控室の囁き
ライブを終えた直後の控室は、汗と化粧品の匂いが混じり合っていた。大きな鏡の前で、メイク担当が忙しなくパフを叩き、ヘアスタイリストが束ねた髪をほどく。澪は椅子に座り、鏡越しに自分の顔を見つめた。舞台の上とは違う、素の自分の瞳がそこに映っている。
「お疲れ様、澪ちゃん。」玲奈が隣に座り、ペットボトルの水を渡してくれた。澪は受け取りながら微笑む。「ありがとう。今日の声、すごく良かったよ。」その言葉に玲奈は照れたように笑ったが、すぐに真顔になった。
「ねえ、最近スタッフがよく私たちの控室にいると思わない?」玲奈は声を潜めた。「なんだかずっと監視されてるみたいで落ち着かないの。」澪は唇を引き結び、小さく頷いた。「機材のチェックって言ってたけど、正直理由がわからない。」
その時、控室のドアが開き、白衣を着た男が入ってきた。彼はにこやかに挨拶をしてから、手に持ったタブレットを確認しつつ言った。「皆さん、お疲れ様です。定期検診の時間です。今回は新しい測定器具を試しますので協力お願いします。」
玲奈が不安げに澪を見た。澪は心の中で警戒しながらも、「わかりました」と答えた。彼女たちは何も知らされないまま、多くの検査に協力させられてきた。理由を尋ねても、「体調管理のため」と濁されるだけだった。
検診が終わり、白衣の男が出て行くと、ユナが軽口を叩いた。「やっぱりアイドルは体力勝負だからね。検査も仕事のうちだよ。」彼女の明るい声に場の空気が少し和んだが、澪と玲奈の胸の奥の違和感は消えなかった。
鏡の隅には小さな赤い光が点滅していた。澪はそれが録画装置だと直感した。彼女は慎重にその視線をそらし、何事もないふりを続けた。誰が何のために彼女たちを記録しているのか――その答えはまだ遠い。




