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02 部屋の影

旅先で宿泊したホテルの一室


綺麗で明るいはずなのにどこか重い空気

光が当たっているのに部屋の隅が薄暗く感じる


そんな経験ございませんか?


今回はそんなお話

やっとの事で就職できた会社に唯一いる社員の月下先輩は優秀な方だと聞いていた


社長曰く

「営業成績はもちろん優秀だよ。それ以外にも幽霊に好かれちゃうって力があるだけだよ。彼自身は視えたりしない0霊感なんだけどね。」


幽霊を集めてしまうから幽【ユウ】集【シュウ】でもあるんだそうな

オヤジギャクかよ…笑えない


霊にも様々いるようで、先輩のそばに留まってくれる幽霊は先輩に力を貸してくれるらしい

霊能力者の家系らしくそういう能力なのだそう


その力のおかげでこの会社で働く幽霊さんがお一人いらっしゃいます

とてもデキる幽霊さんで事務から商品の発注に至るまで内勤業務をご担当されています

お名前は静夜(しずよ)さんです


先輩が会社説明も兼ねて彼女の事を紹介してくれている

先輩自身は彼女の事が視えないので、先輩が外出して会社が留守になる時にくるバイトさんとの認識のようだ


いやいや、めっちゃ隣にいる

すごい近くでこっち見てくる、圧強いな


「大まかな説明はこんなところかな。細かい部分は都度説明していくね。疑問に思った事があったら何でも聞いてね」

先輩の話は業務にシフトして続く

「社長から話があったと思うけど、早速お得意様の所に一緒に来てほしいんだよ。ちょっと遠方だから1泊での出張になるよ。」

「はい。聞いています。」

「ホテルの手配とかは静夜さんにお願いしたから連絡確認してみるね」


そう言って先輩はPCを見ている

一方、静代さんは私のデスクの引き出しを指差している

引き出しの中にはプリントアウトされた地図が1枚とホテルの詳細が書かれたメモが入っていた


「先輩、静代さんからの連絡いただいてました」

「さすが静代さんだね。仕事が早い。」


先輩の言葉に静代さんも嬉しそうにしている

幽霊だけど可愛いなとちょっと思ってしまった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

出張当日

お得意様でのプレゼンを終えてホテルへの帰り道


「今日は助かったよ。いつも1人で荷物運んだり準備したりで大変でさぁ。」

「お役に立てて良かったです」


先輩の運転する車内でプレゼンの振り返りをしながらホテルまでの道のりを走っている

少し街から離れた場所なのもあって周囲に灯りが少ない

街中とは違う雰囲気のせいで余計暗く感じる


「どうかした?疲れたか?」

気を遣って先輩が声をかけてくれる

「はい。初めての事ばっかりなので恐らく。」

「そしたら後ろの席に飲み物積んでるから飲んでみなよ」


信号待ちで停まった時に後部座席に振り返ると籠に入った瓶が複数見えた

そのうちの一本を手に取り表示をみてみる

【強炭酸水!しおサイダー】


「うちのお祖母ちゃんが言うには、疲れた時とか体が重く感じる時はそれが1番効いて嫌なものもふっ飛ぶんだってよ。確かに効果ある気がするから飲んでみてよ。」

「ありがとうございます。早速いただいても良いですか?」

「いいよ、いいよ」


どうぞどうぞとジェスチャー付きで勧めてくれる先輩を見てボトルを開けた

プシューと炭酸の吹き出す音がして塩の香りが車内を満たした

一口含むと炭酸の刺激と程よい塩分のおかげかなんだかスッキリした

「すごくスッキリしました!目の前のモヤモヤが晴れた気分です!」

「良かった。気に入ったんだったらもう1本持っていきなよ。尼ゾンで買えるからURLも送っておくね。」

「ありがとうございます」


しおサイダーをいただいてると今夜1泊するホテルに到着した

とてもお洒落で宿泊者向けのサービスも充実してる良いホテルだ

チェックインの手続きを済ませ部屋に向かうエレベーターに乗り込む

「オレの部屋702だから7階か。田中さんは?」

「私は803なので8階です」

「了解だよ」

行き先階のボタンを押してもらいエレベーターが動き出す

「ルームサービスとかもあるから好きなもの頼んで、今夜はゆっくりすると良いよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、また明日。お疲れ様ー」

「お疲れ様でした」


先輩に挨拶し自分の部屋へと向かう

カードキーでドアのロックを解除し中へと入る

入口すぐのカードキー受けにキーを差し込むと部屋の灯りが一気に点いた


部屋は清掃が行き届いていて綺麗で、セミダブルのベッドとその横に小さなテーブルとソファが配置されている

お風呂とトイレは別になっていてゆったり湯船につかれる仕様になっていた


「ルームサービスも気になるけどやっぱり先に汗流そう」

少し回復したものの疲れを取りたくて先にお風呂の準備をする


準備をしていて気になる点があった


部屋の天井に大きな照明が1つ、ベッドサイドにスタンドタイプの照明が1つある

また、天井の四隅からダウンライトが照らしている


なのに部屋の1箇所が明らかに暗い


目の錯覚? 物の配置で暗くなる? 

いや、違う

大人1人がうずくまっている位のスペースに黒いモヤがかかっている様に視える


モヤを観察しているとだんだんと輪郭が視えてきた

私と同じ位の背丈、線の細さ、骨格の感じから女の人っぽい

ずっと俯いて斜め下を見ている

しかも何かブツブツ言っている


少し距離があるせいで聞き取れない

「なんて言ってるんだろう…?」


ふと一言発したところで黒いモヤはすーっと消えてしまった

部屋の中をキョロキョロと見回してもどこにもいなくなった


「消えしまった。結局アレは何だったのかな?」

考えてもわからず、お風呂の準備をしていたのを思い出し浴室のドアを開けた


ドアを開けて後悔した…

いるじゃん、私の真後ろに…


脱衣場にある洗面台の大きな鏡に映る私

その後ろにピッタリくっつく黒い人影

黒い人影と鏡越しで目が合った


「お前が邪魔だって言ったんだよ!!」


黒い人影が強い剣幕で詰め寄ってくる


「このホテルにすっごいキラキラした男が入ってくるの見えて良い気分でずっと追ってたのに、なんかうるさい女が入ってきてずっと視てくるから邪魔なんだよ!」


あぁーこれも先輩絡みかー

確かに下の階の先輩の部屋の方に向いてたもんねー

私も初の出張で浮かれてうるさかったし


「すいません、お邪魔しちゃって。大人しくしてるので存分にご堪能ください。先輩って視えない人なんでずっと見てても気付かれませんよ。」


私の一言を聞いて一層声を荒げて迫ってくる


「先輩!?あんたあの人の知り合いだって言うの?視えない私より一緒にいる自分ってマウント取ってるつもり?」


しまった、火に油注いじゃったか


さらに黒い影に詰め寄られ壁際に押し付けられていく

押された拍子に足元の荷物に躓き転んでしまった

床に転がされた私に黒い影が覆いかぶさってくる


これはどうすれば?

今にも飲み込まれそうな状況だ

何かないかと焦る私に倒した荷物の中にあるものが視界に入った


アレだ! 直感的に体が動き手を伸ばす


先輩にもらったしおサイダーの瓶を手に取り即座にキャップを捻った


プシューーーーー!


勢い良く吹き出す炭酸と塩の香り

「きゃーーーーー!」と叫ぶ幽霊

叫んだ後、幽霊はその場にへたり込んでいる


炭酸の吹き出しが落ち着いたところで幽霊もゆっくりと動き出した


「長い事この部屋から出ることも出来ず、誰にも気付かれないままなのが辛くて。ずっとそう思っていたらいつの間にか黒い影になってしまっていました。ご迷惑おかけしてすみません。」

さっきとは打って変わって影も晴れて人の表情が見て取れる

とても申し訳なさそうな表情をしている


「いえ、落ち着かれたみたいで良かったです」

立ち上がりこちらも落ち着いて声をかける


「本当にすみませんでした。あとは部屋の隅で大人しくしているのでごゆっくりなさってください。」


「出ていってくれるんじゃ無いんですね」なんて口が裂けても言えないが、落ち着いている様なのでもう我慢することにした

幽霊さんは部屋の隅でたたずんでいる

その一角がまた暗くぼやけて視えるがもう気にしない


部屋に静けさが戻っていたところにスマホの着信音が鳴った

先輩からのメッセージのようだ


『しおサイダーのURL送るね』そのメッセージと共にリンクが貼ってあった


私は即箱買いしたのだった

今回の登場人物


田中きらり

新卒の新入社員

霊が視える人

霊を引き寄せる先輩の力でより強く視える様になった気がする

メンタルそこそこ強め


月下蛍

先輩社員

霊能力者の家系に生まれるが本人は全く霊感が無く幽霊を全く信じていない

幽霊を引き寄せ力を借りられる能力をもつ


静夜さん

月下に憑く幽霊さん

事務能力高めで会社の内勤担当


しおサイダー

大手通販サイトAma◯onではなく尼ゾンで売ってるサイダー

お祖母ちゃんオススメ

強炭酸

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