぉ...」
レンヤはギルドについてウォルクさんにゴブリンキングの耳を出したら「はいぃ?!」といわれた挙句、ギルド内の応接室に連れていかれた。ソファーにお互いに向かい合って座り経緯を説明したらウォルクさんに盛大にため息をつかれる。とても疲れた顔をしていたがレンヤは特に気にしなかった。
「それでゴブリン計85体にゴブリンメイジ10体、ゴブリンキング1体を討伐した感想はどうじゃ?」
「とても疲れました。」
「はぁ~。」
また盛大にため息をつかれた。
「レンヤ君は簡単に言うがの、ゴブリンキングは本来個人で討伐できる魔物じゃないんじゃよ。それこそ領主や国に報告しないといけない魔物じゃ。それなのにレンヤ君は...はあぁ~。」
一体この人何回ため息つくんだと思いながらレンヤは話を続ける。
「一応ゴブリン100体討伐しましたけどDランク昇格できますか?」
「ん?あぁ、Dランクには昇格できるじゃろうが、Cランクまで昇格してもいいじゃろ。」
「Cランクの条件は?」
「ギルドの昇格試験を受けて認められるのが条件じゃがハルクと互角以上に戦えてゴブリンキングを討伐できるなら大丈夫じゃろ。」
「では更新をお願いします。」
レンヤはギルドカードをウォルクに渡す。
ウォルクは前回のように紙に内容を書き込むと部屋に取り付けられている水晶にかざして更新した。
「報酬は今日がいいかな?それとも明日がいいかな?」
「明日でいいですよ。今日は村長宅に帰ってゆっくり休ませてもらいます。」
「そうかの、ではまた明日朝一でもいいから来なさい。」
「分かりました。では失礼します。」
レンヤはソファから立つとウォルクに軽く礼をしてギルドから出た。部屋から出る際にフードも被っていたので特に何事もなくオルガさんの家に帰ることができた。
オルガさんは家の中で怪我をした冒険者の治療をしていたので簡単に挨拶だけ済ませて2回へと上がる。
ところどころ怪我をしたところをベッドに横になって自分で治療していたらいつの間にか深い眠りへとついていた。




