プロローグ
自衛隊戦艦『陸奥』の近代化改装版です。
てか、中身のレベルが大して変わってない気も……。
とりあえず、よろしくお願いします!
2016年6月中旬、空を見上げれば雲のほとんど見られない晴天が広がり、その空の青を映す東京湾の水面は穏やかな波を湛えながらきらきらと日の光を反射させていた。時折吹く風は潮の香りを運び、日章旗や旭日旗を艦船の上にたなびかせている。夏の始まりはもう来ていた。
そんな昼下がりの海上自衛隊横須賀基地には、2隻の新型護衛艦が停泊していた。1隻は3日前に竣工したもので、もう片方も1ヶ月前に竣工した同型艦であ る。どちらも全長200mを越す大型艦で、内部のシステムや武装、機関などありとあらゆる面において日本の最新技術が惜しげもなく投入されていた。
そのような美しくも巨大な2隻の艦、さらにはここに停泊する護衛隊群、それら全ての母ともいうべき港は、己の大きな腕で彼女らを優しく抱擁し続けていた。
2013年にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)へ参加してから約1年が経ったときアメリカ合衆国が突如として行った発表は、日本の経済を大きく震撼させた。大統領の名を取って通称“ヒューズ宣言”とも呼ばれるその内容は、『2018
年を目途に、TPPのもとの目標であった“聖域なき関税撤廃”を実現する』という、あまりにも一方的なものだった。もともと日本は、農作物など一部の輸入品に対して、例外として関税をかけている。しかしこの宣言通りに条約が締結されると、日本の第一次産業は壊滅的な打撃を受けることとなる。
しかしそれは、なにも日本だけの問題ではないはずだった。アメリカからしても、たとえば日本の自動車に関税をかけなければ、国産の自動車は日本車に大きく負けてしまう。だがそれはアメリカもすでに織り込み済みだった。貿易時に諸外国との競争で負ける可能性のある分野は、国が補助金を出して成長の促進をさせることが約束されたのだ。
また、アメリカと日本以外のTPP加盟国は、全面的にアメリカを支持するという見解を示した。もともとTPPというものは“聖域なき関税撤廃”を軸として方針が話し合われていたため、日本より以前に加入していた国はさほど抵抗もなく、むしろこれをさらなる経済発展の好機と考えたのだろう。
ヒューズ宣言以降、日本国内ではTPP問題が良く取り上げられるようになった。アメリカが“聖域なき関税撤廃”を掲げる以上、日本がその輪の中にとどまることはできない。政府は、『日本はTPPから脱退する』と発表し、国内ではそれに向けて準備が進められていった。
しかし、事はそう簡単にはいかなかった。アメリカはTPPを脱退したいという日本の要求を拒否し、あまつさえ脱退するのなら日米安保条約をも破棄すると発表した。横須賀基地に駐留する米第7艦隊を日本から撤退させる、と。もちろんそのような要求をすぐに呑めるはずもなかった。
横須賀から第7艦隊がいなくなれば、日本の防衛力は低下する。そうなれば日本は今以上に中国や韓国等の横暴を許すことになってしまう。それはなんとしても避けなければならない。しかしTPPに残る、という選択肢も日本に未来はない。
2014年、ようやくTPP問題の終止符への道が開けることになった。いわゆる第三極と呼ばれていた日本改革党が第一党にまで一気に上り詰め、政権を手にした。当時の内閣総理大臣が取ったのは、国内産業の発展と防衛力の強化という道だった。米軍の手を借りずに自国を守れるのなら、それに越したことはない。日本から米軍がいなくなったとしても、自衛隊の力だけで問題を解決できることになる。すでにアメリカ離れがかなり進んでいた日本国民は、アメリカへの不信感も相成ってこの政策に賛成した。
アメリカは、それでも退かなかった。アメリカの掲げている『国家輸出戦略』のために、日本がTPPから抜けるのはかなりの痛手であるからだ。どうしても重要な貿易相手である日本を失うわけにはいかなかった。そこでアメリカはついに強行手段に出たのだ。
脱退するのなら、主要な自衛隊施設に攻撃を開始する、と。
――3年後、海上自衛隊に2隻の護衛艦が就役したところから、すべては始まった。