第五話
半年が経った。俺の世界からは完全に色が抜け落ち、ただ死んでいないだけの空虚な日々が続いた。
木枯らしが身に染みる冬の夜、あの黒塗りの高級車が再びアパートの前に現れた。水島だった。しかし、彼の佇まいには以前のような冷徹さはなく、侮蔑の代わりに深い疲労と、そして俺には理解できないほどの焦燥が浮かんでいた。
「お嬢様が、ご病気で入院されました」
思考が停止する。病気?俺のせいか?俺が彼女を追い詰めたからか? 「これは、私の独断です」 彼はそう言って、一枚のメモを俺に差し出した。都内の大きな病院の住所。なぜか、その手は微かに震えていた。
彼が去った後、俺は冷たい紙切れを握りしめたまま、その場に立ち尽くした。
足はコンクリートに縫い付けられたように動かない。それは、俺の心も同じだった。
――どの面下げて会いに行くんだ? もう一人の自分が嘲笑う。 ――お前の存在そのものが、彼女を苦しめるだけだ。お前は消えるべき存在なんだ。
行きたい。でも、行ってはいけない。会いたい。でも、会う資格がない。 愛と罪悪感が、体の中で激しくぶつかり合い、俺を身動き一つ取れなくさせる。冷たい風が頬を打ち、俺の心を映したかのような灰色の空から、ひらり、と白いものが舞った。
初雪だった。それは、あまりにも静かに、立ち尽くす俺の罪と葛藤を、全て覆い隠すかのように降り続いていた。




