12.私立英館学園編
「あちゃ。やってしまった。」
セイカは思わず手で顔を塞いだ。清田は唇を切ったせいで血が出ていた。
「痛ッて畜生。1度ならずも2度までもあのクソ女。俺をこけにしやがって。」
清田は手で血を拭きながら立ち上がった。
「おいお前。よくもだましやがったな。何が食堂を無料にしてあげるだ。まさか注文もお前の仕業か?なんて汚い奴。」
真由美と清田の周りには何事かとお客達が食事に手を止めて集まってきていた。
「早くあの二人を止めさせるんだ。」
高郷は急いで人だかりの中に入った。花香達も高郷の後に続いた。ケイコは清田を見るなり、
「きゃあああああ。真由美あなた私の運命の人になんて事してくれたの?大丈夫ですか?」
と心配して駆け寄ったが、清田はケイコの手を思いっきり振り払うと、
「お前、馬鹿じゃねえの?何で俺がお前みたいな女を相手にするんだよ。」
「嘘。何かの冗談でしょう。」
「お前なんか始めから眼中に無いんだ。分かったかブス。」
「そんなひどいわ。ひどすぎる。この純情可憐な乙女に向かって何て事いうのよ。悪逆無道な男め。あんたなんかね。あんたなんか。あんたなんか。」
ケイコの声は段々と小さくなり、床にしゃがみ込みうなだれてしまった。
「ケイコしっかりして。」
セイカが駆け寄って慰めた。
「お前最低な男だな。それに私達を食い逃げの犯人にし警察まで呼ぶとは何の真似だ?」
真由美が睨みつけると、
「警察だって?それ良いね。」
と清田は面白うそうに笑った。高郷は少し黙って見ていたが清田に向かって、
「清田。おまえこの娘達に食堂を無料にするって言ったのか。」
と聞いた。
「はあ?何馬鹿な事言ってるだよ。お前そんな事信じてるの。図体はでかい割にこんな奴らに振り回されやがって。俺はね。わざわざ遠いところからきてくれたから思わず無料にしてあげたいなと言っただけだ。こいつ等が勝手に食堂が無料になると勘違いしてるだけだよ。」
「何だと。」
真由美が反論しようとしたとき、
「清田どうした。何かさっき凄い音がしたけど。」
外の生徒達が駆けつけてきた。
「あいつらが食堂の食事を食い逃げしようとしていたんだ。こんな悪質まがいのこと許せないよな。」
と四人に向かって指を差した。すると外の生徒達は真由美達を見て次々と避難し始めた。
「何だって。こいつら最低じゃん。」
「食い逃げなんてどういう頭の構造をしてるんだ。」
「払えないなら警察に自首しろよ。」
「お前達のしてる事は泥棒だ。」
「こんな奴らが日本を駄目にしてるんだ。」
そして生徒の一人が、
「払えないなら土下座して謝れ」と叫ぶと、
「それはいい。」と外の生徒も賛同し全員で真由美達を取り囲みながら、
「土下座。」
と煽った。
「お前達待て。止めるんだ。」
高郷は急いでやめさようとしたが、生徒達は耳を貸すどころかさらに声が強まった。段々と追いつめられる状況に我慢できなくなったセイカは、
「ねえ、どうしよう。」
と泣きそうになっていた。清田はその集団から少し離れ、いかにもいい気味だと言わんばかりに可笑しそうに笑っていた。
「これって四面楚歌の状態よね。だから私忠告したでしょう。うまい話には気をつけろってね。」
花香が冷静な声で外の三人に言うと、
「別に良いじゃないか。過ぎたことを後悔してもしょうがないだろう。」
と真由美はのんびり答えた。
「じゃあどうする?金額を払ってさっと終わらせる。でもあの金額はどう見ても四人の所持金を持ち合わせても払えないわ。それに誰かさんが一番高いステーキなんて頼むから。」
「違うだろう。ここの食堂の一品事のメニューが高すぎるんだ。高すぎる食堂が悪い。違うか。」
「まあ、真由美らしいわね。そういう事にしておきましょう。」
と花香が少し微笑むと、
「二人ともそんな事言ってる場合じゃないでしょう。土下座しろって言うあの声が聞こえてないの。」
セイカのせっぱ詰まった声がした。その時立ちすくんでいたケイコが立ち上がり、
「あの男絶対許さない。乙女の恋心を踏みにじるなんて。あなた達もちろん準備は出来てるわよね。」
ケイコは拳に力を込めた。
「よっしゃやるのか。久しぶりに腕がなるぜ。」
と真由美が指の関節を鳴らし始めた。
「まるで私達、勧善懲悪の世界にいるヒーローみたいね。それにあの生徒達喧嘩を売るなんて身の程しらずだわ。」
と花香は相手を睨みつけた。セイカは大慌てで、
「ちょっとやめてよ。一年の時の事を忘れたの。何度もこんな事をしでかして江口先生と校長先生から大目玉をくらったじゃない。お陰でクラスメイトからは白い目で見られるし。お願いだから止めてよ。」
と必死の願いも届かず、真由美達は近くにあった椅子とテーブル等を英館の生徒に思いっきり投げつけた。