戦慄のメリークリスマス・リア充はこうして滅んだ
「聖なる夜ならぬ性なる夜か。ふざけやがって」
渋谷の路上で男は一人歩きながらブツブツと呟いていた。
今宵はクリスマス。親子が鳥とケーキをむさぼり食い、恋人たちがエッチなコトをする日である。また赤い服の老人が家の中に無断で進入しても良い日であるという噂もあったが残念ながら日本の法律ではそのような例外措置は取られておらず、多分捕まると思われた。それでも良いのならば人様の家に侵入し、子供たちの眠る部屋へと無断で進入するが良いサンタよ。しかしそのときこそが己の最後の時と知れ。
どう最後となるのか、それはダレにも分からない。少なくともブツブツと歩いていた男にとってはサンタの無惨な死がイメージされたが、なぜ死んでいるのかは分からない。アメリカなら不法侵入してきたようなヤツならショットガンで一撃なのにな……そんな益体もないことを男は考えてながら、クリスマスでサンタの格好をした男がショットガンに撃たれて死んだ事件とかをスマホのRSSリーダーで探し始めた。
そのときである。男の横からトラックが飛び込んできたのは。
気が付けば男がいたのは横断歩道。しかも信号は赤。男はスマホに気を取られて気付かずに赤信号を渡っていたのだ。スマホを見ながら歩いてるのは危ない。危険なのだ。それを男は身を持って知る。
そして吹き飛ぶ男。渋谷の駅前が一斉に悲鳴が木霊した。
「ち、違う。俺は悪くない。こいつが信号無視して。だいたい、クリスマスに一人で歩いてるなんて、カップルでもないなんて、こいつが悪いんだ!!」
トラックから降りてきた男がそう口走っている。
確かにトラックのその運ちゃんは悪くないと男は思った。悪いのは自分である。スマホを見ながら道を歩くなどと言う非常識なことをしてはいけない。当然のことだ。だが、問題なのは後の言葉だった。
なぜクリスマスに一人で歩いてはいけないのか。
なぜカップルではないから悪いのか。
モテないことがなぜそんなにも悪いのか。
男はそう叫んだ。必死にトラックの運ちゃんに問いかけた。そして運ちゃんは言ったのだ。
「あ、ゴメン」……と。
そして男の意識は途切れ、気が付けは白い世界にいた。
さらに目の前には、白いローブを纏った爺さんが土下座をしていたのだ。
「すまんかった」
爺さんは開口一番にそう言っていた。聞けば爺さんは神様なのだという。最近はトラックとかに引かれたヤツを異世界に送りつけたりするのが趣味で、とりあえずテキトーな理由で謝って、凄い能力を与えて調子に乗ってるのを眺めるのがマイブームなのだそうだ。さらに自称神様は、上手くエンディングとか迎えても10年後くらいにはみんな無惨な目にあって死んでいるので安心してほしいと言っていた。何を安心してほしいのか分からないが、別にうちらもモテないからって登場人物にまでひがんでいるワケじゃないですよ。いや、物語の中くらい夢があってもいいじゃないですか。綺麗に物語が終わっているのならば別に問題ないのでは?……と男が口にしたので、自称神様も「じゃあ生きてる」と返してきた。生きているらしい。無残な死は迎えていなかった。
なお、今回の自称神様の爺さんの謝り理由は、ネタが尽きたので特にないらしい。そもそも普通に男の不注意で死んだのだから神様に非がないのは当然なのだが。ともあれである。とりあえず、なんか能力をくれて異世界に飛ばしてくれるらしいので、「異世界とかは別にいいので地球のリア充が爆発してほしい」と男は返した。
そして男は異世界に飛ばされた。
だが、男の呪いが残された地球では恐るべき惨劇が起きていたのである。
そう、爆発したのだ。リア充が。
男の死んだ渋谷の駅前は血の海と化していた。
カップル同士がまるで癇癪玉のように次々と爆発していったのだ。クリスマスを中止しようと目論む会の人たちは、その光景を見て小便チビリ、逃げ出して、流れ出た血に滑って転んで、目の前の首の爆ぜた男と女だった肉塊を見て吐き出した。
そしてそれは東京中、いや日本中、いや世界中で一斉に発生した。
阿鼻叫喚が世界を包んだ。ありとあらゆるリア充が、カップルが、家族たちが
、或いは成功者と呼ばれる一部の特権階級の人たちの頭部が一斉に破裂したのだ。地獄と言って良いだろう。
世界経済は一斉に止まり、機能の停止した都市部などでは略奪行為が起きた。だが、彼らも爆発した。女を侍らし、ハーレムなどを作った連中も残らず爆発した。残された人々同士、寄り添って生きようとした人たちも爆発した。みんな、爆発した。コミュニティ障害の人間だろうと食うためには動かなければならない。助け合わなければならない。だが、そんな彼らでさえ爆発した。
そして人々はコミュニケーションというものを取ることが、出来なくなった。人間の強みとは人単体の力ではなく社会性にある。特に情報伝達速度が速まるにつれて加速度的に文明は発展していったが、だが、ついにそれがここで止まってしまった。
ならば人類は衰退し、死滅したのか。
否である。
人はそれでも生き続けた。彼らは爆発した人間たちの条件を調べ上げ、リア充である人物の頭が弾け飛ぶことを突き止めた。薬物によって感情を抑え、人と人とを隔離して生活できる環境を作り、顔を合わせず、一人で暮らしていける空間を作った。
それによって人々の頭部爆破は防がれた。だが、それでは次世代の子供を作ることはできない。ゆえにクローンが発展した。
生まれたときから、すでに知識を与えられ、感情を抑制され、ただ生きることに特化した新人類。だがそれは人々の感情の存在しない悲しいディストピアであった。
しかしだ。人類はそんな状況にも決して屈しはしなかった。やがては人々は、頭部の機能を胸部に移し、頭部自体をなくすことにより、爆破が起きないことを発見した。そして人々は自らの手で人工進化を行うことで、再び感情というものを取り戻したのだ。
西暦2509年。幸福頭部爆破症と呼ばれる人類史上、もっとも謎に包まれたその現象はこうして終わりを迎えたのである。
「お婆ちゃん、昔の人は頭って言うのがあったの?」
「そうだよぉ。動物園のお猿さんとかいるだろ。私らも昔はあんなんだったんだってねえ」
「変なの」
「まったくだねえ」
「あはははは」
「あはははは」
そんな会話がクリスマスの夜に交わされる平和な世界が取り戻されたのである。
Fin.
なんとなく思いついて30分で書けた。
いや、俺はクリスマスとかカップルとかに別に僻んじゃいねえ。無実だ。