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鍛練は始まった

冒険者には次の次位になる予定。

少なくとも、一般人のしかも子供がすぐすぐなれはしないと思います。




ツェンブルさんの部下になった僕は、御者台に座っていた女の人に頭を下げて屋敷に入り、拐われた。ツェンブルさんは後ろのほうで何か驚いたように何か呟きながら僕を見ていたけれど、拐われた事についてはどうでもいいようだ。首を振って別方向に歩いていった。

僕をさらった人に目を写すと、どうやらメイドさんのようだった。

メイドさんは僕を抱えたまま1マウトも走ると、そこにあった扉を素早く開けて、僕を下ろした。

僕が運搬されながら聞いた話をまとめるとこうだ。


「…アユムだ。名前は?」


「サニアでございます」


「…なぜ運ぶ?」


「粗方の状況は御主人様に聞いております。屋敷を汚されるわけにも参りませんのでまずは風呂で身を清めていただきます」


「…すまない」


「アユム様に非はありませんのでおきになさらず」


とまあ、こんな感じでした。下ろされた僕はあれよあれよと言う間に衣服を剥ぎ取られ、丸裸にされてしまった。そしてそのまままた扉を潜らされ、石の中に煙の出る水の入ったものがある空間に出てきた。横には何に使うのかわからない、容器の代わりにホースをつけたじょうろのようなものと根本が回る先端の曲がった細い棒が繋がった置物がおいてある。

どうすればいいのか判らずにおろおろしていると、後ろからサニアさんが入ってきた。言っとくけど、メイド服は着たままだからね。

そうしてあれよあれよと言う間に洗われた。じょうろのようなものはシャワー細い棒は蛇口と言うらしい。レバー操作で水を出してくれるんだそうだ。で、煙の出る水はお湯。熱いものだと思ってたけど、ちょうどいい温度のお湯はとても気持ちよかった。全身泡だらけにされたのにも驚いたけど、それがなくなったあとのからだの軽さにもっと驚いた。

これが本来の身体を清める。ということらしい。

サニアさんも綺麗になった僕を見て満足したように頷くと、着替えを用意するといって出ていった。出ていくときに


「想像以上に素材がよくて楽しみです」


とか言ってたのが不安だ。お湯に浸かりながら、壁にかかった不思議な板に目を向ける。その板は白くてなにも見えないけど、所々水滴が流れ、そのしたに何かがあると解らせている。気になったのでシャワーを板に向けてレバーを回してみた。

あ、こっちは蛇口だ。改めて反対側へレバーを回す。

シャワーの先からお湯が出て、板から白のベールを剥がしていく。ベールが取れたところでレバーを戻し、改めて板を見た。その板の中には人がいた。青い髪を方の辺りまで伸ばし、前も目を隠す程の長さの前髪があった。今は濡れて二つに分けられているのでそのしたにある蒼い瞳が晒されている。吸い込まれそうなその蒼い瞳は、どういうわけか困惑に揺れていた。年の頃は12.3と言った所だろうか。その中性的な顔立ちは非常に整っており、下半身を見るまで性別が判らない。むしろ、線の細さやお湯により赤くなった顔は可憐な少女を思わせた。

…一体この人誰だろう?僕と同じような髪の毛で僕と同じような年ぐらいの男の子。

いつもの癖でつい首をかしげる。板の向こうでは男の子も首をかしげていた。…困った。こういうときどうすればいいのか判らない。取り敢えず、挨拶…だろうか?

知らない人と二人になったら取り敢えずしとけってお婆ちゃん言ってたし…


「…こん、にちわ」


板の向こうの男の子も挨拶をしたのか口を動かしたが、板に遮られているのか声は聞こえなかった。…どうしよう、手詰まりだ。

うんうんとお湯に浸かりながら考えていると、入り口のほうから笑い声が上がった。

はっと振り向くと、顔を真っ赤にして肩を震わせるサニアさんが。時折手でおおった口許から笑い声が洩れている。

サニアさんを心配しつつも先ずは男の子、と、鏡を指差して聞いてみた。


「…誰、なんでしょうか?」


瞬間、サニアさんの笑い声が弾けた。



あの板は鏡、というらしい。何でも鏡の正面にたつと正面に立ったものを写し出す道具で作り方は一般には公開されていないんだって。なんでも非常に高価なものらしく、これが一個で5人家族が優に2月は過ごせるのだそうだ。

つまり僕は、知らなかったとはいえ自分に一生懸命話しかけて、自分を指差してあれは誰ー。とか言っていたと言うことだ。全く恥ずかしい限り。

それはともかく、サニアさんなんで女の子用の服を着させようとするの?ちょっとまって、え?似合うって、嬉しくな…うわあぁーー!!



-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-



結局一通り着さされたあと、なんとか男物の服を貰った。動きやすそうな服で安心。もう二度とスカートとか履きたくないね。

サニアさんにつれられて、ひとつの戸の前に着いた。周りにある扉と何ら代わりのないその扉をサニアさんはノックした。中からツェンブルさんの声が返ってくる。どうやら入ってもいいようだ。

なかに入るとやはりツェンブルさんがいた。机に向かって何かをしているようだ。


「さて、わざわざ呼び出してすまない」


そう断って顔をあげたツェンブルさんは、一瞬固まった。

かとおもうと、すぐに、戻って数回瞬きをした。


「おいおい、身綺麗にすれば随分と変わるなぁ」


「私もそう思いました。先程女性用の服を着せてみましたが、大変似合っていらっしゃいました」


ツェンブルさんが言えば、後ろにたっていたサニアさんが話を広げる。


「ほほー。そりぁあいいな。今度見せてくれ」


嫌です。と、首をふる。

ツェンブルさんも残念そうな顔をしながらもそりゃそうだと言って苦笑いをしていた。僕が頷くと、一呼吸おいて真顔になった。


「さて、本題に入ろうか」


僕の反応を待ってから、ツェンブルさんは話始めた。


まず、僕を買った理由。これはどうも偶然らしい。宮廷魔導師であるツェンブルさんは魔法薬の素材として幾つかのアイテムを求めてあの闇オークションを見に行ったらしい。結局目当てのアイテムは見つからなかったが、代わりに僕を見つけたと言う。僕を買ってアイテムを調達させればただで済む。という考えのようだ。宮廷魔導師であるツェンブルさんはアイテムのためだけに外に出る時間は殆ど作れない。だから冒険者に依頼したり闇オークションに行ったりするそうだ。しかし、それにはお金がかかる。僕を買えば、借金を僕がしている間はアイテム代はただで済み、借金を返済されれば損もなくなる。と言うことで馬鹿みたいな値段で買ったって。


次、僕の仕事。

まずもって僕は一般人だ。魔法薬の素材なんかがある所にいけば呆気なく死ぬ。だから当面はひたすらに戦闘訓練。それができて初めて冒険者となって借金を返済していけるようになる。魔法薬の素材を集めたり冒険者となって儲けたお金を返済にあてたりだ。


最後に生活。

当面…と言うか借金返済迄はこの屋敷に住み込むことになる。食費と家賃として月に10sが借金に加算されていくが、普通に月10sは安い。有りがたいことだね。しかもこれ、利子利息の代わりとしての加算なのだ。本当に有難い。


早速明日から鍛練だ。正直一般人の僕には不安しかないけど、精一杯頑張ろう。そう心に決めてその日眠りについた。寝る間際に、初めて食べた豪華な食事についてしか考えられなかったが、鞭の前の飴でないといいな。



-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-




「…さぃ、ぉ…て、さい。起きてください」


繰り返される声に意識は浮上していった。

そうだ、今日から鍛練だ。

サニアさんと挨拶を交わして起きる。

着替えに当然のように用意されていたスカート等をスルーして昨日着ていた服を着る。さて、先ずは一日、頑張ろう。




「おーら頑張れ。まだ7週目だぞー。」


僕の横をツェンブルさんが涼しい顔で走っている。現在屋敷の庭を塀沿いに走っている。速度はそこまでではないが、もう数時間は続けて走っているんだろう、全身から汗が止まらず、息も整わない。肺は狂ったように酸素を求めて心臓はこんなブラック企業止めてやるとばかりに暴れている。足はもう棒のようになっており、今どうやって足を前に出しているのか判らない程に疲労していた。

少ししてとうとう足をもつらせて転けてしまった。身体を起こそうと必死になってもがくが、這うようにしか動けない。仕方なく這い進もうと腕に力を入れたところで漸くツェンブルさんのストップがかかった。


「根性あるなー。まあ、総評は晩飯食いながら言うさ」


返事を返そうにも肺も体も僕の制御を離れていて出来ない。そんな僕をみながら、ツェンブルさんは笑顔で言った。


「さ、次にいこっか」


ツェンブルさん、実は超スパルタだったんだ…

昨日固めた覚悟が、すぐにひび割れそうだった。




父親のせいで耐性ついてるから折れることは少なそう…かな?

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