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8話「力の使い方」




 定晴が持つ、世界で1つだけの魔法。


 この世界における大きなアドバンテージ。それを具現化するのはイメージと【言葉】が必要だ。例えば、【縛】。これは夢の中で子供が見せたものと同じ拘束力を持つ魔法。


 輪を形成して縛り上げれば並大抵の人間はそれを解くことはできない。過度な負荷をかけるか、対象者から遠く離れれば解かれる仕組みとなっているのは、サクスを拘束した際に理解した。


「氣をぶち込んで無理やり外してやったわ。まぁ一般兵士ならまだしもあの程度なら騎士には通用しないと考えるべきよ」


 との事である。


 そして次に魔法陣の盾である。エルベールを守った白銀の盾。これを【防護】と名づけた。イメージが具現化するのが魔法であるために、名前を決めておけば便利になる。名は体を表すと呼ばれるように、名前を呼べばイメージが直結するような訓練を積み、戦闘中に即座に展開できるようにシなければならない。


 この2つの魔法が現在、定晴が使える魔法である。


 これ以外にもイメージが具現化されるのであれば多種多様に魔法を使い分けれる筈だ。


「想像が具現化される力だって?じゃあ、例えば相手が死ぬような想像を行えばそれの通りになるのかい?」


 シキの疑問も定晴は真っ先に浮かんだ。当たり前だろう。想像を創造する力であるならば、この戦争は慧国の勝ちのようなモノである。


 だがしかし、その疑問には首を振ることで答えは出ている。


「想像が具現化される、っていうのは間違っていません。しかし、想像するのは結果ではなく、形なんです」


 つまり、粘土のようなものだと定晴は考察した。


 魔力の粘土をイメージによって形作る。それが盾となれば盾となり、輪となれば輪となる。


「まだ、正確に把握する技量がないので難しいですけど。今朝試してみてこんな形にはできました」


 そうして見せるのは1つのボールだ。白く輝く魔力の塊。それを訓練所に設置された人形相手に放り込む。


 左足を踏み込んで、畳んだ肘が斜め右方向から真っ直ぐに伸びた。指から放たれた白いボールが回転しながら人形に当たる。藁を集めて作られた人型の人形が音を崩れて倒れる。


「……なるほど、燐に似たような技ね」


 エルベールが言う通り、この魔法は燐に近い。


 燐とはそもそも自然エネルギーを操る技だ。火を手足のように動かし、固めたり、放出させたりするのが基本的となる。


 高度な技となればその力を氣で固めて質量を増やすことが可能となるが、魔法とはそもそも自然エネルギーから独立したもので、分かりやすくいえば氣そのものを様々な形に変えることができるということだ。


「色々な使い道がありそうだね」


「そうですね、正直に言って便利だと思います。これが氣の男版と考えるなら身体能力向上の付加もできそうですし」


 ただ、勿論ながらこれらの技を何のデメリットなしに発生させることができない。氣とは違い、内に秘める魔力に限りがあるということだ。


 氣は体内で作られ、循環する言わば血のようなものであり主に内からその力が発生されるので氣が減少することはない。


 魔法も同じく体内で循環する。違う点として、魔法は循環する力そのものを外に放り出すものだ。血を外に出すと考えればわかりやすいだろう。外に出し続けるのにも限界があるということだ。


 さらに言えば、発生する際に手を使わなければいけない。


 片手、両手。どちらとも良いが手が塞がった状態では魔法は発生できない。これは無意識的に行っていたことであるが、自分が魔法を使う際に対象に向けて手をかざしていることに気が付き、では、手を塞いでいる状態ではどうなのか、試した際に発覚した。


 わかっているのは以上の事であるが、まだこの魔法には無数の可能性と制限もしくは条件があるだろう。この魔法を熟知し、使いこなせば大きな力になってくれるのは確かであるが、これだけでわかりきった顔をしていざ戦場に出てみれば魔法によって足元を掬われるのは明白だった。


(むしろ、偶然だったと考えるべきだよな)


 あの戦闘で魔法を使ったのは何処か意識の深い所だった。“なんとなく”と言っても過言ではない。あれで正常に魔法を機能させて敵を倒せたのは本当に偶然だったと考えるべきか、それとも。


 ともあれ、これからの方針は決まった。

  

 この世界の非常識とも言える魔法。この力を使わない手はない。シキの命によってこれが優先され、アレンとの訓練も魔法訓練を兼ねた実戦形式で行うことが決定する。


 エルベールによる軍師指導は暫くお預けだ。









 





「【縛せよ!】」


 声を上げて、イメージが頭を過る。手をかざして魔力が送り込まれる。


「う、うわぁ!?」


 対象に白い魔法陣が囲まれてその身を封じた。足元を払って地に倒すと、すぐさま振り返る。空気を裂いて剣が定晴を襲うのをしっかりと肌で感じとったのだ。

 

【防護】


 剣が阻まれ、弾かれる。力に反発し、押し込まれる程のちからがないためだ。上体がすっかりと浮かび上がり、その無防備の腹に拳を打ち込んだ。


「ぐっ――」


 “くの字”に折り曲がった兵士が吹き飛んだ。人の拳によって人が吹き飛ぶ。そんなあり得ない現象が自分の手によって起こされている。


「……」


 単純に、ただ凄いと思った。自分の拳を開いてみる。革の手袋によって保護された拳に確かな力の流れを感じる。


 魔法により身体能力は氣による向上力とさほど変わらないものを見せた。それだけではない。人を殴っても痛くない。まるで鉄のように拳が硬く感じる。


(俺には、力がある)


 自然と笑みが浮かび上がった。


 日本に居た時に比べて、考えられないような力。この世界に来たこと事態が考えられない出来事だが、鼓動が早く感じた。


 漫画やアニメしかないような力の再現を自分の手で行える。人が飛び、魔法を使う。それが現実に起こる。


「さぁ、どんどん掛かって来いや!」


 叫び、熱くなる体を開いて構えた。拳による無手の戦闘。剣を持たずして剣を持つ相手に優位に立てる。リーチの差を魔法で埋めて、氣による身体能力の差を魔法で埋める。剣の才がない、とアレンに言われしかしながら、剣を持って戦っていたのは圧倒的なデメリットがあったから。


 拳を鍛えた彼にとって、馴染みがある無手は今では魔法という力によってデメリットは完全に打ち壊された。むしろ、魔法を使うには何かを持った状態では使えないことが判明した今では、剣を持つことがデメリットとなる。


 だからこそ、試した無手。これが思うようにしっくり来るのだから笑いが止まらない。


 俺は、強い。

 

 そう確信する程に。


「男が調子に乗るな!」


 女の兵士が潰れた剣を振るう。アレンを相手にしているからこそわかる、その剣の遅さ。


(止まって見えるぜ、とはまさにこの事!)

 

 魔法は限りがある。使える回数も決まっているから故にいつも【防護】による魔法陣を形成させるのは避けたい。


 だからこそ、避けられるか否かは瞬時に判断しなければならない。その見極めはアレンとの訓練によって培われている。元々は避けることは定晴の得意分野。いつも問題はその後だった。


 避ける続け、逃げ続けるのはもうナシだ。


 剣を避け、間合いを地面を蹴ることによって詰める。


 たった、1つ。踵を半歩前に動くような意識で動くだけで、剣の間合いを動体視力を上回るような早さが生まれた。魔法による身体能力の補助が彼に力をつける。


 後は、いつもの通り、長年鍛えた基本通りの正拳突きを相手の顎を擦るように与えれば簡単に崩れ落ちる。決定的に打ち込めば、顎を破壊してしまう恐れさえも配慮できる余裕すら、今の定晴にはあった。


「おっと」


 気を失って受け身も取らずに地面に倒れれば打ち身による怪我をしてしまう。それを避けるために彼女を抱えてあげた。そして、おろして上げる。


「さぁ、次はどいつかな?」


 魔法という力を手に入れた定晴に対して、もはや一般兵士は相手にすらならなかった。どよめきが起こって、自然と誰もが半歩下がった。

 

(あれ?今の俺ってめっちゃ最強なんじゃね?)


 本物の戦闘を行い、経験を積んできた兵士にさえ簡単に勝ててしまう。それほどまでに魔法という力は強大であった。


 今は、何処か気分が良い。


 相手に対して優位に立てるということに、これほどまでの優越感を味わえるとは思わなかった。


「あれ?もう終わり?」


 狼狽し、半歩後ろに下がった兵士たちはその言葉に顔を歪めた。


「もう少し付き合ってほしかったんだけどなー」


 魔法という力は、本当にずるいと思う。


 ここ数日間は力の使い方に戸惑いを感じたが、一度コツさえ掴んでしまえば、簡単に行える。戦闘における、使用のタイミングや、イメージがそぐわない不発は幾つか見られたものの、アレンによる訓練が効いているのか今では戦闘における魔法も違和感がなく使える。


 でも、まだ足りない。


 イメージが形成に結びつくのなら、色々試せる事もある。ただ、形成される結果がイメージと結びつかない、または魔法の力に限界があるのは使えない。


 例えば、瞬間移動。


 背後の敵に消えるように移動する技は使えなかった。


 それについて考えれたのは、恐らく使用される魔力の量が足りないのでは?というもの。光線を吐き出す技を使おうと思って、使用してみれば木を焦がす程度の熱量しかなかったり、不発に終わったり。


 イメージするものが必ずしも出来上がるわけではない。

 

 魔力の量か、それとも単純に魔力を操る技量が少ないのかはわからない。でも、派手な攻撃技を行うことは今の定晴には無理である。


 だが、これでも十分に強い。


 武器を弾く盾。拘束する輪。そして氣を上回る身体能力。今なら、騎士にさえ引けを劣らないのではないか?


「サダハル」


 定晴は、少し調子に乗りすぎたのかもしれない。


 力を持ったものが、自分の力を過信することはよくあること。ましてや定晴は日本で生まれ、戦を知らない。だからこそ自分が持った力が強大であることに優越感に浸ってしまった。


「お?アレンか、丁度よかった。今から――」


 そして、騎士がどういう存在か。サダハルは分からなかった。


 彼女らを甘く見てしまった。


 それに気がつくのが戦場ではかったことに、感謝しなければならないと定晴は振り返って思う。


「サダハル、構えろ。相手してやる」


 ここ数日会うことはあっても、彼女との訓練は行わなかった。何処か忙しいのではないかと思っていたけれども、久しぶりに訓練所に訪れて会う彼女は、まるで全てが違っている。


 言葉は少なめに、だが一言が重い。


 いつものと違う。銀色の鎧に包まれ、桃色の髪を束ねる彼女は変わらない。だが、一歩進むだけで竦み上がるような気迫があった。さらに、注目すべきはその手に持つ槍。長い棒の先端に十字の刃。勿論刃は潰しているだろうが、その武器にさえ確かな“死”を感じた。


 聞いたことはある。彼女は定晴に相手をする時も、兵士に訓練するときもいつも剣を握っていた。だが、彼女の本当の獲物は槍であるということ。戦場に繰り出し、一騎当千の力を奮う彼女が騎神とも言われていることを。


「ア、アレン様が槍を……!」


 何処からか、どよめきが漏れた。


 しかし、ざわつきさえ彼女がその手に持つやりを一振り払うだけで収まる。風が舞い、その風が彼女を包む。


 “燐”だ。


 ごくりと、喉を鳴らす。息が、苦しい。


 支配する緊張感は喉を締め付けた。


「もう一度言う、構えろ」


 殺気が駆けた。振動される空気が肌を襲い、ビリビリと震えるのを確かに感じ取る。


 アレンは、本気だ。


 それは素人さえわかる。簡単な事だった。


 戦いが、始まる――。

遅れてすいません!なんでもしますから!


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