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第19話 検問所の職員

 昔の俺が無事だったのは、ヒトを認識できずにいたからだと爺ちゃんが言っていた。

 たしかに昔と違って今の俺は擬態皮なしでヒトを視認できる。その違いは大きい。それは職員もわかっている。だから俺を結界で囲ってから離れたのだ。

 動物園の動物を囲うように。外敵が入らないように。強固な結界でも内側から出てしまえば、ライオンに囲まれた草原に放り出された小鹿も同然。

 脇腹の刺すような痛みに呻きつつ体を起こした先に見えたのは医務室の床ではなく、人の手に似た何かで体を支えるヒトのベールの端だった。それを頭で理解し、逃げなければいけないとわかっていても、指先も動かせなかった。


「あらあらあら、困りますねお客様。他のお客様との小競り合いと食人行為はご遠慮いただいておりますの。放火も然り。そちらの人間はワタクシ共の部下ですので、特に」


 死を覚悟して強く目を閉じた俺の後ろから、呑気な女性のやけに演技がかった声が聞こえた。そして複数のせわしない足音が近づいて俺の周りで止まった。複数の職員によるヒトの捕縛の陣が展開され、俺の目の前にいたヒトは身動きの取れない状態にされた。俺は別の職員に引きずられて陣の外に移動させられたので巻き込まれはしなかったが、わりとギリギリの距離だ。

 忌々しそうに女性を睨むヒトに気づいても、女性は全く動じずに笑った。

「あまりワタクシの部下をイジメないでくださいまし」

 間違いなくあの女性は上層部の人だ。

 周りの職員に指示を出して医務室の消火や集まっているヒトの捕縛と誘導を無駄なく進めている。痛いほど鼓動する心臓で周りの音が聞こえにくいが、もう大丈夫だと安堵した。

 気が抜けて少し余裕ができたからか、へたりこむ俺の背中をさする手に気がついた。横を見たら俺を囲う結界を張ってくれた職員が眉間に皺をよせていた。

「警告無視ですぐに職員が集まったから良かったですが、警告がなかったら死んでましたよ」

 なるほど。職員の警告のおかげで助かったが、そのせいで動けなかったのもあるのか。職員一人では捕縛の陣は張れない。加えて検問所の職員の警告無視は即座に全職員に伝わる。

 こうなることを考慮して結界と警告をしてくれていたのだ。この職員には感謝しかない。

「助かりました……」

 返事の代わりに職員は俺の肩を強く叩いた。


 捕縛したヒトは次の入国にペナルティが科せられる。

 その処理や説明を終えた女性は、スーツの内ポケットから四つ折りにされた紙を取り出しながら俺の目の前にしゃがんだ。

「怪我とかメンタルの心配をしたいけど、その前に契約更新してしまおうね。君の能力は検問所ここじゃ危険になる──なったからね」

「お手を煩わせます……」

 四つ折りにされた紙は皺になった契約書だった。女性に渡されたペンですぐにサインをした。

 ろくに中身を読まずに。

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