第二話 必然の出会いと姉妹の絆
どうもみなさん、お久しぶりです。
ずっと待ってらっしゃった方はごめんなさい、初めての方は初めまして。
本当に遅れました。
謝る以外に書くことはないのでそれは割烹にてやらせていただきますm(_ _)m
「いいか、一つでも問題があったらすぐに報告しろ。お前らが報告を怠ることで乗員何百人の命が奪われることだってあるんだ。わかったな?」
了解! と機関室にいた数名の人間が一斉に返答する。その中には監視制御士の秋月将悟もいた。 彼が整備の担当をしているのは十五式複合機関のガスタービン部分である。
「よお秋月、どんな感じだ?」
機関の下に潜り込んで作業をしていた将悟に、不意に声がかけられた。将悟は機関の下から這い出てきて声の主を視認する。そこにいたのは、昨日艦内を案内してもらった鈴谷三等海尉だった。
「まずまずですね。やっぱ訓練通りにはなかなかいかないです」
額の汗をぬぐいながら彼は答える。
「そりゃそうだ。まぁやってるうちに慣れるさ。十五式複合機関のことをきちんと理解してる奴はほとんどいねぇんだ。まともに中身を勉強してんのは、お前と一緒に術科学校出たやつぐらいなもんだぜ」
そう言って鈴谷は巨大な機関を拳で軽くたたく。銀色の怪物は鈍い音を立て、中にもぎっしりと具が詰まっていることを知らしめた。
「でもこんなものまともにいじれる気がしないですよ……」
怪物の巨体は将悟を怖気づかせて余るほどの威圧感を有していて、彼は深くため息をつく。機関と言えば、艦艇の心臓部であるのだ。それにこいつは最新型で今までとは違うものなのである。居竦むな、という方が無理な話なのだった。
「本当に俺なんかに出来るんですかね」
「馬鹿やろう、無理だと思うから怖気づくんだ。自分が、いや自分しかこの心臓を操れないと思いや良いんだよ。己の仕事に自信を持て!」
「自信を持つ……」
将悟は彼の言葉を反芻する。自分の仕事に自信を持つ、そのようなことは今までしたことがなかった。自衛隊の仕事だけでなく、今まで生きてきてそのようなことを思ったことはただの一度たりともなかったのだ。
だがそう言われて、彼は生まれて初めて自分の仕事に自信を持てるような気がした。一度そう思うと己のやるべきことも自然と見えてきて、この化け物相手にも互角以上に渡り合えるように思えてくる。
「わかりました、ありがとうございます。やれるところまでやってみようと思います!」
「おう、その意気だ。なんか困ったことがあったらすぐに相談しろよ? これでも機関長から直々に監督役を仰せつかってんだ」
「はい、その時はお願いします!」
「じゃあ俺は他のやつのところも見てくるから、頑張れよ」
それじゃあな、と将悟は後ろ向きに手を振る鈴谷の姿を見送った。
「さて、飯までにもういっちょ頑張りますか」
将悟は改めて目の前の機関と向き合う。その巨体は未だに強大な威圧感を放ってはいたが、先ほどまでとは違い彼はそれに気圧されることはなかった。自分の仕事に自信を持て、という鈴谷の言葉を頭に刻み込み、しっかりと敵を見据える。その瞳には、既に不安の色など微塵も感じられなかった。
機関室での一通りの作業を終えた将悟は、艦内の通路をのんびりと歩いていた。特にどこかへ行くというあてがあるわけでもないのだが、艦内の配置をなるべく早めに覚えたいということもあって、今日は空いた時間のほとんどを艦内の散策に費やしていた。
「きゃあっ」
ドスン!
将悟は突然人がぶつかったような衝撃と共に、短い悲鳴を聞いた。さらに、大量の白い物が辺りに舞い上がる。それはまさに、ミサイルを狂わせるチャフの様だった。
「おっとっと……」
衝撃はまさに誰かと正面衝突したもので、彼は何ともなかったものの相手はそのはずみでしりもちをついてしまったようだ。
「いたたたた……」
その透き通るような、しかしどこか幼さを残している声の主は、少し涙目になりながらお尻をさすっている。どうやら相手は、白い服を着た年下の少女の様だった。
「えっと、大丈夫……か? 立てる?」
「あ、はい。……大丈夫です」
将悟は目の前の少女に手を差し伸べ、少女がその手を取る。彼女の温かくて柔らかい手に、彼は少しドキリとした。
「あのっ! あ、ありがとうございましたっ!」
少女はぺこりと一礼する。体勢を直した彼女を見て、将悟は息が止まるかと思った。
少女は、かなりの美少女であった。年齢は十五歳くらいだろう。艶のある黒い髪は腰の上まで伸ばされていて、さらさらと柔らかく揺れている。その髪と同じ 黒い瞳はどこまでも透き通っていて、今にも吸い込まれそうなほどに美しい。顔つきはまだ幼いところを残してはいるものの、大人に近い雰囲気も持ち合わせて いる。半袖から覗く肌は雪のように白く、彼女の可憐さを一層引き立てている。将悟はその少女に完全に目を奪われていた。
しかしある一点が視界に入った時、彼の態度は一転した。
「い、一佐! ししし、失礼しましたぁっ!」
「ふぇ、一佐って……? あぁ、これのことですか?」
少女は自分の左上腕部についている階級章をつまむ。桜を象った金の刺繍と四本のラインが意味するそれは、日本に存在する四の護衛隊群の司令官と同じ、一等海佐である。さらに来ている服も、海上自衛隊幹部用の第三種夏服である。
そのような人に、気が付かなかったとはいえ、敬語どころか敬礼もなしで接したのだ。どのような罰が待っているか、想像もできない。
「あのー、私は別に――」
「本ッ当に申し訳ありませんでした!」
「いえだからその……」
「本当になんとお詫びして良いか……。減俸でもなんでも受けますので――」
「あのっ!!」
話を聞こうとしない将悟に耐えかねた少女は、ついに大声を出した。自分で出した声なのだが、予想以上の声量に少女は少し驚く。
「あの、話を聞いてください」
「はい、申し訳ございませんでした!」
「その敬語もやめてくれると助かるんですが……」
おずおずと控えめに少女は申し出る。その姿にはまったく威厳がなく、むしろ士官服を着ている人にしては頼りなく思えた。良く考えてみると、自分よりも年下にしか見えないしかも少女が、護衛隊群を指揮するとは考えにくい。
「……本当に? 敬語やめた途端に腕立て伏せ二千回とか申告されない?」
「本当に大丈夫ですよ。安心してください」
「そうか、ならいいんだ」
将悟はほっと安堵の息を漏らす。もしその言葉が嘘だったら海自をやめるかもしれない、とまで将悟は考える。
それにしても、いったい彼女は何者なのだろうか。その疑問を解消しようと口を開きかけた将悟は、周りの現状を見て喉まで出かかった言葉を飲み込む。
「あー、一旦これを何とかしないといけないな」
周りに散らばっているのは、紙、紙、紙、また紙であった。先ほど少女が転んだ拍子にチャフのごとくばら撒いたものである。
「そ、そうですね……」
少女はそう言うと、黙々と散らばった紙を集め始める。その姿を見た将悟も、少女に倣い一枚一枚拾い始めた。
「ほらよっと、これで全部か?」
将悟は集めた紙の束を手渡す。何かの書類であったそれは、ざっと見た限りこの護衛艦『むつ』に関するものであるようだ。
「あ、ありがとうございます」
それを受け取った少女は再びぺこりとお辞儀をした。
「んで、結局何者なんだ? 見たところ俺よりも年下みたいだけど……」
「確かに私は一佐じゃありませんし、秋月一士の言うとおり年下ですよ」
「やっぱりか。って、なんで俺の名前を!?」
いきなり自分の名前を出されて将悟は驚く。
「私はこの艦に乗っている方すべての名前と顔を覚えています。なんたって私、護衛艦『むつ』の艦魂ですから」
「か、艦魂だって!?」
えへん、と少女はあまり起伏のない胸を張って言う。艦魂と言えば、昨日鈴谷三尉に聞いたものではないか。将悟はあまりに非現実的な展開にたじろいだ。
「あれ、もしかして一士は艦魂を知っているんですか? というか今気づいたんですけど、私が見えてるんですか!?」
「すごく今更な驚きだな……。艦魂については昨日、機関科の人に聞いたんだ。まさか本当にいるとは思ってなかったけどな」
最初に聞いた時はそんな非現実的な存在があるはずないと半信半疑だった。しかし艦魂は実在し、しかもそれが自分に見えるものだったとは。案外この世界は、科学では証明できない不思議なものが結構転がっているのかもしれない。
「だけどさ、本当に艦魂だっていう証拠はあるのか? 言っちゃ悪いが、護衛隊群司令が自分の娘に制服貸してコスプレさせてるって可能性もなくはないぞ?」
自衛隊はサブカルチャーの楽園である。陸上自衛隊が痛ヘリを展示したり、護衛艦の本棚に堂々とライトノベルが置かれているほどである。コスプレだって絶対にないとは言い切れない。
「証拠、ですか? うーん……」
艦魂の少女は腕を組んでしばらく考えた後、何かひらめいたようにポン、と手を打った。
「甲板に行きましょう! それが証拠です!」
「へ、甲板? 別にいいけど、それが証拠になるのかなぁ……」
今一つ納得のいくものではなかったが、渋々といった感じで承諾する。
「じゃあ行きますよ。一名様ごあんな~い」
そう言うと少女は将悟の手を取った。同時に、細かな淡い光の粒子が二人を包み込むように発生し始める。その光が二人を全て覆い隠した時、その場にはもう何も残されていなかった。
「到着です。どうですか、一瞬だったでしょ?」
ふわりとした一瞬の浮遊感の後、将悟は地面に足がついた普段の感触を取り戻した。全身を覆っていた光の粒子はもう見えなくなっていた。しかし代わりに視界に入ってきたものを見て、その表情はさらなる共学に包まれる。
「え……? これって……」
そこにあったのは、圧倒的な存在感を放つ護衛艦『むつ』のシンボル。二基の三連装五十口径四十一cm砲が堂々と鎮座している。その背後には、SPY-1 レーダー四基を搭載した、ステルス性も考慮して設計された艦橋とマストがそびえ立っている。さらにその艦橋には、高性能二十mm機関砲が搭載されている。 まさに、攻防最強の『戦艦』の名を冠した護衛艦である。
「四十……一cm主砲……。じゃあここって本当に……」
「はい、護衛艦『むつ』の前部甲板部分です。どうですか、これで私が艦魂だって信じてもらえますか?」
「あぁ……こんなのを体験したら、信じざるを得ないな……」
はぁ……、と将悟は改めてその少女を見る。まだ子供っぽい雰囲気は残しているものの、純白の夏服は晴れ渡った空の映る青い海にとてもよく似合っていて、 それと対照的な漆黒の長い髪がさらさらと風になびく姿はどこか神秘的で、まるで芸術家の描いた一枚の絵画の様だった。自分ではその美しさに気づいていないのだろう、たなびく髪を手で軽く押さえるという動きや、自然と浮かぶ純粋な笑顔にも、彼女の魅力は溢れていた。
いつの間にか、将悟はすっかり彼女に惹きこまれていた。
「秋月一士? どうかしました?」
彼女の言葉に将悟はハッと我に返った。
「あ、あぁ。海がきれいだなぁと思ってさ」
「確かに綺麗ですね。でも、湾の外はもっと広くて綺麗だって聞きました。わたしも早くそんな大海原を航海したいです!」
「そ、そうか。……そういやこの艦は、全力公試もまだ済ませてないんだったな」
彼女に見入っていたことを知られるのは、なんだか恥ずかしかった。だからその話題から軌道がそれたことに、将はほっと胸をなでおろすのだった。
「早く明日が来るといいですね! わくわくして今日は眠れなさそうです」
むつは公試を心底楽しみにしているようだった。
戦闘護衛艦『むつ』はその存在を極限まで秘匿するために、これまで全く基地の外に出たことがなかった。生まれてからずっと湾内で、外の世界を知らずに過ごしてきたのだ。そんな彼女が明日の出港を楽しみにするというのは、ある意味当然とも言えた。
「子供じゃないだから……いや、生まれたばかりなんだから子供なのか?」
「子供じゃないです! わたしはれっきとしたオトナのオンナですよ!」
「うーん、そうやってムキになる所が……いやなんでもない」
見た目なら十五歳程度、進水式がおこなわれたのはたったの一年前だ。どこをどう見ても完全に子供である。それでも将悟は自分がオトナだと自負しているので、そのような余計なことは言わないが。
「まあその……なんだ、えっと……」
彼女をなんと呼べばいいか少し考えたが、すぐには出てこない。そこに彼女が助け船を出す。
「むつでいいですよ。BBG-02戦闘護衛艦『むつ』の艦魂、むつです!」
「そうか、じゃあむつ。改めて、これからよろしくな」
「はい! こちらこそ、これからよろしくお願いします!」
「お、おう……」
むつの見せる一片の陰りもないようなほどまぶしい笑顔に将悟は恥ずかしくなって、苦笑しながら視線を右側にそらす。自分よりも明らかに年下で且つ人間ですらない彼女だが、彼女いない歴イコール年齢と同じという輝かしくない経歴の持ち主である将悟には少々刺激が強すぎたかもしれない。
その時、視線を逸らした先に何かを感じた。というより何かを見た、というほうが正しいかもしれない。それは先ほどむつが使用した瞬間移動と同じような色の光だった。白と蛍光の黄緑色が混ざったような光の粒子が収束し、大まかな人型のシルエットを完成させる。そして光がはじけた。
姿を現したのは、一人の女性だった。年齢は将悟よりも上のようで、見た目から判断されるに恐らくは二十代前半程であろう。黒いストレートの髪は腰のあたりまで伸ばされていて、時折吹く潮風に軽く流れるようになびいている。むつと同じ漆黒に透き通った瞳は黒曜石の如く鋭そうであったが、同時に柔らかく優しそうな光も兼ね備えていた。まさに、頼りになるお姉さんといった雰囲気を持つ女性であった。
その女性は瞳の中にむつを映し、そして口を開いた。
「あらむつ、こんな所にいたの。あちこち探したのよ?」
「あっ、姉さん。ごめんなさい、いろいろあって……」
むつはあわてたように謝る。いろいろあって、というのは、将悟という艦魂の見える人間に出会ったことだろう。彼女らのことが見える人間はこの世界にどれだけの人数がいるかはわからないが、実は自分は結構すごいのではないだろうか、と将悟は思う。
だがそれよりも、将悟にはこの新しく現れた女性のほうが気になっていた。瞬間移動で現れたことや、むつが『姉さん』と呼んでいるということから、やはり彼女も艦魂なのだろう。
「まあ、別に気にしなくていいわよ。あなたも出港前で忙しいだろうし、出港届の提出は行く前にやってくれれば問題ナッシングだしね」
むつの持つ書類の束を指し示しながら、女性は優しそうに微笑む。
「それより、そっちの人は?」
むつに伝えることを伝えた女性は、彼女の少し後ろでぼんやりと二人のやり取り、というか主に後で現れた女性を眺めていた将悟へと興味を移した。彼女は将悟と目を合わせると、ふぅん、と納得したようにうなずきながら、彼のもとへと近づいてくる。
「あなた、艦魂が見えるのね。名前は?」
彼女の声は非常に透き通っていて、とても優しそうなものであった。その上この上ない美人でもあるので、女性にほとんど耐性を持たない将悟は、心底ドギマギしながらなんとか言葉を紡ぐのだった。
「は、はいっ、ご、護衛艦『むつ』機関科しょ、所属のっ、秋月ですっ!」
なんとか言い切った。その自己紹介を聞いた女性はしかし、今度はさらに驚くべき行動に出た。
「へぇ。秋月君、ね」
彼の名を口の中で復唱しながら、さらに三歩ほど将悟のもとへ接近する。それはすでに腕を動かせばお互いに触れられる距離になるわけで、異性とこれほどまでに近い距離になったことはない将悟の頭は、もう沸騰寸前であった。女性は将悟の全身を隈なくじっくりと観察している。吐息を漏らせばお互いの顔に吹きかかるような近距離であり将悟は息を止めることしかできなかったが、それは彼だけで、先ほどから彼女の吐息は首のあたりにかかっていた。また、女の子特有の香りが鼻孔をくすぐり、将悟は頭の中が真っ白になっていた。
「うん、なかなかいい男じゃない。むつも隅に置けないわねぇ」
そんなことを言って、ようやく女性は将悟の体から一歩離れる。とはいえその強い衝撃は未だに彼の意識に障害を及ぼしているようで、将悟はまだ軽く固まっていたが。ちなみにむつは女性の言った言葉が理解できていないようで、よくわからない、と首をかしげていた。
「――はっ、俺はいったい何を……」
しばらく時間が経ち、将悟がようやく息を吹き返したように硬直状態から復活する。フリーズしていたおかげでなんとか冷静さを取り戻したようで、一応なんとか女性とも向き合うことができている。それでもやはりまだ先ほどの記憶が残っているのか、若干顔に赤みが残っていた。
「やっと落ち着いたみたいね。あらためて自己紹介すると、私はながと。護衛艦『ながと』の艦魂よ。よろしくね」
「あ、よろしくお願いします」
少なくとも見た目は自分よりも年上の女性、もといながとに、将悟はぺこりと頭を下げる。
「まあよろしくとは言っても、明日には二人ともいなくなっちゃうんだもんね。寂しいわぁ」
ながとのその言葉に、むつの表情は暗く沈んだものへと変わった。竣工してみんなと出会ってからまだ間もないとはいえ、仲間と言える彼女らのいるこの地を離れることはやはりつらいのだろう。
「そんな顔しないの。むつにはむつのやるべきことがあるのよ? それに、もう二度と会えないわけじゃないんだから」
「それは……わかってるけど……」
先ほどとはうって変わって、力なくうつむくむつ。そんな彼女を慰めるように、ながとはむつの頭を優しくなでる。
「もう、むつは寂しがり屋なんだから」
「そ、そんなことないから……」
将悟は仲睦まじい二人をぼんやりと眺めていた。護衛艦に宿る魂という人ならざる存在ではあるが、二人は人間の姉妹と何ら変わりないものであった。
すると、ながとが不意に将悟のほうを向いた。
「ねえ秋月くん、むつのこと、よろしくね?」
「えっ? えっと、よろしくっていうと……?」
突然ながとにそう言われ、将悟は戸惑う。いったい何をどうすればいいのかさっぱりわからない。
「もう、男の子なんだからしっかりしなさいな。むつは寂しがり屋さんだから、仲よくしてほしいのよ」
「あ、ああ、そういうことですか。それなら大丈夫ですよ」
「そう、ありがとうね。あ、それと――」
あの娘は頑張りすぎて一人で抱え込んじゃうこともあるから、そこも含めてね。
ながとは将悟にだけ、彼の耳元でささやいた。
「それってどういう――」
彼のその言葉は最後まで紡がれなかった。
「む――――――つ――――――!!!!」
突如として、太陽の光がさえぎられる。だがそれも一瞬のことだった。将悟の司会を、上から下に黒い影が風を切って通り過ぎた。
まさに、SBDドーントレスの如き急降下爆撃。
「え? ――きゃあ!」
ドスンッ! と、およそ人がたてるはずのないような落下音が甲板上に響く。
思わず閉じた目を恐る恐る開いた先に広がっていた光景は、彼の予想の遥か斜め上5ラジアンほどを行くものだった。
「覚悟はいいかい、嬢ちゃんや?」
「え、えっと、みくまちゃん……? きゃっ、やめ……そこは……そこはらめぇっ……」
「うへへへへ、若い身体はええのぉ」
それはあまりにも官能的で刺激的で凄惨な光景だった。みくまと呼ばれた少女一人の小さい少女が、むつの上に馬乗りになっている。それだけであれば一応は特に大きな問題ではない。しかし少女改めみくまは両手をむつの服の中に潜り込ませ、少々いけないような行動をしていた。
「ひゃうっ……らめぇ……あぁんっ」
みくまは絶え間なくむつの身体を攻める。その都度にむつは身体を震わせ、しかしそれでも耐え切れずに嬌声が漏れる。なんとかして魔の手から逃れようともがくため、時折むつの白い肌が服の隙間から覗く。自称根っからの健全自衛官である将悟は、無言でそっと二人から目をそむけ、ながとのほうを向いた。
「あの、これは一体……?」
「うーん、まあいつものことだから、気にしなくてもいいわよ」
「とは言われましても……」
さすがのながとでも、この二人には苦笑を禁じ得ないようだった。しかしそれでも何も介入行動を起こさないところを見ると、こんなことは日常茶飯事なのだろう。将悟は彼女らを引きはがすことをあきらめて、再び二人のほうに視線を戻した。そこで彼は、思わず己の眼を疑った。
「――え?」
はたして、そこに立っていたのは、またしても新たなる謎の少女だった。
むつと同じくらいかそれよりもやや幼いくらいの顔立ちで、つや消しシルバーのフレームを持った細身のメガネをかけている。そしてその奥にある瞳は、どこかみくまと似ているものがあるように将悟には思えた。肩にかからない程度にまで伸ばされた黒い髪も、その感覚を助長させている。そのような外見から冷静で頭のよさそうな少女の雰囲気を纏っているのだが、しかし彼女の身体から放たれているものは静かにして果てしないほどに強大なる怒気だった。
少女は無言でみくまの背後に仁王立ちしている。だが当のみくまはそんなことつゆ知らず、むつを辱めることに余念がないようだった。すでにむつの第二種夏服は大きくはだけ、白い下着が露わになっている。彼女はそのようなあられもない姿のまま、力なく身体を甲板上に横たわっていた。
そして少女はついに実力行使に出た。右腕を振り上げ、疾風の如き速さで力いっぱい鉄拳を繰り出す。
ゴッ! 「ぎゃんっ!」 ガッ! 「ごぁっ!」 ズドォン! 「ぐふぅッ!」
拳骨、肘打ち、そして回し蹴りという華麗な三コンボ。みくまの身体は第一砲塔まで吹き飛んだ。
「うきゅ~……」
灰色の鋼鉄の塊に激突したみくまは、完全に目を回していた。いったい、あの回し蹴りにはどれほどの威力が込められていたのだろうと思い、将悟は思わず身震いする。それにしても当然ではあるが、艦を構成している中でも特に頑丈に作られている主砲塔には、傷一つついてはいなかった。
謎の少女は未だに状態以上から回復することのないむつに向き直ると、一度脱帽時の敬礼をしてからそして姿勢を正した。
「司令、いつも愚妹がご迷惑をおかけして申し訳ございません。後できつく叱っておきます。」
むつは相も変わらず放心状態で反応ひとつ見せない。その代わりにながとが少女に笑いかける。
「まあ、いつものことだから気にしなくてもいいんじゃないかしら。むつだってこんなので彼女のこと嫌いになるわけじゃないんだしね」
「いえ、上官に手を出すことなどあってはなりませんので。たとえながと司令やむつ司令があれのこと許していただいたとしても、です」
「あなたもなかなかに頑固ね。まあ、それにしても……」
ながとはむつにちらりと視線を向けてから苦笑する。
「上官、ねぇ……」
確かにこの有様では上官の威厳も何もあったものではない。もっともむつの場合は普段の状態だとしても、偉そうに見えることなど万に一つでもあったものではないのだが。
少女は再び敬礼すると、伸びているみくまの元へ近づく。そして彼女の脇を両手で抱え、一気に方に担ぎ上げた。
「では、失礼します」
人一人担いだ状態で一礼し、少女は踵を返した。その際に将悟の顔を一瞥したが、さして興味もなかったのかすぐに視線を外して少女は淡い光の中へと姿を消した。
「うぅ……はっ」
しばらくして、ようやくむつは我に返った。
「わたしは、いったい……」
「むつ、お腹見えてるわよ? あと下着もね」
「ふぇ……?」
今までずっと白日の下に晒され続けていた己の醜態に、むつはようやく気が付いた。そして自分の姿と気まずそうにそっぽを向いている将悟を交互に見て、彼女の顔は赤く染まった。
「い――――や――――ぁぁぁ!!!!!」
「ご、ごめんむつ! 俺仕事あるから、またなっ!」
将悟は両手を合わせて謝りながらも、脱兎の如く逃げ出した。後に残されたのはながととむつの姉妹二人だけだった。
「うぅ……もうお嫁にいけない……ぐすん……」
「もう、しょうがないわね」
「ふぇぇ……姉さぁん……」
「はいはい、よしよし」
姉は口元に苦笑いを浮かべながら、妹の頭を優しくなでていく。自分と同じ柔らかくて長い黒髪を手で梳きながら、彼女は目を細める。
「ふふふ、むつの髪は本当にきれいね」
「ね、姉さん、急にどうしたの…… ――むぎゅっ」
ながとがむつの小柄な身体を抱き寄せる。その体勢はちょうどむつの顔が姉の大きな胸にダイブする形となった。
「もう、姉さんじゃなくてお姉ちゃん、でしょ?」
「えー、恥ずかしいよ……むぎゅー」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「うー。お……お姉ちゃん……? むぎゅっ」
むつは恥ずかしそうに、だがそれでも仕方なくその言葉を口にする。しかし、やはりそれでも抱きしめられてしまった。
「むぐぐ……もう、お姉ちゃん!」
「ふふふ、ごめんね。むつがあまりにも可愛くて、ついね」
「もう……」
「でも、元気になったじゃない」
「え……?」
そう言われてみればそうかもしれない。先ほどまで彼女は、誰一人として知り合いのいない地へ行くことに不安だらけで落ち込んでいたはずだ。だが今はそうではない。別れる友とじゃれあい、共に行く仲間と過ごしたことで、その不安はもう払しょくされていた。これは、ひとえに将悟とみくまのおかげであった。
「あとで二人にはお礼を言っとかないとダメね。特に秋月くんとは、ちゃんとお話しするのよ? これからずっと一緒なんだから」
「う、うん、わかってるけど……でもやっぱり……」
むつは顔を赤くしてうつむく。
「うーん、この状態じゃ自分から言い出すのは難しそうね……。彼が先にアクションを起こすのを待つ方がいいかな」
ながとはまたもや半撃沈状態に陥ってしまった妹をなでながらそう独りごちる。
「さてっ、と」
不意にながとはむつの頭をなでていた手を止め、立ち上がった。
「もういい時間だし、私はそろそろお仕事に戻らないといけないわね。むつ、あなたもやることあるでしょう?」
急に手を離されたむつは少々不満げに姉を見つめながらも、彼女に倣いようやく腰を上げる。
「あー、そういえばそうだった……」
やはり、姉と離れるのが名残惜しいようである。しかしそれでも自分のすべきことを無視するわけにはいかないのだった。
「じゃあお姉ちゃん、また後でねっ!」
「もちろん。また後で」
空間転移ではなく己の足で走って艦内へ戻るむつに手を振る。彼女の姿が完全に見えなくなってから、ながとは港の出口へと視線を移した。
「――賽は投げられたわ。もう、後戻りはできない」
その声はむつと話していた時のような明るいものではなかった。
「どうなるのかしらね、この国……この世界は」
ながとは帽子を深く被り直す。風が吹き、彼女の長い髪がなびいて彼女の顔を周りからさえぎる。彼女の表情を窺い知る者は誰もいなかった。
むつ「作者は! 作者はどこじゃあ!」
ながと「む、むつ……? 口調が……」
むつ「え、えっと……お姉ちゃん、なんのことかな? あはははは……」
ながと「知らぬ存ぜぬを通すのね……。まあいいけど」
むつ「それより作者さんは? いい加減41㎝砲をぶっ放さないと気が済まな
いんだけど!?」
ながと「だ、だからむつ……性格が……」
むつ「オラ作者出てきやがれェ!」
サムライ「あ、はい呼びました?」
ながと・むつ「「死に晒せえええぇぇぇ!!!」」
サムライ「え……………………?」
むつ「作者さんはお星さまになりました☆」
ながと「めでたしめでたし、ね。それでむつ、作者の罪状は?」
むつ「えっと、どれどれ……、某艦隊ブラウザゲームにうつつを抜かす・小説を大量に読む・武装神姫にうつつを抜かす・仕事・就職試験・その他だって」
ながと「仕事と就職試験は置いておくとして、問題なのが一番最初ね」
むつ「いったいどんなゲームなんだろね。気になるなぁ」
ながと「第二次大戦の艦艇を擬人化したゲームね。私たちのご先祖様も出てるわよ」
むつ「へえ、ちょっと面白そう。わたしもやってみようかなぁ」
ながと「やりたくても人気がありすぎて抽選に選ばれないとやれないのよ……。まあ私は横須賀鎮守府で最初のほうからやってるけどね」
むつ「むー、残念……。てかそもそも前の話投稿したのって去年でしょ? もう一年近くたってるよ!」
ながと「まあ、この作者の遅さは筋金入りだからねぇ……。ちなみにこないだはなんか新しい現代ファンタジーの構想も練ってるって言ってたわよ」
むつ「それ絶対一つも完結させないでやめるパターンじゃん! もう!」
ながと「それはありそうだけどね。この作品だけは死ぬまでには完成させるとも言ってるから、大丈夫じゃないかしら」
むつ「それだといいんだけど……。あれ、時計は?」
サムライ「時計? 知らないねぇそんなものは」
むつ「全艦砲撃用意、目標作者さんのパソコン。打ちー方はじめー!」
サムライ「あ、ちょっやめ……
ながと「むつ、それくらいでいい?」
むつ「うん。本当はまだまだやりたいけど、たぶん次の次くらいにはさ○なみさんとかお○たかとかにもっとやられそうだし」
ながと「じゃあ締めましょうか」
むつ・ながと「「長い間お待ちいただきありがとうございました。作者に代わって深くお詫び申し上げるとともに、これからも本作をよろしくお願いいたします!」」
~広報艦魂・編集後記より抜粋~