15.森での討伐
カウンターから振り返り歩き出す。すると周りに人だかりができている。
「なぁ、あんたが昨日活躍したっていうレンヤか?」
大体30代のおじさんや女性の鎧を装着した人やレンヤよりも明らかに年下に思われる少年少女様々だ。
レンヤは相手するのが面倒になりそのまま進もうとする。
「おい、ちょっと待てよ。」
そのままレンヤたちは塊のままギルドの外まで出ていった。ギルドの職員たちも問題事には関与しないことになっていたが気になってしまうのかチラチラと外の様子をうかがっている。
「おい、待てって!」
最初に話しかけてきた親父がついに我慢できなくなったのか後ろからレンヤの肩をつかんだ。
「おい、ちょっと活躍したからっていい気になってんじゃねぇよ。」
親父はつかんだ肩を思いっきり引っ張り、レンヤを自分の方へと振り向かせる。そしてレンヤの肩をつかんでいない方の手を握りこぶしをつくると思いっきりレンヤへと殴りかかった。
まわりにいた人もそこまでの行動を予想していなかったのか驚いて急いで止めようとするが間に合わない。
だいたい行動を予想していたレンヤは肩をつかまれた時にため息をつくと引っ張られて後ろを向いた瞬間に目に力をこめる。男の体を覆うマナの反応は無いので単純に殴ってきたのだと理解する。相手の動きを見ているとだんだんと動きが遅く見えてきた。
(この感覚は剣術に似てるな...)
レンヤはハルクと訓練していた感覚を思い出す。
拳がレンヤの顔めがけて向かってくるので左手でその手をつかむ。
まわりが止めようと動いているが動きが遅すぎた。
パァンと乾いた音が周りに響く。殴りかかってきた男もレンヤの周りにいた人達も目を丸め驚く。
「はぁ、何か用ですか?」
「え、いや、その...」
殴ってきた男は止められたことに驚いたのか頭の中は真っ白になりうまく話せていない。
レンヤはもう一度ため息をつくと男の拳を離し、フードを被ると集団から離れ始めた。
「ま、待ってください!」
男とは別にレンヤよりも年下であろう胸当ての鎧だけをつけて剣をベルトにさしている女の子がレンヤに話しかけてきた。レンヤは振り返ると答える。
「なんでしょうか?」
フードを被っているせいかレンヤからは少女の顔を伺うことができるが少女からはレンヤの顔は見えてない。
「あ、あの!私とパーティーを組んでくださいませんか?」
「おい、お前だけずるいぞ!ぜひ僕とお願いします!」
「ねぇ、私のパーティーに入らない?」
少女がレンヤを勧誘するとそれを待っていたかのように周りにいた人達もレンヤを勧誘しだした。
「なぜ僕を?」
「だってお強いと聞いたので...」
レンヤが聞くと少女が答える。周りも同意見なのか少女の答えにうなずく。
「僕が戦闘をしているのを見ていたのですか?」
「いえ、見てませんが...」
「すみませんが僕は誰かと組もうとは思っていないので。」
レンヤはため息をつくと再び森に向かって歩き出した。
森に入ってからどれほど経ったのだろうか、いまだに目に見えるところにはいないが誰かがついてくる気配がする。この森に入ってから小数のゴブリン集団に何度か遭遇し計21体狩っているが、人の気配がするため魔術は使えず身体強化で加速することと剣術だけで討伐していた。Dランクまであと50体。
「はぁ、今日中に終わるかと思ってたんだけどな...まさか加速してもついてくるなんて思わなかったな。数が多いからしょうがないか...」
いなくならない人にイラつきつい独り言をつぶやいてしまう。
大体森に入ってから3時間ほど経っていたのだが妙にゴブリンとの遭遇率が高いように思われる。
すると遠くから悲鳴が聞こえてきた。声からして男の子だろうか。レンヤはセイのこともあったが、もとからお人よしだったせいか気付いたら声の聞こえた方向に走っていた。
場面は似たようなものだった。
少年が木に寄りかかりながら剣を構えている。その周りにはゴブリンおよそ7体。
少年はところどころ怪我をして出血もしていたが剣を振り回して必死になっていた。
どこかで見覚えのある顔だと思いながらその様子を見ているとやはり今朝ギルドの前で話しかけてきた一人だった。少年は体力が無くなってきたのかだんだんと剣の動きが遅くなっていた。
「とりあえず殺しても横取りにならないよね...」
レンヤはゴブリンとの距離を一気に詰めると刀を横に振って3体殺す。だいたい要領も良くなってきたこともあるがゴブリンが子供ほどの大きさなので複数体を一気に殺すこともできるようになっていた。
仲間が殺されたのに気づいたのか少年にじわじわと迫っていたゴブリンが一斉にレンヤの方を向く。弓使いがおらず、全員剣を持っていることを確認すると近くにいる個体から殺していく。さすがに前回みたいな失敗はしないように気を付けていた。
ゴブリンは個体の戦力はあまり高くないので簡単に残り1体にまで殺すことができた。その1体も切りかかってきた剣をはじいて飛ばし、両足を知り落とす。すると体を支え切れなくなりゴブリンの胴体は地面へと落ちた。まだ息はあるみたいでギィーギィーとないて暴れている。
「ほら、最後一体残しておきましたからとどめを刺してください。それともう村へ帰った方がいいですよ。そのままでは他の魔物に襲われて死にますよ。」
レンヤは簡単にそう言うと自分が倒したゴブリンの耳を回収しアイテムバックへと収納していった。
少年は立ち上がるとゴブリンの頭へと剣を突き刺してとどめを刺す。
「あの!助けていただいてありがとうございます。今日だけでいいので僕と組んでもらえないですか!」
またかと思いながらレンヤは言う。
「そんなにボロボロでは戦闘はムリですよ。早く村に戻って下さい。」
「そこをぜひお願いします!」
少年は深く礼をして頼んでくる。正直この状態でついてきても邪魔になる。盾にも使えない。
「帰ってください。」
「お願いします!」
だんだんとイライラしてくる。少年は頼んでいればじきにレンヤが折れてくれるだろうと思っていたがそれに反してレンヤはイライラしていた。
「帰りなさい。」
「お願いします!」
「...」
「お願いします!」
「...帰れ。」
「...」
我慢できなくなり若干少年をにらみながら言う。自然とマナがレンヤからあふれ出し、少年はレンヤを見ると顔を白くして剣を持つと森の外へ走っていった。ちゃっかり自分のゴブリンの耳は回収していた。
何事かと思いながらもレンヤは反対方向の森の奥へと向かって歩いていく。
それからも人の気配は無くならない。少年は帰ったのかは分からないがあの調子では森に居続けるのは難しかったであろう。人の気配にイライラしてか、だんだんとゴブリンと遭遇した際の戦闘が雑になっていく。前までは少ない攻撃で魔物を狩っていたが、今ではオーバーキルになる程に攻撃をしていた。それはまるでストレスを解消するかのようだった。
人の気配にイライラする。ゴブリンを狩る。イライラする。狩る。イライラする。狩る。
何度繰り返しただろうか、耐えきれなくなり体からまたもやマナがあふれ出す。レンヤから放たれたマナはレンヤを中心にドーム状に広がっていった。鳥は一斉にはばたく。
だんだんと森の中が静かになっていく。人や魔物が動く際の足音や鳥のさえずりさえもしない。
レンヤはだんだんと遠のいていく人の気配を感じる。なぜか今では何人この森に人がいてどこに魔物がいるかも感じることができた。
そしてレンヤの方向へと向かってくる集団の魔物の気配も感じることができた。




