12.襲撃
男を引きずりながら森を出て、道に沿って歩きながら村へと戻る。
結局森を出るまでにゴブリン計5体と遭遇したが無事に刀で討伐したので総討伐数は30体となっていた。
「30体って多いのか少ないのかよく分からないんだよな...」
ギルドについてから薬草とゴブリンの耳を提出した際に怪しまれないかは心配であったがマラン村に長く滞在するつもりもないので気にしないでおく。レンヤは先ほどあったことを思い出していた。
ゴブリンを討伐している際に男のポケットからギルドカードが落ちていた時があった。
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NAME セイ
Age 17
Rank Eランク
Party -
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「えっ、この人同い年のランク上なんだ...」
レンヤは軽くショックを受けていた。
「あれくらいの魔物くらい処理しろよ。」
ショックを受けると同時にこの世界の冒険者ランクを疑っていた。この世界においては個人の戦力があまり無くても依頼をこなせればランクが上がる単純な世界なのかもしれない。
ショックを受けた過去の自分をフッと自分を笑うと村へ戻る道に意識を戻し歩いて行った。
マラン村に近づくときに違和感を感じる。日はかなり傾いており、靴がすり減りっているセイは起きる気配がない。
門にたどり着くとそこにいるはずの門番はいなくなっている。セイを引きずりながら門をくぐると門から続く大通りには誰一人として人がいなかった。
路上にあるのは人であったもの。
男と女、子供と老人といったものは関係なく転がっている。
ある者は片腕が無くなっておりまたある者は両足が切断されていたり、頭と胴体が切り離されている者までいた。大通りに面した建物には無数の傷跡や血がついており住民の抵抗した痕跡が見受けられた。
レンヤはセイを落とすと村長宅へと走っていく。マナをまとわせて走れば数秒で着くのだろうがそんなことを考えている余裕すらレンヤには無かった。
村長宅の前にたどり着きドア越しに中の様子に耳をたてて聞こうとする。中からは物音が一切しない。
刀を抜いて慎重にドアを開ける。オルガ村長はそこにはおらず、テーブルやイスが倒れているといった状況になっているが血が床に広がっているといったことは無かった。
「抵抗する間もなく気絶させられたか、もしくは脅されてどこかへと連れていかれたか...まぁあの人はあまり戦う事出来なさそうだしな...」
ニコニコ笑っている村長が凄腕の元冒険者だったら驚きだと考えながらも2階に上がり、誰もいないことを確認するとゴブリンの耳を置き、村長宅を出てギルドに向かうこととする。右手に刀を持ち、左手でローブのフードを被る。フードは以外にも大きく、被ると真正面からでも顔が見えないだろう深さまであった。
ギルドまで歩いていく。ギルドに近づくと建物の周りに武装した人物が5人、それぞれ両手剣を持っておりきちんと鎧までつけている。しかし冒険者ではないという雰囲気はせず、どちらかというと盗賊だろうか。彼らの剣はいずれも血が滴っていた。
レンヤは相手に気付かれないうちに近くの建物の影に隠れる。
「"鑑定"」
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名前 デリック
種族 人間
身分 冒険者(盗賊)
HP 100
MP 0
魔力 0
知力 13
敏捷 10
運 5
スキル
・剣術 Lv2
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「よし、盗賊なら殺していいかな。」
一番近くにいた人物に鑑定を使うと身分が盗賊になっていた。
その男は後ろを向いて何かをしている。周りにいる男たちもニヤニヤしながらそれを見ている。
「(いったい何しているのだろうか...まぁ殺すことには変わらないけどさ。)」
レンヤはフードを被ったまま刀を手にギルドへと向かっていた。近づくとニヤニヤしていた男の一人がレンヤに気付いたのか剣を構えて言う。
「お前誰だ?あいにくこの村は俺たちが占拠したんだけどさ。死にたくなかったらさっさと村から出てけよ。」
まわりにいた者もレンヤの方を向くと剣を構える。
後ろを向いていた男がレンヤの方を向くとその男の後ろに女がいるのが見えた。確かこのローブを買った店にいた店員だろうか。あちこち怪我をしているようだが致命傷になっているものはない。服は切り裂かれほぼ裸といっていいような格好となっており、破かれた服をたぐり寄せて身を守ろうとしている。幸いにも意識ははっきりとしており盗賊に抵抗していたのだろう。
「ちょっと聞きたいんですがこの惨状つくったのあなた方ですか?」
レンヤは刀で自分の肩をたたきながら聞く。
「そうだぜ。この村は規模がデカい割に警備が薄くて簡単に占領出来ちまったよ。こんな弱い村今まで無かったな。」
へらへらと笑いながら答える。周りにいた男たちも同じように笑う。
「なら手加減なしで殺していいですよね。」
レンヤはにこりと笑うがフードを被っていて男たちからしたら口元しか見えてないだろう。
「は?お前何言ってんのそんなの出来るわけ...」
男は最後までしゃべることができずに頭と胴体が切り離される。
その目の前には刀を横に、切った後の状態のままのレンヤ。
飛んで行った頭が男たちの足元に落ちると、その音で男たちは何が起きたかを認識した。
「お、おまえいつの間に...ぜ、全員でかかれば問題ない!行くぞ!」
全員で一斉にレンヤに切りかかってくる。
切りかかってくる相手をよけながらレンヤも盗賊を切ろうとするが胴体につけられた鎧のせいで刀がはじき返されてしまう。レンヤは一旦後ろに飛び、盗賊と距離をとる。
「なぁ、どうしたんだよ?さっきまでの威勢はどこにいたんだ?もしかしてビビったか?」
盗賊たちはニヤニヤと笑いながら距離を詰めてくる。
確かに胴体は鎧で覆われており刀で怪我を負わせるのは不可能と考える。ならば狙うは足か腕、頭になる。人間を初めて殺しているが、そんなことを考える余裕は今のレンヤには無かった。
レンヤは再び足にマナをまとわせると一番近くにいた盗賊に接近し両足を腿の位置で切断する。当然のことながら男は地面に落ちるので剣を蹴り飛ばして武器を持っていない状態にする。このまま放置していてもいずれ出血多量で死ぬだろうからこれ以上のことはしないでおく。
残り3人は状況を読み込めずかたまったままになっていたがレンヤが近づくと剣を振り回し始める。落ち着きを無くしていたのか剣の動きは素人が振り回す状態となっており対処も簡単になっていた。切りかかってくるのをよけながら剣を持っている手首を切断し、二人を無力化する。この際逃げられても面倒なので足の腱も切り、動けないようにする。這いつくばりながらなら逃げられるのだろうが2人は痛みで白目をむいていた。残る一人もレンヤが近づくと腰を抜かし地面へと尻もちをつく。
「い、いやだ...おれはこんなところで死にたくない...」
「言い残すことは以上ですか?」
レンヤは刀を横に振り頭と胴体を切り離す。
一息ついて取り残されていた女性に近づく。
女性は自分も殺されるのかと思い逃げようとしているが腕と足に力が入らず縮こまって目を強くつぶった。
そんな女性の行動にレンヤは苦笑いをすると刀を鞘に収めてフードをとる。
「大丈夫でしたか?」
声をかけられ女性は恐る恐る目を開ける。そしてその目に苦笑いしているレンヤが映る。
「あなたは確か今朝の...」
女性はレンヤの顔と自分が売ったローブで今朝のことを思い出した。
ほぼ裸の状態となっている女性に目を向けられず、レンヤは視線を宙に泳がせると自分のローブを脱いで女性にかける。
「何があったか教えてもらえませんか?」
レンヤが尋ねると女性はレンヤの足にしがみついて泣きながら状況を話し始めた。
「夕方ごろ、ちょうど1時間前くらいに村の入口の門が盗賊に破られて盗賊が20人くらい入ってきたの...村にいた冒険者とかギルドの人たちが頑張って対抗してくれていたのだけど盗賊も強くて。抵抗する人たちは殺されたけど、今も家の中で隠れている人はいるわ。私も店に隠れていたけど入ってきた盗賊に見つかってここまで連れてこられて...服を破かれて襲われそうになっていたの。」
女性をあやしながら大体の状況を聞き出す。村長を引き連れて今はギルドにたてこもっている事、残った盗賊はおよそ8人で盗賊のリーダーは最近この付近の町や村を襲っている懸賞金のかかっている相手だという事。
「ありがとうございます、僕はこれからギルドに用事があるので安全なことろに避難することをお勧めします。」
最初女性は離れようとしなかったが、レンヤに諭され、状況を見ていた他の村人に連れていかれた。
「さて、今日中に終わらせるか。」
刀を抜いて右手に持ち、レンヤは建物へと入っていった。
建物の壁はほぼ一面血で染まっていた。ギルド員はほとんどロープで拘束され体の自由は効かずこの状況をいかに打破するかを考えている。その中にもレイネさんやウォルクさん、ハルクさんの姿が見受けられた。
床には冒険者だったとみられる人たちが倒れて死んでいた。
ギルドの中心に椅子が一つ置かれておりそこに村長はいた。後姿しか確認できないが村長は椅子に縛られうなだれている。肩が動いているため生きてはいるのだろう。
盗賊の一人がレンヤに気付く。
「あぁ?おまえ誰?」
ギルド内にいた人全員の視線がレンヤに集まる。
「レンヤ君!早く逃げなさい!」
首だけ回して後ろを見た村長のオルガさんはレンヤに気付くと驚いて大声で言った。
「ウルせーよ、黙っとけ。」
同時に近くにいた盗賊の一人に蹴り飛ばされて椅子ごと倒れる。オルガさんは顔が赤く腫れていて何度も殴られた跡が見受けられた。盗賊らしき格好を下人は全員で確かに8人いた。
「依頼完了したんで報告がしたいんですがー。」
「なぁ兄ちゃん、今そんな状況じゃないって事くらい分かるよな。まぁ今更生きて帰さないけどさ。」
一番大きな体格をした髭を生やした男が答えた。
「あなたが盗賊のリーダーですか?」
「あぁそうだ、俺がこの盗賊団のリーダーだ。それがどうした。」
「いえいえ、確認したかっただけです。」
レンヤはニコリと笑い、詠唱する。
「"多重展開、ファイアボール"」
詠唱省略をして唱えるとレンヤの周りにおよそ直径20cmのファイアボールが8つ形成され、それぞれ盗賊の方に飛んで行った。
結果としてはリーダーともう一人が避けたが残りは体を貫かれ絶命する。
「もう、多重展開は消費MPが1.5倍になるんだからおとなしく死んでくださいよ。」
レンヤは腰に手を当てて少しムスっとして言った。
「この、小僧が調子乗ってんじゃねーよ。」
リーダーの近くにいて偶然避けられたもう一人が剣を構えてレンヤに飛び掛かってくる。レンヤは刀で剣をはじくと相手を蹴り飛ばし男を壁に衝突させる。男は地面にうつぶせに倒れ、うめくが起き上がることはできないようだ。ゆっくりと近づいて首に刀を突きさして確実に息の根を止める。
「さぁ、あとはあなただけだ。」
ニコリと笑うがリーダーの顔には余裕が見られていた。
「そうだな、もうすぐお前は死ぬからな。」
何を言っているのかと思っていると後ろから何かがぶつかってくる。
自分の腹を見ると剣が一本突き刺さっていた。




