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第1話 大家

 毎朝起きて、学校や仕事に行って、帰ったら夕飯を食べて風呂に入って、寝る。

 それをただ繰り返すだけ。みんなそんなもんだろう。平凡な毎日。

 ただ、俺は少しだけ違うらしい。


 土地面積三百五十平方メートル。建物面積は二百四十五平方メートル。二台分の駐車スペースがある。築二年の二階建て。最寄は歩いて十五分のバス停留所。隣家は見える範囲にはなく、山に囲まれた、自動販売機すら徒歩圏内にない。

 俺はこの家の大家であり、異世界から日本に観光に来る奴らの長期滞在中の宿を提供する役目を担っている。興味ないが先祖代々続いていたらしい。


 実家が火事で全焼したタイミングで爺ちゃんにここに呼ばれたのは、大家の仕事を押しつけるためだったのだろう。先代の大家である爺ちゃんは、二年前に俺がこの家に来た次の日に消えた。いや、正しくは旅行に行ってしまったのだ。

「じゃ、詳しくは常連のサケさんが教えてくれるからな。わしは長い旅行に出るから、よろしくな」

 そう言ってバカンス気分丸出しの格好と満面の笑みで異世界への扉の先へ消えた爺ちゃんは、今どこにいるのやら。元気に生きているのだと思うことにしている。

 常連のシャケさんという、四六時中お酒を飲んでいるおじさんと、爺ちゃんからの簡単な引継ぎノートでわからないことを調べたり聞いたりして、あっという間に二年が経った。


 引継ぎノートに書いてあったので俺の好きなように家をリフォームした。異世界からのゲスト達が滞在中のルールは、爺ちゃんの頃から変わらずそのままに。シャケさんからの助言だ。

「永くやってんだ。急にルールを変えるのはおすすめしねぇ。旅行会社や空港との連携もあるしな」

 異世界にも旅行会社や空港があるのかと聞いたら、俺がわかりやすい様に例えただけだと言われた。

「まあ俺からすれば、お前──大家の能力の方がわけわかんねぇけどな。上手い例えが出てこねぇから新参者に説明しづらいったらない」

「別に普通ですよ。この土地限定で情報掌握と物質操作と結界が張れるくらいなんで」

「それをこっちの世界では超能力って言うんじゃねぇか?」

「ここの敷地を出たら何にもできないんで、普通です」

「ははっ、そういうことにしてやるよ」

 シャケさんはグラスの酒をグイッと飲んでご機嫌に笑った。俺にとってこれは普通。

 家を新しく造り直した物質操作も、敷地外からの過干渉がないように結界を張る力も、防犯の為の敷地内の情報掌握も、ここを一歩出たら使えない。実家でもそうだった。

「で、俺の新しい部屋はどこなわけ?」

 ほぼ共有スペースで飲んだくれてるから部屋など必要ないと思うが、一応、常連さんで、人の姿をした異世界の存在。俺は廊下のドアを開けた。

「ご案内します」

「よろしく頼むぜぇ、新しい大家」

 シャケさんは空のグラスを掲げ、俺と一緒に共有スペースを出た。

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