悪役令嬢の一人芝居
先生があの名作の続きを描いてくださることを願って
学園に入学する日、私は前世の記憶を取り戻した。
前世で大好きだったマンガの、悪役令嬢に転生していたのだ。
私は歓喜した。そのマンガは、悪役令嬢が幸せになれるマンガだったから。
それなのに…!
とうとう卒業パーティーの日がやってきてしまった。
この日、私は婚約者であるポンコツ王子に、覚えのない罪で婚約破棄され、王都から追放されるはずなのに!
そして着の身着のままでとぼとぼと歩いていると、隣国の皇太子に拾われて溺愛されるはずなのに!
なんでニコニコして私をエスコートしてるの!? 殿下!
私を陥れるはずのゆるふわ男爵令嬢も、今日は私をさしおいて殿下の腕にしがみついてるはずなのに!
なにしてんの!?
と、男爵令嬢を見たら、隅っこからこっちを見てほっとしてる。
おまえ! おまえも転生者だな!
「ポンコツ王子を騙して王妃の座を狙った罪で処刑」されるのが嫌で、殿下に近寄らなかったんだな!(まあ気持ちはわかる)
でも私だってやだよ! ポンコツ王子と添い遂げるなんて!
スパダリと結婚したいよ!
なんとかならないのか! シナリオの強制力? だっけ?
なんかそういうので、マンガの通りにならないのか!
ここは、いちかばちか、やってみるしか…!
私は、最後の手段としてスポットライトを準備していた。
私の合図で従者が会場の電気を消す。
「?!」
「どうしたの?」
「何事だ!」
いきなり真っ暗になった会場に、集まった者たちがざわめく。
オーケストラも音楽を止める。そこに私の声が響く。
「今なんておっしゃいましたの!?」
スポットライトが私にばーん!
みんなが注目する。
「わたくしが、男爵令嬢をいじめていたとおっしゃるの!? 池に突き落とした? 教科書を破った!?ドレスを引き裂いた? 何の根拠があってそんなことを…!?」
「えっクラウディア様?」
「誰がクラウディア様を非難してるの?」
「まさか殿下が?」
みんながとまどう中、私はシナリオをひとりで進める。
「証人が、いるというの? 複数の生徒が見たと? いったいどなたが…あっ!」
私はひとりで後ろに倒れこむ。
「え! 誰? 誰かにつきとばされた??」
「誰かいるの? クラウディア様しか見えないけど…」
「クラウディア様!?」
そばにいる数人が駆け寄りそうだったので
「来ないで!」
と叫んで足を止めさせる。
「わたくしに近づかないで! 触らないでくださいまし! わたくしのことを信じてくださるかたはいらっしゃらないの!? 私は決して、いじめなど…!」
「クラウディ」ガッ!
よけいなことを言いそうな殿下を、暗視カメラをつけた従者が手刀で失神させる。グッジョブ!
私はゆっくりと立ち上がり、ドレスの乱れを直す。
「わかりました…。婚約破棄、承りました。えっ! その上国外追放!? そうですか、男爵令嬢とお幸せに…」
「えっちょ」ガッ!
しゃしゃりでてきそうな男爵令嬢も従者が手刀で失神させる。
ふたりを寄り添うように座らせて、サムズアップ。
ありがとう従者…! あんたできる男だよ…!
私は美しくおじぎをしたあとに、きりりと顔をあげて後ろを向き、会場の出口に向かう。途中、上を向いて立ち止まり、また歩き出す。
「えっ? 雨?」
「何いってんの、室内なのに」
「だって…雨が見える…クラウディア様、雨にうたれてる…」
「見える…私にも見えるわ!」
やったすごい。私って女優の才能あるんじゃない?
なんか調子にのってきた。あれもやってみよう。
何もない空間に手をつき、ぺたぺたと手の平でおさえる。
「あっ壁! 壁があるんだわほら!」
「ほんとだ壁だ!」
パントマイムの才能もあったようだ。
私は空間の中に手を当て、ぐっとひっぱる。
「扉!」
「扉をあけたところね!」
伝わってる。
「お父さま…そうなんです…いま、婚約破棄されて…申し訳ありません…わたくしが…わたくしがいたらないばかりに…」
「誰もいない、いないけど…」
「見える! クラウディア様を責めるご家族の姿が!」
「クラウディア様…!おかわいそうに…!ぐすん」
「きゃあ!」私は横っ飛びにふっとんでみせた。
「お父様! どうか、お聞きください! わたくしは…!」
空間をどんどんと叩くしぐさ。
「締め出されたんだ…」
「なんてひどい…」
会場中の人がクラウディアの演技に見入っているが、従者たち(ライト係と失神係)は困っていた。
「婚約破棄承りました、のあとで合図をするから、そうしたら終了、電気をつけて」という手はずだったのに、全然合図が来ない。
従者は悟った。「お嬢様は天性の女優…! もう誰も、あのお方を止められない…!」
クラウディアの演技は続く。
ひとり歩いてぬかるみで転んだところに、馬車が通りかかり、隣国の皇太子と出会う。
皇太子がいかに有能でイケメンであるか、クラウディアの表情を見てるだけでわかる。
隣国の婚約破棄された令嬢など! と蔑まれる場面では、会場の皆がくやしげに顔をゆがめ、
実はクラウディアは聖女であることがわかり、隣国の瘴気を払うことができるとわかったときは、歓声があがった。
そして隣国の皇太子に結婚を申し込まれて、末永く幸せに暮らすまで…
やりきった…!
ラストまでやりきったわ!
会場の電気がつく。シーンとなった会場。
そして…
スタンディングオベーション!
(てか最初からみんな立ってたけど。)
「すばらしかった!」
「劇団のお芝居を見ているみたいだったわ!」
「たった一人の演技だったなんて信じられない!」
「卒業パーティーでこんな余興を楽しめるなんて!」
「クラウディア、君にこんな才能があったなんて知らなかったよ」
いつのまにか目を覚ましていた王子にも褒められた。
「なぜか中盤の内容を覚えてないんだけど…」
ぎくっとして
「殿下はお疲れなのかもしれませんわね」
とごまかす。
「クラウディア様…おそろしい子…」
同じくいつのまにか目を覚ましていた男爵令嬢にも、白目で褒められた。
「しかしお芝居とはいえ、私が婚約破棄したり、隣国の皇太子と結ばれるような展開はいただけないな~。次はぜひ、私とハッピーエンドになるような展開を頼むよ!」
と言われてしまった。
(えーと、私はなんのために一人芝居したんだっけ?)
と思ったが、演技を終えた満足感で、他のことはもうどうでもよくなっていた。
なにより、私の芝居を褒めてくれたことで、王子に好感をもった。
(よく考えたら私もポンコツなんだし、殿下と仲良くやれるかも? 今度は、王子とハッピーエンドになる悪役令嬢の話を演じてみようかな。殿下、喜んでくれるかな?)
こうして、「たまに王太子妃の一人芝居が見られる夜会」が評判となり隣国からも親しみを持たれ、クラウディアは末永く幸せに暮らすのであった。
企画で「あの名作の続きの原作を書くコンテスト」とかあってもいいんじゃないかと思う今日この頃。




