11.依頼終了
森に入ってからどれくらいの時間が経過しただろうか。レンヤの手にはゴブリンの耳がくるまれた葉が三つになっていた。一つに五体分のゴブリンの右耳が入っているのでこの時点で十五体は狩っていることとなる。
ちなみに基本属性の四つのボール系の初級魔術は使える事が判明していた。火と水、風と土は反する属性として一人の人間が使うことができる魔術ではないが使えるに越したことは無い。
太陽はこの時点で真上を越えて傾き始めていた。
「せめて20というきりのいい数字まで狩るか。」
この世界に来てから空腹感があまり感じなくなってきていたのでレンヤは昼ご飯をあまり必要としていなかった。ゴブリンはあまり動きが速くないので近づいて刀で狩ることもあり、刀の扱いも十分慣れてきていた。ここでレンヤはステータスを確認する。
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名前 レンヤ ヒイラギ
種族 人間
身分 冒険者
HP 150
MP 160
魔力 200
知力 26
敏捷 23
運 20
スキル
・言語理解 (ユニーク)
・鑑定 (SR)
・剣術 Lv3
・アイテムボックス(UR)
・身体強化
・属性魔術 火 Lv2
水 Lv2
風 Lv2
土 Lv2
※レベル不足のため複数属性使用不可
Message
新着無し
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「ボール系の初級魔術で1回あたりMP10消費か...結構でかいな...。ん?何か増えてる。身体強化って名前からしてあの木に飛び乗ったのと関係あるよな。」
一般的な初級魔術でどれほどのMPを消費するのかは分からないがMP10消費するのは多すぎると考えるレンヤだった。次に"身体強化"を確認してみる。
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・身体強化
体がマナをまとうことで部分的に強化できる。
効果としては筋力上昇や表面硬化といったものがある。
体に負担を与えすぎると副作用が起きる可能性がある。
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「やっぱり飛び乗ったのはこのせいだったか。副作用ってどうせ筋肉痛だろ。でも知らないうちにマナをまとっていたのか、魔術が使いやすくなったのかな?」
ゴブリンの血がついた刀を軽く振って血を落とし、片手に持ちながら森を進んでいくこと数十分、ゴブリンの声が聞こえてきた。声からして複数体いるのは間違いないだろう。
今までのゴブリンは最初の三体に加え三体、二体、三体、四体の合計十五体であったため五体以上のゴブリンとの遭遇戦はまだない。
若干の駆け足で進むと遠くに何かを取り囲むゴブリンを発見。
刀を鞘に戻して近くにある木に飛び乗る。数えてみるとゴブリンが十体いた。その十体の中心にいたのは冒険者だろうか、男が倒れており、ゴブリンに棍棒で叩かれていた。男はもう虫の息になっているのか気を失っているのか、はたまた死んでいるのか、もう体が動いていない。
「はぁ、諦めているのか死んだのか分からないがこの状態だとゴブリンは横取りしてもいいだろ。」
レンヤは右手をゴブリンに向ける。
「この角度だったらまとめて狩るのはムリか。まぁいいか、"火を以って敵を滅する力となれ、ファイアボール"」
とりあえず一番奥にいるゴブリンに狙いを定めて発射する。魔術を十回使用しているせいか最初にマナの球体をつくる手順は必要なくなっており、手のひらから赤い炎の球が出される。
ファイアボールがゴブリンを頭を貫き消滅する。ゴブリンは突然の攻撃に動きが止まり剣や棍棒を構えて周りを見渡し始める。
「この調子だったらまだ魔術で攻撃できるか..."土を以って敵を貫く力となれ、アースボール"」
手のひらに銀色の球体が現れる。質感と表面に光沢があることから鉄なのかもしれないが触ってないから分からない。発射された球体は右側にいた二体がちょうど一直線上に重なっていたため二体とも貫く。
「これであと七体か。意外とまだ多いんだけどな...」
レンヤは木から飛び降りると刀を抜き足にマナをまとわせて走り出す。レンヤとゴブリンの距離はおよそ30mほどであったが身体強化のおかげか一秒ほどでその距離が縮み、横に剣を振るうことで三体のゴブリンが上半身と下半身が分かれた。切れ味は驚くほどであった。
「残るは左側の三体のみ。」
残った三体のゴブリンはそれぞれ剣、棍棒、弓を持っており突然現れたレンヤに若干驚いていた様子であったがすぐに体制を立て直し剣と棍棒を持ったゴブリンが襲い掛かってくる。剣を上から切りかかってきたゴブリンを左側にかわすことで避けると、もう一体が棍棒を振り下ろしてくる。それを左手にマナをまとわせて強化することで受け止め、右手で持っている刀でゴブリンを切る。振り返ると剣を持ったゴブリンがまた切りかかってきたので刀で剣を受けてはじき返し、バランスの崩れたゴブリンを切り捨てる。あともう一体と振り返ると右肩に衝撃が伝わってきた。
右肩を見ると矢が一本突き刺さっており、力が入らないためか刀が地面に落ちる。
この世界に来て初めての先頭による負傷だった。
「...倒す順番間違えたか。」
ゴブリンを見ると腰につけた矢筒から矢をもう一本取り出して弓の弦にかけ、レンヤの方に構えていた。レンヤはとっさに左手に持っていた葉でくるんだゴブリンの耳を落とすと左手の平をゴブリンに向けてつぶやく。
「..."ファイアボール"!」
左の手のひらに集まったマナが収束し赤い炎の球がつくられ飛んでいく。
同時にゴブリンも矢を放つが矢はファイアボールにぶつかると消滅し、そのままゴブリンを貫く。ファイアボールはゴブリンを貫くと消滅した。
その際にファイアボールから煙が出るようにキラキラと光輝くものが空気中に霧散していくのをレンヤは見た。
敵が全滅したのを確認するとレンヤは左手で右肩につき刺さった矢を引き抜く。若干の痛みを伴ったがすべて引き抜き、体の中に残っていたいことを確認すると左手を傷口に当てて詠唱する。
「"彼の者を癒し元ある姿へと戻れ、ヒール"」
傷はだんだんとふさがっていき、五秒ほどしたら傷跡は完璧になくなっていた。
「治癒系魔術聞いといてよかったわ~。」
刀でゴブリンの耳を切り落として回収して新しく葉でくるみ、今までの分も先ほど落としたので回収する。ゴブリンの耳は計25個となり結構な量となった。木に巻き付いていた蔦を適当な長さで切り取りそれぞれの包みを縛るとベルトにぶら下げて持ち歩かずとも大丈夫なようにする。
ゴブリンに囲まれていた人は無事かを確認しようと近づく。
うつぶせになっていたのをひっくり返すと見覚えのある人物だった。
「...誰だっけ?あ、ギルドで絡まれてた人か。」
その人物は今回の依頼を受けてギルドを出ていく際にレンヤを巻き込もうとしていた青年だった。
男は鉄で出来た胸当て以外の鎧をつけておらず剣も持っていなかった。
「胸当てだけなんて大丈夫なのか?まぁ、鎧つけてない僕が言うのも変だけどさ。」
レンヤはしゃがむと男の腕で脈を測ろうとする。気を失っていただけなのか一定のリズムで脈を打っているのが分かった。男は全身に棍棒で叩かれた跡が残っており足には矢が一本、胴体に二本刺さっていた。どうやら最初に足に矢を打たれて動けなくなったことろを棍棒で叩かれていたみたいだ。剣で刺されなかったのが不幸中の幸いだろう。
レンヤは男の肩を軽くたたく。起きない。
レンヤは男の肩を強く揺すってみる。起きない。
レンヤは男の頬を強くビンタする。起きない。
「さて、どうするべきか...正直助ける理由もないし迷惑かけられたからどっちかというと放置したいんだが...ここで死なれるのも後味悪いんだよね...」
しばらく悩んだが連れて帰ることにした。ちなみに治療はしない。魔術が使えるのを知られたくないのもあったがMPをこれ以上消費したくないのが正直な理由だった。それに帰るまでに魔物に遭遇しないとも限らないからだ。
レンヤは男の両手をもう一本用意した蔦で縛ると男を背負わず引きずり村まで戻っていった。




