03 つながるテレビ
チャンネルをガチャガチャ“回す”タイプのテレビのお話
電波にのってるのはどんな映像でしょうか?
こんにちは、田中きらりです
本日はリモートでお客様と打ち合わせです
準備万端でPC前に待機しています
今では遠方の方とネットを通じてやり取りするなんて当たり前になりました
どこにいても相手の姿や声を確認できる時代です
このリモートでやり取りする姿を見て思い出した情景があります
それはたしか小学生になりたての頃、祖母の家に行っていた時の話です
祖父はすでに亡くなっており、私の父や叔父達もそれぞれの家庭を持ち、祖母は1人で住んでいました
家は古く家具や家電も年季の入った物ばかりでした
父達は常々新しい物に買い替えを勧めてはいましたが「使い慣れた物の方が良いわ。思い出もいっぱいあるし今のままで十分よ。」と祖母が言っていたのを覚えています
私はその古い電化製品が好きでした
なんだかボタンは大きいし、スイッチはパチパチ操作できる、見慣れないレバーがあってワクワクしたものです
特に祖母が大事にしていたのがテレビでした
電源スイッチを入れるとブウンっと音が鳴り、画面がゆっくり明るくなってくる様子は自宅で観るテレビとは違うもののようでした
「テレビは良いわね。家に居てもいろいろな所に繋がるし、いろんな人に会えるから退屈しないわ。」
祖母は旅行が好きで興味を持った場所に直接行ったり、旅先で出会った方と交流するのも好きだったみたいです
それが晩年は足を悪くしてしまい近所の買い物へ行く位しか歩けなくなってしまいました
そんな祖母が外の世界とつながるのがテレビでした
祖母に会う度、どこどこに新しいショッピングセンターが出来たとか、今はあの遊園地でイベントやってるだとか、あそこの温泉は効能が良いとかテレビでやってた内容を話題にすることが多かったです
ある日祖母と話をしていると、話の情報源が「テレビで観た」から「◯◯さんが言っていた」と言う事がありました
知らない名前でしたが、テレビの出演者かご近所のどなたかだと思っていました
その日を境に「◯◯さんが言っていた」が増える様になりました
この事が少し気になりだした頃、祖母の家にまた遊びに来ました
玄関でチャイムを鳴らし「おばーちゃーん!遊びに来たよー!」と声をかけます
返事はありません
しかし、電気は点いており奥に人の気配はありました
祖母の部屋の方から人の喋る声も聞こえます
「おばーちゃーん。あがるよー!」
テレビを観ていて気づかなかったと思い再度呼びかけてから家に上がります
祖母の部屋に近づくにつれ話し声もより聞こえる様になります
「……さん、 ……うす……だね」
「ええ、会えるの楽しみにしているわ」
祖母は誰かと話しているかのように喋っていました
「おばあちゃん?誰かいるの?」
開きっぱなしの引き戸から祖母が見えます
祖母の前には誰もおらずテレビだけが点いています
「孫が来たみたい。また今度ね。」
私に気付き誰かに挨拶するみたいにテレビに手を振る祖母。そのままテレビのスイッチを切りましたがブラウン管のテレビって最後の画面がちょっと残るんです
そこには人の上半身がぼんやり映っていました
「おばあちゃん、テレビ観てたの?」
「ええ、お話出来るテレビ観てたの」
祖母の笑顔とよどみのない返事に何も言えなかった私はそれ以上何も聞けませんでした
祖母はその後すぐに亡くなってしまいました
家は売却されそのテレビも処分されたはずです
祖母は何を観たのか?何をテレビに喋りかけていたのか?
今になっては知る由もありません