名持ちの騎士
ユークリッドは緊張している。
それも、かつて無いほどに。
彼はこれまで何人かの騎士を、命を削りながらも破ってきた。
そんなこの世界の戦闘面で上位に位置する男であるユークリッドが、緊張していた。
「ユークリッド様?大丈夫ですか、、、?」
「、、、ああ、大丈夫、、だ」
「すぐに店を出るぞ」
ユークリッドは女の腕を掴み、店の扉を勢いよく開けた。
チャリーンチャリリーン
二人は角を曲がり、また角を曲がり、狭い路地を足速に歩く。女はユークリッドの顔をチラリと見たが、その顔はすでに緊張を通り越し、普段の彼の表情に戻っている。しかし、一切足を止める気配はない。
「ユークリッド様!」
女の声にびくっと肩を鳴らすと、男の足はようやく落ち着きを見せ、停止した。そして、地面を見つめながら口を開く。
「あれは、ダメだ。、、、少なくとも、今の僕じゃあ、良くて服のすそをちょっと切ることしか出来ない」
肩を震わせながら、拳に力を込める。
「そんなことないですよ、ユークリッド様は、何人も騎士を殺してきたじゃないですか。相手は一人ですし、、、。彼も同じように、、」
「違う!」
女の言葉を遮り、手を大きく振った。
「あいつは、違う。、、、勝てない。あいつは、、名持ちの騎士だ」
そう言うと、女の頬に水滴が落ちた。
「、、、?名持ちの騎士って、、原初の?まさかそんなこと」
「ある!、、、あいつ、前に見たんだ。王都で。僕の親父を!っつ、、」
溢れ出す涙は強く降り出した雨に混じる。
そして、足音が聴こえてくる。
さらに強くなる雨音と共に。
「異端の方々、ご機嫌いかがかな?」
漆黒の傘を片手に、先ほどの父親が微笑を浮かべながら声をかける。
ユークリッドはすでに待ち構えていたのか、すぐさま鎧を顕現し返答する。
「いつも通りさ」