いろんなカタチ
「丸って、良いわよね」
「まる?」
それは唐突な一言だった。放課後の教室に居残り、委員会の作業をやっていた時のことである。向かい合わせにくっつけた机。僕の向かい側に座った彼女が唐突に言った。
「まる、ね。確かに、悪くは無いな」
「そうよ、丸、良いじゃない。私、丸が好きなのよ」
「何故?」
「なんというか、完璧な感じがするのよね」
「ふぅん」
「よく、曲線美って言葉を聞くじゃない。丸って、それの究極系だと思うのよ」
「なるほど、たしかにな」
でも、と僕は言う。
「丸って、なんか簡単過ぎないか?」
「そうかしら?」
「そう。なんていうか、コロッとし過ぎてるんだよ」
「丸だからね」
「丸だけど」
そうだけど。
「もうすこし、カドがあっても良い気がしてさ。例えば、三角とかみたく」
「いやよ、三角なんて。考えてもみなさい。テストで、三角より丸の方が嬉しいでしょう?」
「でも、バツより三角の方が良いじゃん?」
「丸の方が更に良いわ」
「まあ、そうだけどさ。でも、三角って複数を繋げると四角になるだろ?」
「なるわね」
「硬化と紙幣、どっちが嬉しいよ」
「それ、三角じゃなくて四角だわ」
「四角だね」
仰る通り。
「そうか、じゃあ、丸が最強かな」
「そりゃそうよ。私が言ってるんだから、最強だわ」
「そうかなぁ」
いや、でも待てよ。
「でも、テスト用紙って四角だな」
「そうね」
「そのテスト用紙が無ければ丸もバツも無いんだから、実は四角が最強なのかもしれない」
「馬鹿ね。そこまで話を飛躍させるんだったら、こちらにも言い分があるわ」
「どうぞ」
「地球って、丸いじゃない」
「たしかに、丸いね」
「だから、丸が最強よ」
「そうかなぁ」
「なんなの? さっきから」
なんだろう。
「いやね、宇宙規模で言うんだったら、宇宙ってどんな形なのかなぁって、思ったんだよ」
「丸いんじゃない? 最強だもの」
「丸いのかな」
「丸いわよ」
宇宙の謎が一つ解けた。
「でも、考えてみてよ」
「何を」
「四角や三角。それに対して丸。どちらの図形の方が、より沢山の図を生み出せる?」
「それは少しずるいわ。そっちは四角と三角じゃない。二対一なんて、丸が不利よ」
「なんで? 最強なんでしょう?」
「数値的に考えたら、十が二つと百、どっちが強いと思う?」
「百」
「掛け算しても?」
「それ、おあいこになってるね」
「あら、私とした事が」
「で? 数値的に?」
「そう。じゃあ、例えば三角や四角がマイナスの数値だとしたら?」
「マイナスとマイナスを掛けたら大きなプラスになる、って、結構聞くセリフだよね。あれ、カッコいいと思う」
「馬鹿ね。いくらマイナスとマイナスでプラスになっても、マイナス一とマイナス二だったらしょうもないわよ」
「夢が無いね」
ドリームズカムトゥルー。
「夢なんていらないわ。今が充実してるもの」
「リア充ってやつ?」
「なにも、リアルが充実してるとは言ってないわ」
「してないの?」
「さて、どうでしょう?」
「クイズになったね」
「なったわね」
「じゃあ、クイズです」
「はいどうぞ」
「クイズってそもそも何ですか?」
「難しいクイズね」
「クイズと質問の違いって何?」
「私的に言えば、出題者が答えを用意していればクイズ。していなければ質問、ってところかしら」
「じゃあ、試験はクイズで実験は質問?」
「さあ? どうでしょうね」
「なら、期末試験も期末クイズにすれば良いと思うんだ」
「何故?」
「漢字とカタカナでは、やっぱり受け取り方が違うし、クイズって言われた方が、ウキウキすると思うんだけど」
「馬鹿ね。試験は試験だから試験なんじゃない」
「試験の三乗だね」
「期末試験を期末クイズなんて言い方したら、試験の重みが無くなるわ」
「あ、無視された」
「傷ついた?」
「別に」
「ああそう」
「うん」
「………………」
「………………」
沈黙。
「何の話だったかしら?」
「試験の話?」
「そうね。まあつまり、クイズより試験の方が良いのよ」
「そうかなー。試験って言葉の響きが、カドだらけで嫌なんだよなー」
「何よ。カドがあった方が良いじゃない」
「うーん」
「うーん」
「真似?」
「真似」
「でもさ」
「何かしら?」
「そうすると結局、カドだらけの四角が最強じゃない?」
「そうすると結局、カドの無い丸の方が良いって事になるわよ?」
「あれ」
「参ったわね」
「円満にいかないね」
「そもそも私たちがトゲトゲしてるものね」
仕事に戻るか。
と言う事で、作者初の短篇でした。
まあ、書いてる人間が人間なので、非常にアレな内容だったと思います。
結局、どんなカタチが最強なんでしょうね?