6.英館学園編
私立英館学園は市内から車で1時間ぐらい離れた場所にある。毎年7月になると地域との交流をはかるために、小学部と大学部以外の中等部と高等部が中心になって学校を開放した文化祭が年に一度行われる。文化祭を見物に来る人たちは地元の人達を始め、学校に通っている子供達の保護者や英館の生徒を目当てに来る女子学生達等様々である。正門は威厳のある立派な門で、敷地内には小川が流れており、それに沿って樹木も並んでいる。小川を中心に挟んで左側に大学生、右側に小学生から高校生の建物に分けられている。建物の外観は中性ヨーロッパ風の古城を思わせ、始めて見る人は学校を感じさせない華やかな外観に思わず見とれてしまう程である。
文化祭当日。英館の敷地内には人々の群れで慌ただしかった。校舎の外では英館の生徒達がテントを張ってたこ焼きや焼きそばの屋台を出したり、体育館では文化系の部活が中心となって劇やバンドを披露していた。また校庭には大きなステージ用意してゲームやクイズ大会があったり、大学から教授を招いて講演を行っていた。その一方校舎の中では、お化け屋敷や手作りのプラネタリウムがあったり、各教室に自分達のテーマに沿って研究したのを披露する等様々な催し物をしていた。そんな中で屋台とは別に英館にある食堂の調理場で作った料理を、生徒達がウエイトレスになって外部からきているお客さん達をもてなしていた。食堂はとても忙しく、ウエイトレスの生徒達が走り回っていた。
「うどん3杯注文入りました。」
お客の注文を受け取った生徒の一人が、ウエイトレスのリーダーと思われる生徒に向かって言った。
「分かった。またお客さまが入ってきたから席を案内してくれ。さっきの注文は俺が調理場にいるおばちゃん達に伝えに行くから頼むな。」
「OK」
そう言うとすぐにその生徒はお客のところへ駆け寄った。ウエイトレスのリーダーは急いで調理場に向かおうとすると別の生徒が目に止まった。
「おい清田。お前食堂の売り込みの係のくせになんでこんな所にいるんだ。きちんとチラシ配ってきたのか。」
清田と呼ばれた男子生徒は声の主に少し間を置いてから振り向き、
「やだな高郷。チラシを配ったお客さんが食堂の場所が分からないって言うから今まで案内していたところだったんだよ。」
と笑顔で言った。
「何だそうだったのか。お前のお陰でお客が多く来てくれるもんな。特に女の客がな。顔が良い奴はいいよなあ。」
と高郷は羨ましそうに言った。
「ああそう言えば、さっき誘った女の子達の中に一人デブな娘がいて、そいつが豚に見えて、ふと丸焼きにされている豚を想像してしまったよ。笑いをこらえるのに必死だったんだぜ。」
と清田は思い出すと笑いながら言った。
「あいつの先祖は絶対豚だって。でもなんでせっかくの文化祭に豚みたいな奴が来るんだよ。せっかくの雰囲気が台無しだよ。」
さらに付け加えて言った。
「おいそこまでだ。また後で話を聞くからそろそろチラシ配りをよろしくな。今は休憩時間がないくらい忙しいんだ。」
高郷は話を途中で区切ると清田を外に出るように促した。
「ああ分かったよ。チラシ配るのも楽じゃないよなあ。」
そう言うと渋々外に出た。清田賢治は英館の中学2年生。さっきまでクーラーのある食堂でブラブラと高郷に見つからないようにさぼっていた。少し気を抜いた瞬間に見つかってしまいお客を案内していたとごまかしたのだ。
「畜生。見つかるなんてついてないや。文化祭なんて面倒臭いだけなのによ。」
清田は呟いているとちょうど食堂の前を数人の女の子達が通って行くのが見えた。ふと何げに目をやると清田は立ち止まり顔色が変わった。
「あの女。どこかで見かけた事のある顔だと思ったら渡瀬真由美じゃねえか。あいつのせいで俺は恥をかかせられたんだ。面白い事を思いついたぜ。この機会にあの時の恨みをはらしてやる。」
と清田賢治は不気味な笑みを浮かべた。