興奮は隠せない
ーーこの世界には、感情を力に変える能力者が存在している。
怒り、恐怖、喜び、悲しみ…人間が抱える様々な感情は、それぞれ力となる。能力者たちはその力を使って、戦闘や治療、開発など、さまざまな分野で活躍していた。
能力者が集まる組織は数多く存在する、その中でもエモルフォースは、強大な力を持つ組織の一つとして広く知られていた。
僕、月乃藍は、そのエモルフォースに強く憧れてる。
僕の夢は、いつかエモルフォースの戦闘部隊に所属すること。でも、そのためには強力な能力が必要。
だけど、僕には能力なんてない。ただの無能力者。感情を力に変えることなんてできない。だから、周りの能力者たちのように戦うことはできない。
だから、僕は今、治療部隊を目指している。
戦闘はできなくても、人を助けることならできるかもしれない!でも——心のどこかでは、ずっと「いつかは戦闘部隊に入りたい」と願っている。
エモルフォースには、様々な能力者が集まっている。組織は戦闘部隊、治療部隊、開発部隊など、いくつかの部門に分かれている。
僕がエモルフォースに憧れた理由は、その力強さだけじゃない。彼らは仲間のために戦い、守り、支え合っている。その姿に、僕は心から感動した。
「エモルフォース……僕も、みんなを守れるような存在になりたい」
だけど、能力のない僕にとって、その道は遠くて、厳しいものだ。
それでも僕は諦めなかった。
——そんなある日。
町の外れで、突然襲撃を受けた、能力者だ。
男の目は怖くて、無慈悲に僕へ攻撃をしてくる。
「なんで無能力者なんかが……!」
男は呟く。
僕は必死に逃げようとしたが、相手の力に押され、体が動かない。
「ぁ……こんなところで……?」
痛みが全身を襲い、身体が震える。涙が滲む、
だけど——僕は心の中で叫んだ。
「まだ、僕は……!」
トドメを刺される、その瞬間——
「そこの子供、動くな!」
突如、僕の目の前に現れたのは、有名なエモルフォース開発部隊の亜瞳さんと戦闘部隊の兎羽さんだった。
亜瞳さんは状況を瞬時に把握し、僕を庇うように立つ。兎羽さんは冷静に戦況を見極め、すぐに戦闘の準備を整えている。
「行こう、兎羽!」
亜瞳さんの指示で、兎羽さんが瞬時に動く。
彼女の能力、「冷静」を活かし、敵の攻撃を回避しながら、的確に反撃を加える。その間に、亜瞳さんは圧倒的な力で敵の動きを封じ込めていく。
僕はその光景を目の当たりにして、ただただ圧倒されていた。
亜瞳さんの鋭い戦闘能力、兎羽さんの冷静な判断力…
二人の連携は圧倒的だった、
「すごい……!」
心が震えた。
憧れの人たちが目の前で戦っている。僕も——あんな風に戦いたい。あんな風に強くなりたい。
その瞬間——敵の能力が強化された。
「……っ! こいつ!」
亜瞳さんが攻撃の手を止める。
兎羽さんは冷静に状況を分析し、呟いた。
「なるほど……判断を誤ったね」
僕もその異変に気づいた。
敵の能力は——「焦燥」だ。
その時、僕の中で何かが弾けた。
熱い
体の奥から、何かが湧き上がる
止まらない。止められない
——興奮が……止まらない。
僕は——走り出していた。
敵に向かって、全力で。
ズドンッ!!!
敵は壁に叩きつけられた。
僕が……殴ったのか?
「っ……!」
亜瞳さんと兎羽さんは、僕の姿を呆然と見ていた。
その瞬間
力が、抜けた。
体が、ガクンと崩れる。
「……っ!!」
視界が暗くなる。
目の前には、心配そうな顔をした亜瞳さんと兎羽さん。
意識は、深い闇に引きずり込まれていった…………
——目を覚ますと、見知らぬ天井があった。
傍には、亜瞳さんが座っている。
周りには、治療器具が並んでいた。
「……ここは?」
僕が戸惑っていると、亜瞳さんが息をついて言った。
「ここはエモルフォースの医務室だよ」
エモルフォース……?
「君の力、素晴らしい。でも、まだ制御が効いていないね。訓練が必要だ。」
僕は黙って頷いた。
あの時、僕は……暴走した。
こんな状態じゃ、戦闘部隊なんて夢のまた夢だ。
力を制御しなければ。そう思った、その時——
「すまないが、君はエモルフォースで少し暮らして行くことになる。」
静かな医務室に、その声だけが響く。
「え?」
思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。