第十一話:痴話ゲンカは見ていてイライラするのに姉妹ゲンカはそうならない。なぜ?
「先ほどは私どもの失態のせいでご貴重な御時間を費やしてしまい大変申し訳ございませんでした。
私はこのワガママむす…、いえマリア様の専属メイドにされてしま…、いえ専属メイドをさせていただいております、カナリア・ビィ・アントワネットと申します。
今後なにかとマリア様がお世話に色々とお世話になると思いますが、マリア様ともども以後お見知り置きを。」
白と黒のエプロンドレス、通称メイド服を身に纏った金髪碧眼美少女は微笑みながら上記のような、なかなか個性的な自己紹介をしてくれた。
鳳凰院さんが憂いを帯びた顔で通信機(後で聞いた説明では衛星電話兼GPS兼ケータイらしい)での連絡を終えてからしばらく微妙な空気が流れていたけどノック音がしてカナリア・ビィ・アントワネットさんが入ってきて上記のあいさつをしたわけです。
説明終了。
「それでカナ、あとどのくらいで夕食が出来上がるのかしら?」
鳳凰院さんは笑みを引きずりながらつい今し方聞いた言葉を繰り返す。
「うるさいアマですわね。第一晩飯の支度ならもうとっくの昔に出来ていますよ。
いつもは準備が出来ていようと出来ていまいとズカズカと給仕室に入ってきては食事が取れないほどつまみ食いをしては勝手に満足してそのまま帰っていくくせに何を偉そうに……。」
「うるさいわよ、カナ!!それに『アマ』なんて下種な言葉を使わないでくれるかしら。
お客様がいらっしゃるのだから余計なことは言わなくていいのよ!!
それにあれよ、……私は使用人や家族関係なしに隔たりなく接するのが私のポリシーですから。」
「本当にあなた外面だけはひた向きに隠そうとするわよね。
それに何が『私は使用人や家族に関係なしに隔たりなく接するのが私のポリシー』よ。
笑っちゃうわ。
この前、七菜ちゃんがあなたのケータイの待ち受けが彼だったのを見られてクビだと騒いだくせに。」
「余計なことは言わなくていいのよ、バカナぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「何がバカナよ。勝手に名前をいじるのやめなさい。第一それいつから使ってんのよ。」
そんな鳳凰院さんとアントワネットさんの会話(ショートコントと言ってもあながち間違いではないと思われる)を観戦(もう既にコントとして認識中)していた僕と僕の頭を撫でている流華姉(膝枕はいまだ継続中。羞恥心なんてものは自我が芽生える前に粗大ごみにでも出したと思う)はそんな二人の姿を見て思い思いのことを口にする。
「なんかあの二人って仲の良い姉妹みたいだよね」
「なんだか、あのお二方とっても仲良しの姉妹みたいに見えますねぇ~」
姉弟そろって同じ思考をしているみたいに似たり寄ったりな言葉を聞いて思わず笑ってしまった。
それが妙に気恥しくなってしまった僕はゲストルームⅣ(これ以上先がないことを切に願う)を見渡してみる。
ベージュを基調とした西洋風の造り、審美眼のない俺でも高価だろうと容易に想像のつくアンティーク調の家具がいくつも並んでおり、この部屋を作った人間のセンスの良さが伺える。
なんて偉そうなことを考えていると言い争いは終わったらしく、妙にやつれた顔の鳳凰院さんと清々しいを具現したような顔のアントワネットさんがこちらを見ている。
「そこ!!姉の膝枕で悦に入っていないでさっさと食堂に行きますわよ!!」
と何やら不機嫌そうな鳳凰院さん。と
「まったく、血の繋がった姉にまで嫉妬するなんて…。
それでも本当にあの誇り高き鳳凰家の長女なのかしら…。
…いは盲目って言うけど、無能に成られても困るのですがねぇ。」
と呆れ半分、諦め半分の表情で溜め息をついた。
――ええっと、仲良く口げんかするのはいいんだけど、お腹空きました……。
僕の心の叫びは届くことなく、代わりにお腹の虫が鳴ったのでした。