14.翌日
「ごちそうさまでした。トレーはここに置いておきますね。」
レンヤは2階から持って降りたトレーを台所に置いてオルガさんに声をかける。食器を洗ってもよかったのだがスポンジもなければ洗剤もないから洗うことができない。
再び2階へと戻り壁に立て掛けられていた刀を持つとベルトに鞘をさし、ゴブリンの耳を葉で巻いたものを持ってギルドに向かう用意をする。アイテムボックスから依頼の薬草を取り出して手に持つことも忘れない。
1階に降り、椅子に座って何か飲んでいる村長に軽く声をかけて冒険者ギルドへと向かう事にした。
ギルドに向かう途中で様々な人がレンヤを見てひそひそと話をしている。この時ほどフードを被って行動したかった日は今までに無かっただろう。しかし誰も話しかける人はいない中、見覚えのある女性が話しかけてきた。
「レ、レンヤさんですか?わ、わたしは...」
「あぁ、確か昨日ローブを買った店の店員さんですよね。お怪我は大丈夫でしたか?」
「覚えていてくださいましたか!あ、大丈夫です!これ、昨日借りたローブです!破れていたので新品の物と交換させていただきました!」
女性は両目をギュッとつぶりながら新品の黒いローブを差し出してきた。
「ちょうどローブが欲しかったんですよ、ありがとうございます。」
少し笑いながらレンヤは差し出されたローブを受け取った。
「あ、服が破けたりしてますね。うちの店で見ていきませんか?」
女性はレンヤの格好を見て言った。確かに今レンヤが着ている服は剣で刺されたり切られたりしたせいであちこちが破れていた。本来ならば着替えるべきなのかもしれないが、あいにくこの服しか持ち合わせていないためこの格好のまま行動しているのであった。
「残念ながら今はお金の持ち合わせがないので...」
苦笑いしてレンヤが答える。
「お代なんていりませんよ!昨日は助けていただきましたし。ちょっと待っていてくださいね。」
そういうと女性は店先から店内へと駆け足で戻っていく。待つこと数分女性が服とズボンを数着ずつ持ってきた。
「これいかがですか?」
「あ、ありがとうございます...」
(用意してくれるのはありがたいが全部黒ってどういうことですかっ!死神ですか!!)
そんなことを考えていたせいか女性がレンヤの顔を覗き込んでくる。
「私的には似合うと思ったのですが...お気に召しませんでしたか?」
「いえ、ありがとうございます。本当にもらってもよろしいんですか?」
「もちろんです!どうぞ着てください。あ、あとこれもプレゼントです!」
「これは?」
レンヤは女性から茶色の巾着の袋をもらう。大きさとしては手のひらの2倍程だろうか、外見は普通の袋にしか見えない。
「見たことありませんか?これはアイテムバックですよ。といっても5級ですけどね。アイテムバックは級数によって異なりますが武器やポーションなどのアイテムなどを収納できるカバンで5級なら大体10kgまでは入るはずです。本当は1つでも銀板貨1枚するんですがサービスしときますよ!」
「それは便利ですね、ありがとうございます。服を着ていきたいので試着室お借りしてもいいですか?」
「今から冒険者ギルドに行くんでしたら着替えたほうがいいですよね。どうぞこちらです!」
店員さんに案内された場所で着替え、もらった服や来ていた服をアイテムボックスに収納し、ゴブリンの耳をくるんだ葉や薬草をアイテムバックに収納する。それをベルトに通し、最後にローブを羽織る。
試着室を出ると店員さんが待っていた。
「やっぱりそのローブを着ていた方が似合いますね。」
「そうですか?ありがとうございます。」
お世辞で言っているだろうから適当に返事をする。
「最後にきちんと感謝の言葉を言わせてください。今回は助けていただきありがとうございました。あのままでは最終的に私たちは奴隷にされいたと思います。今私がこうして普段通りに生活できるのはレンヤさんが助けてくださったからです。村の皆さんも強い力を持っているレンヤさんを多少恐れている人もいますが助けていただいたことには感謝しています。どうか機嫌を悪くなさらないでくださいね。本当にありがとうございました。」
女性は深くお辞儀をする。これで納得がいった。村の人がひそひそと話しているのはあの人数の盗賊を一人で殲滅させたレンヤへの畏怖があったからなのだろう。
(強すぎる力は恐れられる、か...)
「僕にとってあの盗賊は邪魔でした。あなた方も盗賊を恐れていた。今回僕のやったことが、たまたま村の皆さんの役に立っただけですよ。頭をお上げください。」
女性店員がゆっくりと頭をあげる。
「では僕はギルドに向かいますね。」
「はい、いってらっしゃいませ。」
にこりと笑う店員さんに見送られながらレンヤは冒険者ギルドへと向かった。
この店員には続きがあり、友人に宝物としてボロボロになった黒いローブを見せているらしい。
レンヤはフードを被り歩くことで多少「誰だこの不審者?」と振り返る人がいたがひそひそとレンヤを見ながら話す人はいなくなった。
冒険者ギルドに着くと室内はいつもの状態に戻っていたが、昨日あふれていた数の冒険者はいなくなっており、両手で数えられる程度の数しかいなかった。
いつものようにウォルクさんのテーブルに向かう。
「おはようございます。本日はどのような要件かな?」
「おはようございますウォルクさん、お怪我は大丈夫ですか?」
「失礼じゃがどちらさんかな?」
眼を細めるウォルクを見てレンヤはフードをとると、ウォルクは驚いた顔をした。
「おぉ、レンヤ君か。昨日は大変じゃったな。怪我は多少しておったが昨日のうちにオルガに治してもらったから大丈夫じゃよ。さて、今回は何ようかな?」
「依頼が終了したのでその報告とこれを提出したいんですが...」
レンヤはカウンターに依頼の薬草とゴブリンの耳をアイテムバックから取り出して置いた。
「ウル草20本、確かに確認したぞい。ギルドカードを出してくれるかな?」
レンヤはポケットからギルドカードを取り出し、ウォルクさんに渡した。
ウォルクはカードを水晶にかざすと水晶が光り、依頼完了となった。
「さて、次はこれじゃな...ん?まさかレンヤ君これを全部やったのかな?」
ウォルクは葉を開いて中身を見た瞬間固まった。
「ちょうどゴブリンが小数で多く来まして全部狩ったらこうなりました。」
やはり多かったかと思いながらも少し苦笑いしながら答える。
ウォルクは耳を数えていき、数え終わるとため息をついた。
「いままで新人がこんなに狩ってくることなんぞ無かったわい。」
ウォルクは専用の用紙にゴブリンの討伐数を書き込むと、再び水晶にカードを置くとその紙を置いた。水晶は再び光るとカードと紙をとった。
「レンヤ君は今までFランクじゃったがEランクに昇格する条件が魔物の討伐じゃからレンヤ君は今日からEランクとなった。」
何故か疲れた顔をしてウォルクは言ってきたが疲れているのは自分のせいではないと思い込んで気にしなかった。
「ちなみにDランクへの昇格条件は何ですか?」
「本当は言ったらダメなんじゃがまぁいいじゃろ...魔物100体が条件じゃ。今回で30体狩ってきて昇格用で1体使ったからあと71体じゃな。レンヤ君なら明日中に用意しそうじゃが新人のEランク冒険者はここで張り切ってしまって死ぬ奴が多いからのぉ、気を付けるように。そういえばレンヤ君には別に報酬が出とるんじゃったな。」
そういうとウォルクさんは金板貨2枚と銀板貨1枚、銅貨15枚を置いた。
「今回の盗賊はリーダーに金板貨1枚の懸賞金と部下一人に対して銀板貨1枚の懸賞金が出ておったからこれが報酬じゃ。それとゴブリンの討伐金が銅貨15枚じゃ。一気に金持ちになったの。」
「今回はたまたま運が良かっただけですよ。次からはもっと慎重に行動するようにします。それと今日は随分と冒険者さんの数が少ないですね。」
「今回の事件で死んだ者が多い...他の者も怖気づいたように他の村へ行ってしまった。何とも情けないのぉ。まぁ、片付いたように見えてもここ数日は依頼の提供もできそうにないからしょうがないがの。」
レンヤはギルド内の掲示板を見るがいつもたくさん貼られている依頼の紙は常時貼られているもの以外は剥がされて無くなっていた。
「あと片づけやら上への報告で忙しくての...ゴブリンの討伐はできるから安心せい。ただ今回の事件のせいでレンヤ君が魔術が使える事が知れ渡ってしまっておるからの、パーティーへの勧誘があるじゃろうが気を付けるんじゃよ。」
「分かりました。それではゴブリン討伐にでも行ってきますね。」
レンヤはカウンターに置かれたお金とギルドカードをポケットにしまうとカウンターを離れていった。




