無職の兄貴を殴った瞬間世界が変わる!!!
なんか出来ちゃった。
作者自身よくわかっておりません。
読んでくれたら嬉しいです。
「お前、知ってるか?」
「何がだ?」
勉強机で宿題をしていると、2歳上の兄貴に脈絡もなく問いかけられて煩わしそうに返した。
何か理由があるのかもしれないが兄貴は無職をしている。そのため僕は人一倍勉学に励んで大手企業会社に入り、お母さんお父さん兄貴のために頑張らなくてはいけない。
家で引き篭もってるだけでもうんざりとするのに、深夜という貴重な勉学に励む時間帯に邪魔しないで欲しい。
(兄貴は両親が死んで僕が家から居なくなったらどうするつもりなんだろう?)
ふと脳裏に万引きする兄貴の悪い顔が浮かび、警察署で警察官に何度も頭を下げる自分自身が容易く思い描けてしまった。
まるでそのENDしか残されていないかのような想像に、ルーズリーフを破り捨てるが如くビリビリにした。
学校で勉強家でも宿題と復習を欠かさずしていて、脳が疲れすぎてるかもしれない。
だからこそこんなネガティブな想像ばかりしてしまうんだろう。
「人が悪魔になるんだ」
俺の嘆息を他所にどうしようもない兄貴が話を続けて、大木くらいあるような両足を内側に折り曲げて胡坐を掻いた。
兄貴の重量で2段ベッドが悲鳴を上げて、部屋全体に埃が舞う。
(つうかさ……どうして俺と兄貴が一緒の部屋を使ってるわけ? これもおかしいよね!!!)
漫画を読むのもゲームをするのもネットサーフィンするのも飽きた兄貴の行き着く場所なんて考えられると思うけど? ノミが巨大化したような男なんだぞ? そりゃあ……俺に対する嫌がらせに転じますわな!!!
こういう時だけ幸せそうな顔しやがって……大型ゴミが!!!
「人が悪魔になるんだって!!! すげーよな!!!」
「二次元に現実逃避?」
「違うって!!! これガチなんだって!!! マジのガチなんだって!!! 中学生の女の子ばかり狙われてるんだって!!!」
「シロアリのようなお前でも警察に通報するぐらいはできっだろう?」
それはただの変質者だ!!! そもそも中学生の女の子が狙われてるのに昂奮しているお前にドン引きする!!!
あっ……こいつに対してドン引きなら毎日のようにしているな……だったら意味ないか……
「兄貴をお前呼ばわりとか……」
「働かざるもの食うべからず、うちのお母さんが優しすぎるんだよ」
「酷い……酷い……酷い弟をもったものだ!!!」
「閻魔様か輪廻転生を仕切ってる神か? そいつらに苦情出したらお前抹消されんの?」
「うわわわわん……あんまりだぁぁぁぁ……」
「泣くな気持ち悪い……泣くぐらいならさっさと仕事探してきてくれ……工事現場辺りなら雇ってくれんだろう……」
「あんなに……あんなにお兄ちゃんって……敬ってくれたのに……」
「嫌々だよ糞兄貴!!! 足をモジモジとするな人差し指を噛むな!!! 気持ち悪い目を俺に向けてくるなっっっ!!!」
甘えてくる彼女のような仕草に、俺の堪忍袋の緒がブチッと切れてしまった。
ヒッと声を詰まらせる糞兄貴のトレーナーを掴むと、ニキビだらけの右頬に向かって渾身の1発を叩き込む。
「うぜーんだよ!!! うぜーんだよ!!! 死にやがれ死にやがれ!!!」
視界を怒りと返り血に真っ赤にしながら、意識を失うまで殴ることを止めなかった―――
♦♦♦
ピンポーン
夜の10時丁度だった。
こんな時間帯に誰だと、湯呑でお茶を啜っていた父親が憤慨する。
炊事場で皿を洗っていたパーマの母親は、アルバイトと変わらない低収入のクセにと迷惑そうに眉間に皺を寄せる。
お父さんの性格が遺伝したんだわと、無職のニート兄にうんざりとする。
私達家族の希望は優秀な弟に向けられており、何もかも背負い込ませていることにちょっぴりの罪悪感を覚えていた。
低収入のクセにマンションだけは立派なものがいいと夫が駄々をこねるものだから、7万円弱の1LDKに暮らしている。
(どれだけお金を切り詰めてると思ってるの? ビールを飲むあんたの顔が憎たらしい……)
いっそのこと離婚してやろうかとも思ったが、夫には弱みを握られていた。
2年前に夫に嫌気が差して不倫したことがあり、ラブホテルに入る写真だけじゃなくベッドシーンの写真も撮られているのだ。
淫らな貌でプロレスに浸ってる姿がバッチリと撮られていて肝が冷えた。
きっと不倫を持ち出せば、あの頃の写真をネットに晒すとか言うに決まってる!!! 性根腐ってる夫はそういうことばかり頭の回転が早い。
(鳥籠の中に居る青い鳥ね……何か何か打つ手はないかな……)
人差し指で頬っぺたを突きながら、頭を悩ませる。
何か私が手を下さなくても……他人の誰かが……そう殺人鬼とかゾンビとか結婚を妬ましく思ってる勢がしてくれないかしら?
流石に殺してとまでは言わないけど……
ピンポーン、ピンポーン
「ちょっとあなた非常識なんじゃないの?」
昔は括れていたが今では贅肉だらけで丸くなった腰に手を添えながら、眼光を鋭くし玄関ドアの内鍵を開いた。
すると醜く肥えた得体の知れない存在が体当たりしてきた。
「キャフーン」
ぶっ飛ばされた私は壁に背中をぶつけて、血のりを垂らしながら内股で尻餅を付く。
その一撃で全身の骨が砕けて、後悔するよりも早くに死んでしまった。
玄関に居た醜い物体は廊下に上がり、死んだ私をスルーして夫が居るリビングの方に向かう。
床には緑の粘液が垂れていて、ブクッブクッと気泡になっていた。
♦♦♦♦
「なんだお前は? あぎゃあああああああ!!!」
考える能力はなく、焦ってガタッと椅子から立ち上がった俺を問答無用で壁に叩きつける。
クルックルッと全身がそのえげつないパワーに回転し、壁に叩きつけられると同時に内臓が圧搾した。
視界が真っ赤な血に染まり、数秒も持たずに地獄のかまどに落とされてしまった。
(なんだあいつは? ああつい……ななんてあつさだ……あついあついあつい!!!)
ツルツルの頭部に1本の角を生やした鬼に、三叉槍で押さえつけられた。
口には出さないが、何百度近くあるかまどに肩まで浸かれと怒ってるかのようだ。
(ここから出せぇぇぇ、出してくれぇぇぇぇ、おおれがいったい何をしたっていうんだ……)
♢♢♢♢
「アルジ……アルジ……アルジガ……クソ弟にコロサレソウニナッテル……」
決して速いとは言えない速度で1LDKの床を這いずりながら、今も殴られ続けている主の下に向かう。
いつ自分がこの現世に生まれたのかわからない、気付いた時には何処か見知らぬ路地裏に居て主を助け出すようにとこれまた得体の知れない誰かさんに言われたのだ。
その得体の知れない誰かは、私の主だったのかもしれない。無職だとシロアリだと罵られ殴られている可哀想なご主人様かもしれない。
「ハヤクタスケテ……ブッコロシテ……チマツリニシテ……アルジにアルジサマに……アタマヲ……ヨシヨシト……」
何もわかっていない弟に思い知らせてやろう。
この物語は知ることも気付くことも不可能である。
私と主様の中で完結している物語、私と主様しか知らない物語。
それ以外の他者は受け付けない!!! 故にこの物語に始まりも終わりも存在しない!!!
「コノ物語ノ終ワリハ……アルジサマがエガイテクレル……黒をヨリ引き立たせる……」
私の存在は知らない。
知らなくてもどうってこともない。
私は主様のお手伝いさんでいいじゃないか、それ以外に何がある? 私自身を認めさせることに意味なんてない!!!
引き立てる役ってそういうものじゃないか……主様が、いやっ王様が輝いてくれるならそれだけでいい!!!
だからぶっ潰す!!!!!!
「主様が……ボコられてる部屋……見つけた……」
―――人が悪魔になるんだって!!! すげーよな!!! 人が悪魔になるんだって!!! すげーよな!!! 人が悪魔になるんだって―――
「すげーよな……」
扉を吹き飛ばし、血だらけの海に足を踏み入れた―――