10.私立英館学園編
四人は何も知らないまま吹奏楽部の演奏を聞いていたが、真由美は段々と聞いているうちに眠たくなって自然と欠伸が出てきた。ケイコは演奏など耳に入らないようでさっきから出会った英館の生徒の事ばかり考えていた。セイカは自分の知ってる曲や好きな曲も演奏されていたので楽しんで聞いていた。花香は何か考え事をしながら周囲を見渡していた。しばらくの間四人はそうしていたが、
「おかしいわね。」
ふいに花香が口を開いた。
「何がだ?」
真由美が目を擦りながら花香に背くと、
「今横のテーブルに座っている人達を見てよ。私達より遅く入ってきたのに早く食事が来たわ。」
「そうかあ。多分そろそろ来る頃だよ。」
真由美はさほど気にしていなかった。それを聞いていたケイコがいやみったらしく、
「そうよ。真由美がステーキなんて頼むから焼くのに時間がかかって持ってこられないんじゃない。可哀想に。」
「ケイコお前なあ。」
と真由美は言い返そうと思ったが、お腹が空いて言い返す元気も無かった。それからも四人はしばらく待ったが食事が運ばれる気配はなかった。そして吹奏楽部による演奏が終わっても誰の食事も一度も運ばれる事はなかった。真由美もさすがにおかしいと感じ、
「何で食事が来ないんだ。」
とイライラしながら口を開いた。
「もしかしたら忘れているのかな。」
セイカは心配そうに言った。
「はあ、何だって。お腹が空いてるのに忘れてるだとざけんな。こっちは何時間待てばいいんだ。」
と真由美はテーブルを思いっきり強く叩くとちょうどテーブルの横を通った英館の生徒に、
「おいそこのお前ちょっと来い。そうお前だ。早く来い。」
と呼び付けた。
「おい、どういう事だ。さっきから待ってるのになぜ食事が来ないんだ。」
と凄い迫力で睨みながら怒鳴った。
「あの、す、す、すみません。食事が来ないんですよね。ちょちょちょっと確認してきます。」
と英館の生徒は狼狽気味に言うと慌てて厨房の所へかけて入った。そして急いで戻ってくると、
「こ、こ、こちらの手違いで、あの注、注文されてないようでした。今い、い、いそいで、も、もってこさせます。」
と声を震わせながら謝った。
「本当だな。早く用意出来るようにお前も手伝えに行け。」
と真由美は怯えている英館の生徒を強引に促した。
「注文されてないってどういう事?やっぱりさっきの男子生徒怪しいわよ。」
花香が疑わしそうに言うと、
「これは何か手違いがあったに決まってるじゃない。彼は全然悪くないわ。」
ケイコが無気になって言った。
「それはケイコが、あの男子生徒を気に入ってるから庇いたい気持ちは分かるけど、あきらかにおかしいわ。」
「別に気に入ってるから庇ってるわけじゃないわ。彼がそんなことするように見えないだけよ。」
ケイコは必死になって言ったが花香は納得がいかない顔をしていた。すると真由美とセイカも、
「ケイコの言う通りだ。あいつはここの食堂を全部無料にするって言ってくれた奴だぜ。いい奴に決まってるだろうが。」
「私もそう思うよ。遠いところから来てくれてるから気遣ってくれて、食事を無料にしてくれたのよ。思いやりのある人を疑うなんて失礼よ。」
花香はこれ以上何を言っても無駄だと思いあきらめた。すると四人の注文した食事が次々と運ばれてきた。四人はお腹が空いていたので無我夢中で食べ始めた。だが花香以外の三人は食事が無料になると言う事で、これだけでは満足出来ずに、最初に注文した以外の外のメニューを次々と注文した。そしてテーブルの上にある皿は全部空になった。
「ああ美味しかった。よく食べたな。」
と真由美はお腹いっぱいになった。
「うん、凄い良かった。やっぱり英館の食堂って公立の給食とは全然違うね。」
とセイカは満足げに言った。
「さすがケイコだな。お前が食堂を進めなかったらこんな美味しい思いはしなかったぜ。」
真由美が褒めると、
「まあね。」
とケイコは誇らしげそうにした。
「じゃあそろそろここを出ようぜ。今の時間からだとケイコが言っていた公演は終わってるけど、セイカのお化け屋敷には何とか間に合いそうだな。」
真由美が促すと四人はイスから立ち上がり、食堂の入り口に向かい外に出ようとした。すると突然入り口近くの会計場所にいた英館の生徒が呼び止めた。