5.問題児四人組
1限目の教科は数学。真由美は問題を見たとたんにやる気が薄せた。他のクラスメイト達は必死になって問題を解いていた。教室には鉛筆の音しか聞こえなかった。この時間真由美は問題に集中しないで何しようかとそればかり考えていた。
「はあ、やっと終わったよ。テストの時間って暇でしょうがないよな。だからほとんど寝てたよ。」
その日の帰り真由美は怠そうに歩いた。真由美は仲の良い市橋ケイコ、天野セイカ、山崎花香の3人も帰る方角が同じなので、いつも一緒に帰っている。
「私は最悪だった。問題を見ていたら急に眠気が襲って来て気付いたら寝ていたのよ。そしたらちょうど終わりのチャイムが鳴ったのよ。信じられない。せっかく徹夜して勉強してきたのに。」
とセイカは泣きそうになっていた。
「済んでしまったことを後悔してもしょうがないわよ。ところでさあ。明後日の最終日は授業がなくて早く帰れるでしょう。ちょっと知り合いにもらったんだけどここに遊びにいかない。」
と花香が鞄の中から一枚のちらしを取り出して見せた。
「これって英館の文化祭のお知らせじゃん。」
真由美はちらしを手に取りまじまじと見つめた。英館は全国で有名な私立学校のひとつで小学校から大学まであるエスカレータ式の男子校である。
「悪いけど私は遠慮させてもらうわ。明後日は塾もあるし、英館はかなり遠い場所にあるしね。それにあなた達と違ってお肌のために紫外線に気をつけている私には、外を歩き回るなんて出来ないわよ。」
ケイコがそう言うと、
「文化祭って外だけじゃなくて学校の中でも催しをしてるよな。それに塾の時間に間に合うように行けばいいしさあ。みんなで一緒に行こぜ。」
真由美は3人を見回した。するとケイコが、
「真由美。あんたが今朝私にしたことを謝ったら行ってあげてもいいわよ。」
「今朝?何の事だよ。」
真由美が聞き返すと、
「とぼけちゃって。だったら思い出させてあげるわ。」
ケイコは両手で真由美の頬をつねった。
「痛っ。このやろう」
真由美も負けじとやり返した。
「おまへ何する。」
「あ、あんたが悪いんでしょう。」
セイカは漂ならぬ様子を見かねて、
「ねえ、あの二人止めた方がいいよね。」
と花香に言うと、
「別にいいんじゃない。気の済むまでやらせたら。」
まるで自分には関係がないという感じで2人を見ていた。その横でセイカはオロオロしながら心配で止めに入ろうとしたが、逆に邪魔者扱いされ自分が頬をつねられてしまった。
「痛いよ。何で私の頬をつねるの。」
セイカが叫ぶとようやく2人ともお互い離れた。
「仕方ないわね。私がいないとこのメンバーじゃあ華がないもんね。」
とケイコが嫌みっぽく言ったので、
「あのなあ。お前余計な一言多いぞ。」
真由美はカチンと頭に来てケイコの髪をクシャクシャにした。
「ちょっと真由美。私の髪に触らないでよ。セットが乱れるじゃない。」
ケイコがいつも自慢にしている髪がボサボサになった。セイカも続けて、
「さっきのお返し。」
といいながら真由美とクシャクシャに触るので、
「もういい加減二人とも離れてよ。花香も見てないで止めてよ。」
とケイコは2人の手を必死に振り払いながら花香に助けを呼び求めた。
「私には関係ない事だし先に帰るから。」
花香はその言葉を無視して一足先にさっさと行ってしまった。その場にはケイコの嫌がる叫び声だけが聞こえた。