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第4話 台所事情と試される処世術

 食事自体が必要ないヒトもいるため、うちでは食事は各自で自由にするようにしている。

 共有スペースの隣に台所があるのだが、うちの宿泊客たちは食材よりも出来合いの物を好む。そのせいかあまり台所は汚れない。もし料理好きなヒトが泊まったら違うのだろう。

 業務用の冷蔵庫の中身と常備菜などのストッカーの在庫をチェックしていると、カップ麺やお菓子の減りが早い。

 酒の肴になりそうな物は十中八九シャケさんだろう。茶葉や抹茶の粉の減りはロロアさんだ。最近は茶道にも興味があると言っていたし。他の減りは満遍ないからそれぞれで楽しんでいるのだろう。

 要望がなければ今のところ俺が用意するのは夜食や間食用の物だけだ。大体が外で食べてくるから、それくらいでいいのだ。

 ただそういった要望を言いやすい様に、俺は共有スペースで事務作業をすることが多い。


 今日は珍しくシャケさんが他の宿泊客のヒト達と酒を飲んでいた。ソファーの前のローテーブルに並ぶ空の酒瓶や缶から察するに、納戸から持ってこないと台所の在庫が無くなる。

 言われる前に、先に持ってきておくか、と立ち上がるとシャケさんが目敏く俺を呼んだ。

「大家ぁ! 追加の酒はいらねぇからな」

「……他のヒトも飲むかもしれないんで」

 今は良くてもどうせ後で補充するのは俺だ。なら忘れないうちにやってしまおう。

 俺が言い終わる前にもうシャケさんは他の事で爆笑していた。今日の共有スペースは本当に騒がしい。そんな日もあるかと頭を掻きながら納戸へ向かった。


 俺が納戸から酒を持ってくるまで、たかが数十分もかかっていないはずだ。

 それなのにもう共有スペースは静寂につつまれていた。さっきまで数人が座っていたソファーにはシャケさんが踏ん反りかえっているだけで、他のヒトは一人もいなくなっていた。

 耳鳴りがしそうなくらい静かな空気を引き裂いたのは、シャケさんの持つグラスの中の氷が溶けた音だった。

「だから言ったろ? 追加の酒はいらねぇって」

 ただお開きになって解散したようには見えない。だがその場にそぐわない笑みを浮かべるシャケさんの目を見ればわかる。

 俺はわからないままでいい。

 余計な詮索や好奇心はここでは命取りになることを知っている。だから俺は黙って台所に酒を補充した。

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