第1話 パーティー解散!
毎日掲載します!
だいたい1ヶ月くらいで完結する予定です。
もしよかったらお付き合いください。
街道沿いの宿場町、その宿屋の前では人々が忙しなく行き交っている。
朝日も昇り、朝食を終え、それぞれの目的地に向かって出発する時間だ。
冒険者や行商の集団、あるいはさすらう個人が街道を進んでいた。
そんな中、四人組の一団が同じく宿屋から出てきた。
男一人、女三人、見るからに冒険者といった装いだ。
「じゃあ、話した通り、ここでパーティは解散とする!」
パーティー唯一の男がそう宣言した。
少年と言うにはいささか年を取り、青年と言うには少々若い。そんな狭間の期間特有の闊達さを持つ男だ。
腰には割と値が張りそうな上物の剣を帯び、着込む鎧も中々の業物だ。
若さに似合わず充実した装備をしており、かなりの場数を踏んだであろう事は見る者が見ればすぐに分かる。
「名残惜しいけど、仕方ないわよね~。まあ、気を付けてね!」
「我らが勇者様に神の御加護があらん事を。神の御導きにより、試練もまた、乗り越えられる事でしょう」
「なぁ~にを言っとるのじゃ。これから勇者になりに行くのであって、まだこやつは勇者“志望”の一剣士じゃて」
三者三様の言葉。他の三人の女性も名残惜しそうに別れを述べた。
同じ里から旅立った武闘家の少女、とある教団の教祖の娘の神官、幾百年の時を過ごしたエルフの魔術師、掛替えのない旅仲間だ。
だが、今日この瞬間、パーティーは解散する。
どうしてもそうしなくてはならない理由があるからだ。
「なぁに、試練なんてちょちょいのちょいで片付けてくるさ。すぐに“志望”の文字は消え去って、ガチな勇者になって戻って来るさ」
「お~お~強気な事じゃのう。まあ、せいぜい励むと良い。人は寿命が短いゆえ、短いなりに濃い歩みを求められるからのう」
そう言って、魔術師は袋を一つ、剣士に差し出した。
「錬成が間に合った分の薬じゃ。ワシや神官と離れて行動する分、回復や強化はこいつ頼りとなろう。気を付けて行ってこい」
「ありがとう。いざと言う時には使わせてもらう」
剣士は袋を受け取り、自分より頭二つは小さいエルフの魔術師に笑顔を向けた。
今生の別れにするつもりはないが、それでも一人で赴くのには不安がある。
そんな剣士を慮ってか、神官がその首に護符を取り付けた。
「聖なる力を込めた護りです。きっとあなたを守るでしょう」
「そんなに信心深くはないけれど、神様には感謝しとくよ」
剣士は首飾り状の護符を指でなぞり、神官に笑みで返した。
「よぉ~し、んじゃ、あたしは折角だし、ちゅぅ~でもしちゃおうかな」
「いや、結構だ」
剣士は幼馴染みの武闘家からの申し出をきっぱりと断ったが、彼女は頬を膨らませて睨んできた。
「受け取れよ、そこは! 据え膳食わぬはって言葉を知らないの!?」
「お前、料理下手だろ」
「そういう意味じゃなくて! わざと言ってるでしょ!?」
武闘家は顔を真っ赤にして抗議するが、他三名は周囲に聞こえるくらいに大声で笑った。
いつもこんな感じのパーティだ。
実に居心地の良い空間であり、気の知れた仲間と過ごす時間は何よりも楽しい。
しかし、それが試練を受ける身には妨げでしかない。
「気持ちが萎えるのは勘弁だ。そろそろ行く。またな!」
「こら! 水と食料はちゃんと持ってきなさい!」
「へいへい。んじゃな!」
剣士は水筒や背嚢を背負った。
そして、武闘家の頭を乱雑に撫で回し、髪をクシャクシャにすると、逃げるように街道を小走りで去っていった。
武闘家はその後ろ姿が見えなくなるまであれこれ叫んだが、それもまた人々の行き交う街道の喧騒にかき消された。
「青春ですね~」
「青春じゃのう」
神官と魔術師もまた人の流れに消えていった剣士の方をジッと見つめた。
三人の願いはただ一つ。剣士が"勇者の試練”を乗り越えて、無事に帰って来る事だけだ。
~ 第2話に続く ~