売られて買われた。
風邪引いて暇なので勢いで書き上げた。
スマホは使いにくいね。
今思い出してみても、僕の子供時代は地獄だったように思う。
父さんは暴君だった。朝から晩まで働くこともせず、酒を持ってこさせては飲み続ける。酒が切れれば母さんを殴り付けて酒を買ってこさせていた。それを待つ間、僕は玩具のように使われる。殴る蹴るはもちろんのこと、首を絞められたり腕に焼けた石を押し付けられたり。とにかく、母さんが帰ってくるまでは理不尽な暴力を振るい、そうしてまた、母さんに買わせた酒を飲むのだ。
母さんは父さんの人形だった。僕が物心ついたときから、父さんに逆らうこともせず、ただ虚ろな目で過ごしていた。ただただ、殴られては酒を買いに行き、蹴られては父さんに酒を出す。僕と親子らしいことは話したことはない。…というか、「はい」以外の母さんの言葉を聞いた覚えがない。後はたまに出す小さな悲鳴…は、言葉じゃないよねぇ。
こんな家だったから当然だけど、食生活もひどかった。僕の稼ぐお金は全部父さんの酒代に消え、いつもいつも畑でとれる僅かな野菜と隣のお婆ちゃんが休憩中にこっそりくれるパンだけが、僕の食事だった。同年代の友達はいない。父さんの酒代を稼ぐために、遊ぶ暇もなく来る日も来る日も働いていたから。
働いて、お金をわたし、虐げられて、寝る。当時の僕の世界はこれだけだった。
我ながら、良く自暴自棄にもならず素直に育ったと思う。まだ僕が笑ったり喜んだりできるのも、きっと隣にすんでたおばあちゃんのお陰だ。お婆ちゃんは、畑で働いていた僕が休憩に入る度にお茶を片手にいろんな事を教えてくれた。畑の耕し方や商品の値切り方なんかの普段役に立つお話や、ずっと遠くにある王都の様子や貴族との接し方何て言う、こんな田舎で父さんに飼われてるような僕には関係無さそうなお話。はたまた、戦争をするときの兵法から心構えまで、なんで知ってるのかも良くわからない話なんかもしてくれた。大半が良くわからない話だったけどきっと、あの時間が僕という存在を首のかわ一枚のところで繋ぎ止めてくれたんだろう。たまにテレビがなくてつまらんとか、クルマがなくて不便なんて良くわからないこともいってたけど、とっても楽しい時間だった。…そのあとには、父さんに殴られる時間が待ってるんだけどね。
総じて、僕の子供時代は地獄だったように思う。
では、今この時はなんて表現すればいいんだろう?
「さあさあ皆さんご覧ください!お次が本日の目玉商品!150年に一度しかとれないと言われている白魔石!15万サクルからのスタートです!」
「16万!」
「19万」
「20万!」
司会役の声が途切れると共に幕の向こう側で威勢の良い声が幾つも上がる。
はぁ、とため息と共に肩を下ろしたひょうしに首もとで鎖の擦れるおとが響いた。
(どうすれば良いと思うお婆ちゃん?僕は今、売られるのを待つ身です…)
耳元で、なんとかなるさととても明るい声が聞こえた気がした。
-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-_-
「……落札おめでとうございます。落札した方は誘導員の指示に従って別室にて商品をお受け取りください。…さて、お次の商品はあちら!」
遂に僕の番が回ってきた。司会の声に会わせて、幕が取り払われる。同時に魔法で作られた明かりが僕を照らし出し、会場から小さくどよめきが上がった。
「お次の商品は、ご覧の通り人族の子供。所謂借金奴隷と言うやつですね。皆さんご存じの通り、最近の法改正で新しく奴隷を捕まえたり購入したりということが禁止されています。唯一犯罪奴隷だけが受刑者と名を変えて国に管理されていますが、こちらの少年はれっきとした借金奴隷です」
司会の発言に会場のどよめきがワンランクアップする。まあ、しょうがない。僕くらいの年齢で借金で奴隷になるやつなんてそうはいない。しかも最近は、国によって奴隷かを禁じられているので尚更に。
因みに何でこうなったかは僕も知らない。寝て起きたら檻のなかだ。此れがお婆ちゃんの言ってたポルナ…レル?レフ?まあ、ポルナントカ状態ってやつだろう。
「因みに、この子の奴隷になった経緯を簡単に纏めると、お父さんの酒代=この子。です。いやー、素敵な親ですねぇ」
司会の言葉に、会場のあちこちから笑いが漏れる。
僕もつい笑ってしまった。本当にお父さんらしい。母さんも父さんも働いてないのに、僕を売り払ってどうやって生活する気なんだろう。
まあ、今はこれからの事を考えよう。過去を振り返るのは失敗した時と死ぬときだけでいいってお婆ちゃん言ってたもんね。
「さて、それでは参りましょう!スタートは1500サクルからです!」
さて、突然だがお金の価値についておさらいしよう。
僕らが使うお金はアグリム貨といって、一応共通貨幣になっている。一応、と言うのは別に難しい話じゃなくって、僕がいたような村ではあまり普及していないって言うだけだ。物々交換がいまだに主流な村もあるらしい。
話を戻すけど、このアグリム貨。一番小さい単位が1リーネ(1L)で、1000L貯まると1サクル(1S)となる。基本的に外でご飯を一回食べるのに500Lかかる。50000Lもあれば、そこそこ豪華な宿にも泊まれるだろう。
さて、お金のおさらいまでして僕が何を言いたいかというと…
「さ…300万っ!300万サクルで落札です!!」
僕はたった今、300万サクルの借金を負いました。
って、色々おかしいでしょ、これ!
僕を買ったひとは何を思ってとくに取り柄もない僕に300万サクルも使ったのか…
頭おかしいひとも居たもんだなぁ。とか思いながら筋肉ムキムキのマッチョメンに連れられて別室へ。ここで僕を買ったひとを待つ。声的には男のひとの声だったけどあまり怖くない人だといいな。
暫く待っていると突然扉が開かれた。顔を上げると、僕をここまで連れてきたムキムキのマッチョメンが、男のひとを連れてきた。どうやらこの人が僕を買った人らしい。
僕を買ったのは、ローブを羽織った30過ぎくらいの細身の男性だった。僕を見る目が獲物を狙う肉食獣のように鋭く輝いていているが、雰囲気はどこか柔らかく不思議と心が落ち着いた。
僕を見ていた男のひとは一つ頷くとマッチョメンになにか書かれた紙切れを渡す。マッチョメンはその紙を一瞥すると確かにと頭を下げて部屋から出ていった。おそらく、あれが此処での料金の払方なのだろう。これで、僕は名実ともにこの人の所有物となったわけだ。
男のひとは、俺に向き直ると頭をかきながら声をあげた。
「あー、俺がお前を買ったツェンブルだ。一応人族。細かいことは帰ってから言うが…取り敢えず宜しく」
めんどくさそうにそういうと、今度は口を閉じて僕を見る。僕はその言葉に反応して頷く。そして無言。
男のひと…ツェンブルさんと僕の間で、奇妙なにらめっこが始まった。沈黙の意味をわからずに首をかしげるとツェンブルさんはまた頭を掻いた。
「おいおい少年。こっちが自己紹介したんだから今度はお前さん、だろう。わかんなかったら名前と特技…あとそうだな。好きな言葉を言え。あー、これ、命令な」
なるほど、確かにツェンブルは僕の事を知らない。何で気づかなかったんだろ?
ちょっと自分の頭の弱さを恨みつつ、自己紹介をすることにした。
「アユム。好きな言葉は『言葉は使いすぎれば軽くなる。必要以上には喋らないことだ。』で、特技は…」
特技、特技…あ、
「値切り」
一呼吸おいて、ツェンブルさんは吹き出した。
1l=1円
1s=1,000円
100s100,000円
10,000s=10,000,000円
1,000,000s=1,000,000,000円
3,000,000s=3,000,000,000円(三十億)
計算会ってるか自信ない。あくまで多分。