人の毒になりたい
人の毒になりたい。いつからか僕はそんな風に生きたいと思っていた。
人の毒は自虐的な言葉だ。薬も毒も似たようなものだから僕はこの言葉を使っているだけだ。誰かの何かになりたい。それは人間なら持っていることではないだろうか。
少なくとも僕にはある。だから僕は毒になりたい。誰かに自分のことを感じてほしい。僕の囁きが誰かの気分を害し、十秒でもいいからその人間の貴重な時間を奪ってやりたい。そんなことを想うのだ。
結局それも自虐の裏返しなんだ。本当は僕は、二十秒でもいいから僕の言葉に耳を傾けてほしいだけだということだ。薬も毒も、普通の生活には必要ないのだ。だけど、体が敏感なら、免疫能力が下がっていれば届くだろう。
それはきっと心の弱いときなのだ。体が風邪をひくように、心も風邪をひくはずだ。そんな時に、誰かに届く毒になりたい。薬になりたい。
苦しいことしか知らない僕だから、誰かの苦しみに手を伸ばしたくなるんだ。
健全な人にはきっとそれは毒なのだ。だって、そんな不幸自慢みたいなもの聞きたくはないだろう。せっかく気分が台無しにしてしまうじゃないか。
だから僕は毒になりたい。幸せな者をひきずり落として、現実を伝えたい。
だから僕は薬になりたい。不幸な者を後ろから支えて、現実を伝えたい。
そうすれば僕はきっと、自分の生を感じられるはずだから。
だから僕は、人の毒になりたい。