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11話「戦いの血」

書きなおしたので、一度削除最後の部分だけ追加


 戦いに置いて、目は重要である。1つの瞬きが勝敗を分かつことになる。だから、相手の攻撃に目をそらすこともせず、相手の動作を見据える。


 そして、その動作を読むこともまた必要になる。見てからでは遥かに遅い。こうした動作が来るだろうという予測が必要になるのだ。


 見てから余裕でした、と動けるのは天武の才能と反射神経をもった者だけが許さる特権。幸いにして、人並み以上の反射神経と動体視力を定晴は持ちあわせていた。そこに、アレンとの訓練による“慣れ”が加われば後はもう体を動かすだけ。


 懐から突き上げるような攻撃を定晴は裏拳で弾き飛ばす。


 人間離れのような早さでさえ、アレンと比べれば、と思えてしまう。同じ騎士でもこんなに違う。あの時に受けた攻撃の数々はこんなものではない。


 無手によるメリットを十分に活かし、自分の間合いを見極める。一瞬の中で自分を見つめて、一歩前へ。


 魔力を滾らせ払うような一撃。


 アレンの燐を意識したイメージは“風”。思う通りに人の体を宙へと浮かせた。そこでは安心せずに残心を残して半歩円を描いて構えた。


「そこまで!」


 そこで、試合を終わらせる声が届いた。


「ありがとうございました」


 深く一礼。驚きの声が何処から漏れた。











「イオレクと言う。さすが、慧王様とアレン殿たちが目にかける武人だ。恐れいった」

「いえ、自分などまだまだです。アレン殿やエルベール殿のような立派な騎士になるために日々奮闘中で」

「確かに、力を限定された戦いの中だったけれど、それが貴方の評価を落とすものではないわ。むしろ、男であるのにも関わらず素晴らしい戦いであったわ。あ、私はセーニムよ、よろしく」

「私は、キシムです。貴方には世話になりそうだ」

 

 差し出された手に答えて、定晴は笑みを浮かべた。この国の四方を囲むようにして建つ砦の指揮を任されている3名の騎士。蛇国との戦争に備えての緊急収集で集まった騎士達は、定晴に対して、あまり良いイメージをしなかった。


 男でもあるにも関わらず騎士見習い。他の役職ならいざしらず、王を支え、国を支える聖職に男が入るのは不愉快だと思う人もいる。


 だからこそ、3名の騎士は定晴に試合を申し出た。手合わせの中で騎士として王を守れる力があるのか見極めようとしたのだ。


 力で見極める事が一番に分かりやすく簡単だ。勿論、力だけでは騎士という役職は務まらないが、戦時中のこの世の中で力というのは酷くわかりやすい。


 3人の中でイオレクという長身の女性が戦いに名乗り出た。


 威圧するような挨拶からの申し込みだったので、定晴としても一瞬良い気はしなかった。だが、自身が他からどういう目で見られているのかは理解しているつもりだったので、笑顔でそれに受けて答え今に至る。


 手加減はしている、といっていたが騎士は騎士。普通の兵士であれば瞬殺されるような一撃が続いた。しかし、それを簡単に躱すので、イオレクは途中から本気になり始めた。それでも、定晴にとってはどうにも“遅く”感じる。アレンとの戦いの中であの早さが“普通”だと感じてきた自分がある意味恐ろしい。


 1年前だったら考えられない事だ。


「良い師に恵まれました」

「アレン殿程の騎士から手ほどきを受けているのなら、納得もいく。いや、だがまぁサダハル殿の力量も中々のものであった。負けたこちらが清々しくなるほどの腕前だ」

「アレンも可愛い弟子を拾ったじゃない」

「うむ。自慢の弟子だ!」


 誇らしそうな顔を浮かべるアレンに定晴は笑みを浮かべた。先日の顔とは違った晴々しい。どうやら上手く吹っ切れたようだ。


「ふん!言ったでしょ!サダハルはできる男だって!この私が認めるほどだもの」

「サクス殿は最初大いに反対された筈ですが」

「なんですって!?」

「なんでしょうか」


 サクスが便乗するような形でドヤ顔をすると横から呆れたような冷たい目でエルベールが横槍を入れると、途端に喧嘩が始まった。


 エルベールとサクスはあまり仲が良くないと聞くが、どうも定晴からしてみれば子供の喧嘩のようにしか感じられない。むしろ、普段エルベールの授業を受けている定晴はエルベールのこうした態度が珍しく感じる程だ。


「ボクの将来の騎士だ。これ以上強くなってもらわなきゃ困るよ?頑張ってね、サダハル」


 シキがいたずらっぽく声を上げて笑顔を浮かべた。


「おう。王様からこうして直接言われるなんて幸せものだね、サダハルくん」

「慧王様の“目”は本物だからね、こりゃ本当に史上初の男騎士の誕生ですかね」

「他の国からなんて言われるかな」


自分が褒められることにあまり慣れていないせいか、どうにも歯がゆい。でも、こうした雰囲気は嫌いではなかった。


 









「騎士たちだけでの決起集会?」

「えぇ、一応見習いって形であるけれども、他の見習い候補生たちも来る予定だわ。貴方もどう?」


 日が沈む浅い夜。エルベールが珍しくこの時間帯に部屋に来てのお誘いであった。


「あー……。折角のお誘いだけど、遠慮しておくよ」

「そう?来たばかりの騎士たちの交流を深めるには十分だと思うけれど」

「俺、他の見習い達から良く思われていないから」


 折角のお誘いであったが、苦笑いと共に断った。


 定晴の他に騎士見習いというのは複数人存在する。勿論のこと、それぞれが将来騎士になるために切磋琢磨していて、それを育てる機関というのも存在し、それから出てくる者も多い。定晴のように才能を見出され、いきなり騎士見習いとしてやってくる者も少なくないが定晴は男である。実力があって騎士たちは勿論、王にも認められているが、やはり男であることに嫌悪を抱く者も多いのは確かであった。


 その人達も来るとなると素直に決起集会を楽しめないというのもあるが、今回は断った理由はそれだけが原因ではない。


「他人の目なんて気にする必要はないと思うけれど?貴方の事を認めているのは私達を含めてた騎士や王たちよ?それとも、それを気にする程貴方の器は小さいのかしら」

「いや、まぁそれだけが理由じゃなくて……この時間はいつも魔法の修行をしているから」

「……とんだ、修行馬鹿ね。アレンに似てきたわ」

「ははは、俺はアレン程力がないからね、騎士になるためにはなるべく時間を無駄にはできないんだ」

「そう、まぁ無理とは言わないわ。時間があれば是非いらっしゃい。たまには気を休ませないと、壊れるわよ」


 実にあっけからんとした態度であるが、いつものエルベールである。手を振り部屋を出ていくエルベールを見送って定晴は革袋を手にとった。


「さて、頑張りますか」


 修行の時間である。


 確かに、他の騎士との交流は大切である。仲が悪ければ戦闘中でさえ仲違いがあれば生命に関わる。


 しかしながら、魔法というメリットを持っている定晴だからこそ、時間を無駄に出来ない事があった。


 魔法の制御と訓練である。


 これを一流にすれば、他の騎士達と一線置くような強さを見せるだろうと、確信できる。氣にはない特性があり、氣にはない強さを見せる魔法は戦場で生き残るだけではない。王を勝利へと導く大切なものだ。

 

 一秒でも前へ、進む道のりは長く険しいが、最近では明確な道が見えてきた。


 アレンのように強く、エルベールのように賢く。シキを王として、この世界の戦争を終わらせる。


 そのために、一歩小さくとも前へ進む必要がある。いつまでも立ち止まっていては100年掛かっても進みはしない。


 1日は長く短いのだから。


 





 気がつけば月が空に上ってきた。不気味に欠けた月が空を支配しているのを見て、ふと時間がだいぶ過ぎている事に気がつく。


 魔力を制御する修行を様々考えて、時には座禅を。時には実戦のように動いてイメージする事に集中すれば、時間が経つということを忘れてしまう。気がつけば深夜まで続くので少しは自制しなければ。


 汗ばんだ、体を冷ますようにして、中庭で腰をおろした。


 風が心地よく、冷たい。持ってきた時計は永遠と回り続けるモノとなってしまって今の時間はわからない。配置された時計は大きいので持ち運びは不可能だ。


「こんな所で、この時間まで修行か?」


 声に振り返ってみればアレンが居た。ラフな服装でいつものポニーテール。桃色の髪が月夜に照らされて何処か神秘的に見えた。


「あれ?騎士たちで宴会をやってるって聞いたけど」

「宴会ではない、決起集会だ」

「似たようなものでしょ?」


 たしかにな、と笑顔を浮かべて彼女も隣に腰をおろした。


「なんだか、気分が乗らなくてな、抜けだしてきた」

「何かあったの?」

「いや、お前がいなかったから」

「えっ?」


 急に落ち着いた声でそんなことをいうのだから、少し驚いた。アレンは慌てた様子をとって少し顔を赤らめる。


「ち、ちがうぞ!?そういう意味ではなくてだな……き、騎士たちの見習い達も集まった決起集会なのに、お前がいないから、どうしたのかと思ってな!」

「エルベールに誘われたけど……断ったんだ。見習い達から良い顔をされていない、というのもあるけどあまり時間を無駄に出来なくてね」


 定晴はニヤっと笑い、掌サイズの光る球を魔法によって生み出し、アレンに見せた。


「魔法、か」

「この世界で勝ち抜くためには、絶対に必要になってくる。戦いは近い。ゆっくり時間をかけている暇なんてないからな」

「うむ。修行はいいことだ」


 会話が途切れて、沈黙が流れる。吹き抜ける風に身を預けて2人は揃って風の中で体を休ませていた。


 アレンは体に入った酒を流すように、定晴は修行の中で火照った体を冷ますように。


 無駄のようで、無駄ではない時間が流れた。もう修行は終えて後は寝るだけであるから、こうした時間を味わうのは許される。


「おや、成熟した男女が夜中に二人っきりとは疑っちゃうな」


 そうして、暫くとゆったりとした時間を味わっていると上から声を掛けられた。

 

「シ、シキ様!?」

 

 アレンの驚きの声に振り返ると、コップを3つに一升瓶をもった王様がそこに居た。


「窓下に君たちの姿が見えてね」

「決起集会でハブられたから俺たちと飲もう、と」

「あははは、君、面白いこと言うね?」


 頭に一升瓶を乗せられた。この人もう酔ってるんじゃないのか?


「お、お前シキ様になんて態度を……!」

「あぁ、いいよ、別に。夜じゃこんな風だから」

「!?……!?」

 

 何処か意味深な笑みを浮かべて彼女も隣に腰をおろした。


「お前な、誤解させるような事いうなよ」

「おや、誤解させるような言葉だったかい?」


 小悪魔のようで、口が減らない女だと、定晴はコップを受け取りため息を吐いた。アレンといえば、状況が理解できずに、顔を真赤にして口をパクパクさせている。


「夜……?2人……?」

「ほら、混乱してる」

「アレンは初心だね。可愛いねぇ」


 いつまでも持て余すのも可哀想であるので、軽く状況を説明して上げた。


「だ、だからと言って王に対して口にするような――」

「良いんだって、アレン。ボクが彼に命令したことだ。王もね、力をもっても心は人間なんだよ?」


 そういって、コップに酒をつぎ込む。それをアレンに手渡した。


「友に愚痴をこぼす事くらい、許されても良い筈だよ」

「つーわけで、今夜からアレンも友達だ」

「それは素晴らしい考えだ。友達が増える」

「わ、私が!?」


 そうは言われても、アレンは根からの騎士である。あの日シキに拾われるような形で騎士となった日からシキはアレンにとって憧れの存在でもありし、忠義に尽くす人物である。こうして肩を並べて酒を飲むこと事態がもう、アレンにとって素晴らしいことであるのに、その上砕けた口調で話す友達になるなど考えたこともない。


 狼狽えるアレンに定晴はコップを頬に押し付けた。


「ひゃ!?」

「硬いんだよ、頭が。シキがそれを望んでるんだ、それに答えてやるっていうのが騎士だろ?」

「しかし……」

「王様、如何いたしましょう。聞き分けのない騎士がございます」

「ふむ……では、アレンよ!」

「は、はい!?」

「これは我の命令である。ボクと友達になるがよい!」


 唖然である。


 やはり、何処か王は酔っているのではないだろうか?そう考える程に今の状況があまり理解できない。自分は騎士である。王のために仕えて、王のために死ねる。それが当たり前だと思っている。


 そんな自分が王の友達だと?


 混乱するアレンにシキは肩に手を置いて柔らかい笑みを浮かべた。


「無理には、言わないよ。ただこうして、夜だけでいいんだ。ボクの愚痴を――1人の人間として、友として聞いて付き合って欲しいんだ。……ボクもまた、君たちと同じ人間だから、さ」


 どうか、憂えるようにしたシキにアレンは少し戸惑い、だがやがてコップの中の酒を見つめてそれを飲み干すとしっかりと決心のついた目でシキを見た。


「分かりました、王の命令とあらば」

「ふふふ、さすがアレンだ!」

「わ、わっ!?シキ様!?」


 大袈裟に抱きつくシキを見て、こいつは完全に酔っているな、と確信してしまう定晴であった。


 暫く、騒ぐ女2人はやがて落ち着き静寂の中、ただ酒を飲むだけとなった。


 だが、こんな雰囲気も悪くはない。


 酒を飲んで月を見上げる。


 思えば、自分は異世界に来てもう半年以上も経つ。


 最初は、シキ以外――いや、もしかしたらシキにすら認められていなかった。男であり、異世界から来た定晴が受け入れられなくて当然だったと思う。そこから、孤独の戦いだった。


 知らない世界にただ一人。連乱の世で周りは知らない女ばかり。


 どうしてよいか分からずに、一人夜に枕元を濡らした日もあった。


 でも、生き抜くためには力を付けなくてはいけなくて、偶々かもしれなけれどもその力が自分にあって。


 こうして、努力を重ねてまるで漫画やアニメのような世界の中で対応できている。目にも止まらぬ早さの攻撃さえも躱せる程に成長し、騎士たちに、王に認められている。


 この場所が今の自分の居場所だと確信できる程にこの世界が暖かく、心地が良い。


 彼女たちと話して笑顔が咲く。冗談を言い合い、たまには喧嘩もする。


 こんな幸せな事がいつまでも続くと思っていた。


 この世界が、戦による憎悪と血に満ちあふれているものだと、皮肉にも、常に死が隣合わせであることを実感したのはいつまでもこの人達と一緒に居たいと思えたこの日だった。


 耳を裂く音が、鳴り響き、城全体が揺れた。


 信じられない出来事が目の前で起こった。慧国の中心。本城で起こっては決していけない事。


 城の一部が破損し、悲鳴が多く上がる。


 緊張というよりは恐怖が、まさか、という思いが上がった。


 爆発したのは2階の奥。


 決起集会で騎士たちが集まる場所であった。


 ありえない。


 それは定晴でもわかる、最も予測不可能な出来事。


 いや、ある意味想定されている出来事かもしれない。だがしかし、決して起こってはいけない出来事である。


 胸の鼓動が早く、一向に収まる気配はない。


 殆ど走る形で爆発された2階へと急ぐ。


 決起集会が行われた2階の奥の大部屋。そこには国の騎士たちがいて、見習い達がいて。


 エルベールが居て。


「そんな、嘘だろ……!?」


 何処か定晴は勘違いしていた。いつまでも、皆が笑顔で、あんな下らない時間が。あんな緩やかで幸せな時間が過ごせたら。


「エル、ベール……?」


 部屋に、もやは人間の形をした者は誰一人として存在していなかった。








 この日、アレンを除く騎士6名。騎士見習い15名の死亡が確認された。













「蛇王様。慧国の騎士たちの死亡が確認されました。1名生き残りもいるようですが、騎士見習いも死亡したようで。想定以上かと」

「……誰が生き残った?」

「騎神アレンのようです」

「ふむ……まぁ良い。むしろよくやったと褒めるべきじゃのう」


 そう言うと、一人の女が立ち上がった。


 大きく、立派に装飾された王座から立ち上がり、自分に頭を垂れる者を見渡した。


「時はきた!皆の者!戦じゃ!慧王を討て!」


 怒号が響き渡る。


 





 この日から、血を血で洗う戦が始まった。








GWは更新し続けるぞ!


短くとも更新します。



※一度削除して最後の部分だけ追加

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