私立英館学園編
「ちょっとそこの君たちお会計を済ましてから出てくれる。」
「私達ここのリーダーの人に食事を無料にしてくれると言われてるので払わなくていいです。」
とセイカが会計の係をしている生徒にそう言うと、
「はい?食事を無料するって、そんな話しリーダーから一言も聞いてないけど。」
会計係の生徒は眉間に皺を寄せながら不審そうに四人を見た。
「何いってるんだ。私たち無料にすると言われて食堂に入ったんだよ。ここのリーダーに。」
真由美が怒って叫ぶと、
「君たち、もしかして払えないから嘘ついているんじゃないの。」
その言葉に真由美はその生徒を一発殴ろうと思ったが、
「落着きなさいよ。この人にそう思われても仕方ないわ。」
と花香に止められた。
「じゃあどうするんだよ。私たち食い逃げの犯人にされてるんだぞ。」
「リーダーの人を呼んでもらえばいいじゃない。ここのリーダーが無料にすると言ったのだから。」
「ああ、分かったよ。」
真由美は少し怒りを抑えた。花香が会計係の生徒に食堂のリーダーを呼ぶように頼んだ。しばらくして会計係に連れてこられたリーダーを見て四人は呆然とした。真由美達の前に現れたのはさっきの生徒とまるで似ても似つかない、がっしりとした体格の良い生徒がやってきた。四人は一瞬固まった。
「ええっと、さっき岩田から聞いた話だけど、俺が君たちに食堂の食事を無料にすると言ったらしいね。でも君たちと全く面識ないんだよね。」
「ちょっとその前に確認してもいいか?お前がここのリーダーなのか?」
真由美は恐る恐る聞いた。
「ああそうだよ。高郷と言うんだ。」
そのリーダーはあっさり答えた。
「一体どうなってるんだよ。じゃあさっきのあいつは誰だ。」
真由美は混乱しそうになった。
「そんなの嘘よ。あなたみたいにどこから見ても野獣みたいな人がリーダーなんて信じられない。彼をどうしたのよ。私の運命の人をどこに隠したのよ。」
とケイコが叫びながら倒れそうになったので、セイカが慌てて体を支えた。
「悪いけど俺がここのリーダー何だ。」
高郷は少々ムッとしながら言った。
「要するに君たちは、ここの生徒の誰かに食堂を無料にすると言われたわけだ。」
高郷が四人にそう言うと横から会計係の生徒岩田が、
「高郷。あの娘達払えないから嘘を言ってるんだよ。お前は人が良いからすぐ信用する。真に受けるなよ。」
と四人をうかがしそうに見た。
「何だとお前。私達が嘘をついてると思ってるのか。」
真由美が反論すると、
「ああそうだ。俺はでっちあげた話だと思っているよ。第一この学校で君たち相手にそんな下らない嘘を言う生徒なんていないんだ。そんな暇があったら数学の公式一つぐらい覚えた方がましだよ。」
「この野郎。言わせておけば、言いたい放題言いやがって。何様のつもりだ。」
真由美は岩田と顔を見合わせ睨み合った。
「やめろ岩田。少し落ち着け。まずは嘘をついてるかきちんと話を聞かないと分からないだろう。すまんな。ちょっとそこの君話してくれないか。」
と高郷は不満げな岩田を無視し花香を見た。花香は一息ついてから食堂のリーダーと名乗る生徒との出会いから食堂が無料になるまでの経緯を話した。高郷は少し考えながら、
「ウーン。君たちの話を聞いてると嘘を言ってるように見えないしね。そいつはどんな奴だったんだ。」
と聞いた。
「顔はともかく性格は好きではなかったわ。私は最初に出会ったときから怪しいと思っていたのよ。確かサッカー部に所属してると言っていたけど。」
その言葉に高郷と岩田は顔を見合わした。
「何だよ。どうしたんだ。」
真由美は少し嫌な予感がした。すると高郷が静かに口を開いた。
「悪いけど君たちを信用出来なくなったよ。」
「どういう事だよ。」
「実は俺たちの学校にはサッカー部がないんだ。外の私立学校は知らないけど、部活より勉強を主に置いているからね。文化系の部活はいくつかあるけど、運動部はやっとの思いで野球部が2年前に出来た位なんだ。」
「だから言っただろう。あの娘達嘘をついてるって言ったじゃないか。もし俺達の学校の生徒ならサッカー部が無いことを知らない人間なんていないんだ。おい高郷、早く先生に知らせて警察を呼んでもらおうよ。」
と岩田が尽かさず言った。
「ちょっと待てよ。そいつが私達に嘘をついたに決まってるじゃないか。何で警察まで呼ぶんだ。」
今にも真由美が会計係に飛びかかりそうなので、
「真由美。落ち着いてよ。お願い。」
とセイカが必死になって押さえた。花香は高郷に、
「私達決して嘘なんかついていないわ。信じてよ。」
と言ったが黙ったままだった。岩田はそんな様子にお構いなく、食堂にある内線で教師を呼びに行った。
「ああ畜生。なんでこんな展開になるんだ。まさに悪夢だ。」
と真由美は頭を抱えていると、一人の生徒が食堂に入ってきた。真由美は目を疑った。そして高郷に向かって叫んだ。
「あの男だ。つり目だったからよく覚えている。食堂を無料すると言った男だよ。あの野郎。」
それを聞いた高郷が振り向いた瞬間、真由美は清田に近づき拳を思いっきり振り払い清田の顔をめがけて、
「この野郎ふざけんな。」
と殴った。その勢いで清田は床に倒れ、けたたましい音が食堂中に響いた。